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《長編小説》小幡さんの初恋 掲載分のあらすじ(随時更新)

 場所は東京近郊にある小さな町の小さな会社のビルである。金曜日の午後の16時にパートの楢崎さんが帰ってしばらくすると小幡さんは終業時間に向けて行動を開始した。大きな図体のズングリとした制服から長い首を突き出して立ち上がる小幡さんを見て隣の席の鈴木はまるで亀だと思う。終業時間になり、外回りの社員が戻って事務所のものも集まって来て久しぶりに大口の契約を取った岡庭を称える。社長も出てきて岡庭を称えて祝勝会をやろうと言い出すが、そばにいた弟の専務から赤字だから無理だと断られる。それに納得のいかない社長は専務に突っかかり専務も怒鳴り返して口論になるが、そこに現れた小幡さんが社長と専務やそこにいた社員に向かって誰もまともにアルコール除菌をしていないことを説教した。

 社員の日報の提出忘れなどいつものトラブルがあった後、あら方捌けた社内で社長と小幡さんは思い出話に花をさかす。ふと事務所を見回した社長はそこにとっくに帰っているはずの鈴木がいるのを発見した。彼は小幡さんに鈴木の事を伝え一緒に鈴木の所に行こうとするが、突然隣の家から妻がやってきて息子が学校で事件を起こしたから早く家に戻ってこいと強引に彼を家に連れ戻す。小幡さんは一人で鈴木のもとに行き声をかけるが、鈴木は楢橋さんの入力データが全く抜けていて自分がそれを埋めているところだと伝えた。小幡さんは自分も手伝うと言ったが、頑固者の鈴木は自分でやると言って聞かず、結局全て鈴木に任せた。一時間ぐらいしてようやく鈴木の作業が終わり確認も済んだので小幡さんは鈴木に先に帰るように言った。鈴木は小幡さんに言われるままに先に事務所を出てビルの入口まで来たのだが、たまたま見たスマホで離婚した妻の所にある息子からのメールを読み込み、妙にたそがれた気分になって会社のビルを見つめて自分がこの会社に入ったときのことを振り返る。そうしてたそがれていた彼はビルから出てきた小幡さんにばったり遭遇してしまう。

 土曜日の朝。小幡さんが出てくる妙な夢を見て目覚めた鈴木は自分に喝を入れると毎週に必ず行くことになっているサイクリングの準備を始めた。ランチを作って部屋の戸締まりをしてから玄関の郵便受けから郵便物を取り出した。彼はそこに離婚した妻の父とその息子からのハガキを見てとっくに縁が切れているのにと苦笑する。鈴木は自分がこの街にやってくるまでは大手商社に勤めるエリートサラリーマンであった。彼は営業畑で活躍しとうとう本部長まで上り、次は取締役と噂されていたが、社内の派閥抗争に巻き込まれて退職に追い込まれる。彼は妙に達観した性格だったので素直にそれを受け入れ、今こそ昔からの夢だった晴耕雨読の生活を実行しようと思った。そしてたまたまネットで見たとある街の写真に惹かれすぐに車でその街に向かった。彼は現地に行ってこの新興住宅街がアメリカの郊外に似ていることに気づき、日本の田舎のようなベタベタした人間関係が嫌いな彼は、人と適度な距離が取れそうなこの街に引っ越すことに決めた。そうして彼は二年間が立ったのだった。彼は気温の熱さに耐えられずサイクリングをやめることにし、近くのプールで泳ぐ事にしたが、その時肉付きのいい女性が見事な泳ぎをしているのを見て釘付けになった。しかし彼は突然プールから上がって来た女性を見て心臓が飛び出るほど驚く。それはいつも隣の席に座っている小幡さんだったのだ。

 月曜日。朝、プールの後小幡さんと何度も偶然に鉢合わせたので鈴木は気が重かった。逆の意味で誤解のしようのないシチュエーションが何度もあったからである。鈴木は小幡さんに挨拶したが返事はしたもののすぐに目をそらされてしまう。小幡さんは妙に苛立っており、先週の金曜日に大ポカをした楢崎さんを珍しく声を荒らげて叱った。昼食時電話番の鈴木は事務所に残ったが、何故か小幡さんも残っていた。

