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タイヤ電池®ができるまで ~How Tire Denchi ®are made~

皆さん、ごきげんよう。
Bitter Orange Radio、東京担当の橘ねろりです。

さて、
皆さんは、いつかチャンスがあればやってみたいと思っていることは、
何かありますか?
私の場合は、日常生活のなかで、“ありそうでなかったもの”を「発明」することです。

ささやかながらも、人生に一度でもそんなことができたなら―、
と期待を胸に秘めていましたが、
いまだにそんな夢が叶ったことはありません…。

「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」
これは、アメリカの発明家、トーマス・エジソンの言葉です。

何かに行き詰まったときや、くじけそうなとき、どんな場面でも勇気をもらえる名言ですよね。
発明家の言葉には、その研究にかけたとてつもない苦労が、短い言葉のなかにもにじみ出ています。

そもそも「発明」とは、特許法ではこんな風に定義されています。
「発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度のものをいう」

定義の内容を聞くと小難しくて分かりにくいものですが、
要するに、この世に初めて生み出された「創作」であり、さらに「高度なもの」であること、という決まりごとがあるようです。

なかなかハードルが高そうですが、
ライターの仕事を行うなかで、そんな高度な発明を成功させ、国内外の特許を取った方とお話しさせていただく機会をいただきました。

その「発明」とは、「タイヤ電池®」です。

「タイヤ電池®」とは、株式会社ルネシスの山﨑貞充代表が開発した廃タイヤをリサイクルしてつくる次世代の電池。
この新しいタイプの電池を紹介するホームページ制作を担当したのが、弊社、株式会社No.1デジタルソリューションです。
担当ライターとなった私は、今回、山﨑代表にタイヤ電池®についてインタビューをさせていただきました。

ドイツ生まれの理論物理学者、アルバート・アインシュタインは、こうも言いました。
「失敗したことのない人間というのは、挑戦をしたことのない人間である」と。

挑戦をしなければ、失敗すらできない、
そして成功に向かうためには、まずは挑戦をしないと始まらない、というわけです。

さて、「タイヤ電池®」の開発には、いったいどんな挑戦と苦労があったのでしょうか。
これからの未来のエネルギーと、世界のエネルギーの常識を変える画期的な「タイヤ電池®」。発明秘話から今後の活用まで、その驚きの技術と機能をご紹介いたします。


1. タイヤ電池®って、いったい何? 
 ~What is the Tire Denchi ®?

「タイヤ+電池」という不思議な名称ですが、これは廃タイヤを原料にしてつくった世界初の「蓄電池」です。
日本国内の使用済みタイヤの年間排出量は、約100万トンにも上るそうですが、このような廃タイヤから蓄電池の電極素材を製造することに成功し、製品化されることになったのが「タイヤ電池®」です。
使用済みタイヤは通常は廃棄物処理され、約30%は再生ゴムなどのリサイクル品となり、約60%は工場などの熱エネルギー源として利用されています。
そして残りの10%の廃タイヤを「タイヤ電池®」の原料や加工エネルギーとして活用することで、資源循環型社会を実現しようという夢のあるお話なのです。

廃タイヤ
タイヤ電池®の原料

2. タイヤ電池®が生まれたきっかけ
 ~The inception of the Tire Denchi ®~

2009年から3年ほどにわたり、山﨑代表が廃タイヤの加熱分解処理プラントをつくるプロジェクトに関わっていたときのこと―。
加熱分解処理を行う過程で、原料の廃タイヤからガスや油が採取できますが、残渣物である炭素を価値あるものに変えられないか、と思ったことがタイヤ電池®の発想を生むきっかけとなりました。

山﨑代表は、地元の佐賀県に戻り、2012年より廃タイヤから採れた炭素を電池に変える方法に取り組みだします。なんとこの開発は全て独学。誰の力も借りずに、自宅でひたすら実験をする日々が始まりました。

タイヤから出る油の中にはたくさんの硫黄分が含まれます。それはタイヤを製造するときに硫黄を入れるからなのですが、この硫黄を燃やして除去しようとすると大気汚染になってしまいます。
そのため、まずはタイヤから硫黄を取る方法を研究しました。硫黄は炭素の中にも含まれています。研究の結果、硫黄を取ることに成功します。

ところが、ふと、タイヤの中の硫黄を取らずに有効利用できないものか、と思い始めます。将来的に電池の中に硫黄分が含まれていると、容量の高い電池になるという論文を見つけたことがヒントになりました。
そこで硫黄を残しておくことで、そのまま有効利用できるのではないのか、という考えに至ります。

電池をゼロから勉強すると、負極材に炭素が使われることと、将来的に硫黄が活躍することが分かってきたので、両方の邪魔者を活用した電池づくりに挑戦することにしたのです。