 同日の月曜日。午後は平穏無事に過ぎて終業時間になった。日報の提出忘れは今日もあり、小幡さんはいつもの説教をした。その小幡さんと鈴木のもとに新入社員の丸山くんがやってくる。丸山くんはいつも日報提出しているじゃないかと聞く小幡さんに母からのお土産としてお菓子をプレゼントする。
 日は変わって水曜日のお昼である。鈴木は近く公園で弁当を食べていたが、そこに小幡さんが現れた。彼女はいつも家でお昼を食べているが、今日は天気がいいので外で食べることにしたという。鈴木は小幡さんに今日は土曜日のように熱くないねと話しかけたが、その時彼女が笑ったので、安心して小幡さんに昔部活とかで水泳をやっていたのかと聞く。

 木曜日。小幡さんと鈴木たちは明日の歓迎会の準備のために歓迎会の会場である会社のビルの隣の社員が旅館と呼ぶ、社長の家まで歓迎会用の仕切り板などの荷物を運んでゆくことになった。鈴木たちは小幡さんの指示の下、早速準備に取り掛かるが、そこに社長の母である万寿子が現れて鈴木に話しかけて来る。鈴木が畏まって事項紹介すると、万寿子はいきなり自分の身の上話を長々と始めた。

 金曜日。歓迎会の当日の朝社長は朝礼で歓迎会のことについて話した後で小幡さんの所にやってきて参加者の追加を頼んできた。母と親戚の子供を参加させてくれという。小幡さんはこの社長の無理強いに腹が立ったがこらえて受け入れた。そうして社長が去った後今度は専務がやってきて、歓迎会なんかやめてしまえと言い出したので、小幡さんは完全に頭にきて専務を怒鳴ってしまう。

 色々すったもんだした挙げ句とにかく全員を会場の大広間に入れて一安心の鈴木と小幡さん。鈴木は会場を眺め回して小幡さんの見事な仕切りぶりに感嘆してその事を小幡さんに言う。すると小幡さんは少し恥ずかしがる仕草をした。鈴木は最近まで小幡さんのそんな態度を見たことがなかったので飲み会と言うこともあってか、多少気分が大きくなって小幡さんに以前は壁を感じて話しかけづらかったと正直に言う。すると小幡さんはどこか遠い目をして考え込んだ。

 社長と専務、そして二人の母の万寿子がようやく到着していよいよ歓迎会が始まった。社長はお詫びにと参加者へおつまみを配りだした。万寿子は鈴木の隣に座り、鈴木と小幡さんに挨拶をするが、娘とも孫とも思っている小幡さんに軽口を言って困らせていた。万寿子が小幡さんに向かって三十になっても結婚しない人間は八割引の反物以下だと言ったので、鈴木は小幡さんが気の毒だと思い、万寿子に向かって現代の価値観では独身は別にはずべきことじゃないと説明するが、万寿子がそれを妙な風に受け取り小幡さんを質問攻めにする。

 新入社員の丸山くんと岡庭の挨拶を終えていよいよ本番を迎えた歓迎会。小幡さんは料理の準備に大わらわだった。参加者はそれぞれ盛り上がっていたが、そんな中鈴木は先ほどから隣の万寿子に昨日からの約束であった今川義元の話をしていた。しかし万寿子にとって鈴木の話は全く面白くなくすぐに飽きてしまう。とうとう耐え切れなくなった万寿子は鈴木に話を止めるように言って社長と専務を呼び鈴木の隣の小幡さんも呼んで自分の話を始めた。話は最初は夫がなくなった時の事から始めたが、すぐに小幡さんの父と会った時の話に移った。