その後の実験により、1年も経たないうちに、硫黄が含まれた正極材が完成しました。本当に電池として動くのか、山﨑代表は、大阪にあるラボに持ち込んで調べてもらいます。
ラボでは、「タイヤから電池なんてできるのか?」と半信半疑の反応でしたが、持ち込んだ正極材に対し、負極にリチウム金属を用いたコインセル電池をつくって調べてもらうと、なんとコインセルが見事に電池として動き出したのです。
当然、ラボのスタッフも驚き、お互いにわけが分からなくなるほど興奮したといいます。

ラボの方から、これは高度な発明品だから特許を出した方がいい、と背中を押され、2013年に廃タイヤを原料とした電池の正極材の開発として特許を出願・登録します。
この特許はすでに世界18カ国で出願・登録されています。

3. 独学・研究の苦節6年を経て、正極・負極が完成!
 ~After six years of research, the cathode and anode were completed!

さて、今度は負極材の研究です。
廃タイヤの炭素から負極材をつくるには、炭素の純度を上げないといけません。それをどういう構造にすればできるのかは、また独学で学びながら研究していきます。手こずりながらも、結果的に廃タイヤの炭素による負極材をつくることに成功しました。

ここまでの経緯で、正極材と負極材を用意することができましたが、それだけでは電池は動きません。電池の電極の中にイオンが含有されていないと動かないからです。電池の内部では、そのイオンが充電時に負極へ移動し、放電時に正極へと移動します。

このリチウムイオンをタイヤ電池®に入れることに成功するのは、2019年のこと。
それまでの2013~2019年の6年間は、中途半端に電池を勉強したことが原因で、試行錯誤に苦しみます。
山﨑代表は、「無駄な6年間を費やした」と語っています。

一般的にリチウムイオン電池の構造として、負極材に炭素系材料が使われる場合は、正極材にはリチウムを含む材料が使われます。
正極と負極の間には電解液があり、負極の炭素から放出されたリチウムイオンが正極に移動し、そのときに電子が回路を通って正極から負極に移動するため、電力を使用することができるという仕組みです。

正極材をつくる原料にリチウム酸化物を使うのは、リチウム単体で入れると燃えてしまうため、炭酸リチウムや水酸化リチウムなど、合成していることで安定化している物質を入れます。その炭酸リチウムや水酸化リチウムを原料として使う場合、900℃以上の熱が必要です。
しかし、この知識が邪魔をして、6年間を無駄な研究に費やしてしまったのです。

正極材にリチウム酸化物を低い温度では入れられないと思っていたため、6年間も高温で扱う研究ばかりしていましたが、なかなか進歩せずに行き詰まっていました。
そんな2019年のある日、「無理だと思ってやったことがなかったことをやってみよう」と思い立ち、温度を半分以下にして実験してみることにしました。
「こんな低い温度では、リチウム酸化物からリチウムが外れて新たな正極材としてのリチウム化合物はできないだろう」
と思いながらも、またコインセルに入れてラボで調べてみると、なんと電池として動いたのです。
結果、低い温度でもタイヤ電池の正極材にリチウムが新しい形となって含有されていくことが判明しました。

そこで、リチウムだけでなく、ほかのナトリウムやマグネシウム、カルシウムなどの物質でもイオンとしての役割が可能であるのか、実験してみることにしました。水酸化ナトリウムを活用してナトリウムイオンを試してみると、やはり電池として動いたのです。
そこで、水酸化マグネシウムや他の化合物でも試してみると、それぞれの物質でイオンの活用に成功。これにより、レアメタルであるリチウムをわざわざ利用するということをやめることにしました。
それは2020年1月のことでした。

4. 新たなイオン素材を発見! そして燃えない電池の開発へ
~Development of new ionic materials and batteries that do not burn

ここで、タイヤ電池®のステージが大きく変わります。
今までは、ラボのスタッフたちの間でも、「廃タイヤで電池がつくれたら面白いよね」というくらいの期待度でしたが、ここからは「廃タイヤから本当に電池がつくれるんだ」という確信へと変わっていきます。
自動車の廃タイヤ4本分の重量が合計で40㎏ならば、約8㎏の負極材と約12㎏の正極材が製造できるという計算です。

そこで山﨑代表は、イオンの材料も身近にあるもので活用できるか、実験していくことにしました。洗剤からナトリウムイオンを、卵の殻からカルシウムイオンを、他にも植物原料の灰や、伐採した庭木の枝など、さまざまなもので実験して、電池に利用できるイオンを探しました。結果は見事に身近な素材から取ったナトリウム、カルシウム、マグネシウムなどがイオンとして活用できることが分かりました。

卵の殻(正極材)
楠木(正極材)


つまり、廃タイヤで正極・負極をつくれるだけでなく、リチウムに代わるイオン素材も洗剤や卵の殻、庭木の枝など、身近なものでつくることができるということが判明したのです。
この実験の成功により、身近な材料を使ってイオンをつくる方法も特許を取得するべく、国内外で出願・登録を行っていきます。

ここまで数々の実験を行ってきたところで、2020年は燃えやすい素材の電池から、燃えない素材でつくる電池へとシフトチェンジします。
正極と負極の材料は、廃タイヤの炭素を原料としているので燃えます。さらにリチウムイオンの電解液が燃えやすいため、発火トラブルが多いことも良く知られた事実です。

そこで今度は電解液そのものの研究に入っていきます。
電池業界でも燃えない素材が追求されていくなかで、燃えない電解液が開発されました。電池メーカーではその素材を添加剤として使いますが、タイヤ電池®ではそのまま電解液として使用することにして、燃えない電池を可能としました。

5. 遂に完成! タイヤ電池®!
 ~The Tire Denchi ® finally completed!

「廃棄物や身近な素材で電池をつくる+燃えない」、というテーマに則って、タイヤ電池®は研究・開発されました。
タイヤ電池®の形は、ラミネートパウチセル。セルは、1枚1枚並べていきますが、大きな電力を制御するためには数千枚~1万枚くらいのセルをつなげていきます。これはパッケージ化されており、専用の回路が設定されることで、初めて製品として機能します。

タイヤ電池®のラミネートパウチセル


例えば街路灯にタイヤ電池®を搭載する場合、街路灯の照明や防犯カメラなどを動かすための専用の回路をセットし、タイヤ電池®入りの街路灯として商品販売が可能です。

現在、タイヤ電池®は、日本のトップクラスの商社や、素材メーカー、電気設備会社など、十数社の企業が協賛しています。
世界にまだ存在していない、日本で発明されたばかりのタイヤ電池®は、2024年7月から、協賛企業と共に世界各国に向けて産業化を目指していきます。 

ラボの様子

そもそも山﨑代表が独学でタイヤ電池®を発明できたのはなぜなのでしょうか。
そこには、趣味として行っていた植物のエッセンシャルオイルづくりの技法がベースにあったと言います。
アロマオイルのオイルづくりには、水蒸気蒸留法や圧搾法などがありますが、その過程で行う技術がヒントになりました。

タイヤは天然ゴムなど、そもそも植物からできているため、タイヤ自体を植物という見方をしてアイデアを出しています。
ある大手タイヤメーカーも、ロシアタンポポからゴムを抽出する方法を開発しています。
つまり、再生可能な資源を植物をベースにして考えていくならば、天然ゴムからつくられたタイヤも、植物と見立てていくことで、さまざまな活用法が考えられるわけです。

6. 商品化・産業化で世界と未来の電気エネルギーを変える
~Products that will change the world and the future of electric energy

タイヤ電池®は、どんな電気設備にも対応できる電池です。
しかし、せっかく資源循環型製品としてつくられたものならば、電力の原料となる素材もリサイクル素材を利用することが理想です。
さらにその素材によってつくられた電力を、その素材を生み出した場所に提供する、ということができれば、まさに理想的な資源循環型の社会が可能となります。

例えば、道路の街路灯。
街路灯の明かりをつける電力を、街路灯のそばに並ぶ街路樹を剪定した枝葉をタイヤ電池®のイオン材料として利用すれば、電池の素材が生まれた場所に電気を供給する、という循環が可能となります。

ほかにも、全国の温泉地の温泉スケール(湯の華とも呼ばれ、温泉水に溶け込んでいた成分が固形化したもの)がイオンの原料になるため、各地の温泉地でイオン原料を調達し、それでつくったタイヤ電池®で温泉街の街路灯の明かりをつければ、資源循環型の電力供給が可能となります(「温泉電池®」はすでに商標登録済みです)。

タイヤ電池®の量産化には、まだまだ時間がかかります。しかし、タイヤ電池®をつくる工場は、きっと世界各国につくられていくことになるでしょう。
そのような時代が来たときには、タイヤ用の天然ゴムの原産国であるタイやマレーシアなどの国内に、タイヤ電池®による電力を供給し、資源循環型の社会を実現してほしいと山﨑代表は言います。

原料を生み出した場所で電力を生み出し、それをその土地に還元する。
再生可能な社会をつくるというなら、まずはタイヤ原料の原産国の人々にエネルギーフリーと持続可能な生活ができる環境を提供し、人々の生活が豊かになるようにすることが願いなのだそうです。

今後は、タイヤ電池®の原理を活用したさまざまな商品が生み出されることでしょう。エネルギーの奪い合いが起こらない社会を実現するためにも、タイヤ電池®の発明がとても大きな意味を持ち、今後の産業化の流れにも大きな期待が寄せられます。

これからの未来へ多大な貢献をもたらす可能性を秘めているタイヤ電池®。
2024年は、電気業界に革新をもたらす、新たな時代の幕開けとなることでしょう。

※参考:株式会社ルネシス タイヤ電池HP


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小さな灯が心にともりますよう。

お相手は、橘ねろりでした。

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