 万寿子は話の続きで社長の父である先代の社長が小幡さんの父と一緒に野球チームを作ったという話をしたのだが、同じく野球好きの鈴木はそれに反応し、小幡さんに思わず父親が通っていた大学名を聞いてしまう。万寿子はそれを聞きとがめて鈴木に対して小幡さんに結婚でも申し込むつもりなのかと訳の分からない疑いをかける。

 さんざん喋り倒して疲れたのか眠たくなったと言って歓迎会を退場する万寿子。参加者はその万寿子に向かって盛大な拍手を送った。万寿子が去ると小幡さんと社長は鈴木に謝ってきた。何でも万寿子は酔うといつも人をからかうらしい。小幡さんと社長はそのまま世間話をするが、万寿子が去ったのを見計らってか、サブリーダーの新藤が丸山くんと岡庭を連れてやって来た。

 岡庭から突然BOØWYを聞いているかと聞かれた鈴木は素直に対して知らないと答えた。しかし納得の行かない岡庭はでは他にどんな音楽聞いていたんだと鈴木を質問攻めにする。鈴木はどうしたものかと困っていたが、社長が間に入って助けてくれた。社長は鈴木を気遣って彼の興味がありそうなことについていろいろ聞く。鈴木が大学時代に野球サークルに入っていた事に触れ野球について聞いたところ、鈴木が話に乗ってきたので野球についてひとしきり話をする。会話の中で社長は鈴木に今まで見た最高の試合はあるかと聞いたのだが、鈴木は大学時代にライバル校と行った対抗戦をあげた。

 社長と新藤は鈴木の対抗戦の話を興味深く聞いた。二人は後にプロ野球選手となった三股が何故かこの試合を語らないのか意味深に笑いあった。小幡さんは鈴木に声をかけ話を聞いて父のことを思い出したと語る。そして鈴木にグラスにビールを注いできた。鈴木はその小幡さんに父親を見る娘の視線を感じこれはいかん酔を覚まさなければと勢いで注がれたビールを飲んでしまう。それからしばらく鈴木は丸山くんと営業についてレクチャーする約束をしていたことを思い出して彼に声をかけるが、一緒にいた岡庭に妨害されてしまう。

 岡庭の発案により何故か鈴木の新人歓迎会が始まってしまった。鈴木が入社した二年前はコロナ禍で飲み会ができなかったからである。歓迎会は社員と鈴木の質疑応答となり、いつの間にか面接のようになってしまった。鈴木は官僚の家に生まれたこと、学生時代の交友関係について語ったが、社員たちは鈴木が知り合いとして挙げた人々が有名人ばかりなのに驚く。調子に乗った鈴木は趣味の歴史研究について語ろうとしたが、みんなに難しい話はまた今度と言って断られる。しかしそれに懲りない鈴木は今度は笑い話としてバッハのCDを買った時のエピソードを語るが、あんまりにもつまらない話なので場が一気に冷めてしまった。しかし丸山くんが鈴木の前に勤めていた会社で何をしていたのかと質問したので鈴木は調子良く語り初め場は再び盛り上がり初めた。小幡さんは笑みを浮かべながら過去を語る鈴木の姿に亡き父を重ね、思わず「お父さん」と口をついて出る。

 新藤が発した「結婚されているんですか」とという質問を聞いた鈴木は急に黙り込んでしまった。しばらくして鈴木は結婚したが、息子が8才の時に離婚したことを語ったが、表情は暗いままだった。鈴木は調子に乗って喋りすぎたことを反省し、急に自分が前の会社を辞める羽目になった経緯を語りたくなる。彼は皆の同意を得て自分が派閥抗争に巻き込まれてやめる羽目になった事情を語ったが、ここで歴史好きの彼は自分を石田三成に重ねて語り始めたのでどんだけ歴史好きなんだよと呆れられる。そうして経緯を語り終えた後、彼は自分の生きていた人生が虚しくなり、愚痴り始めたが、その時小幡さんが手を挙げて鈴木に質問をした。「鈴木さん、今、しあわせですか」と。

 歓迎会は終わり、社員は続々と帰宅の途についた。しかし二次会に行こうと言うものもいて、その中の数人が社長の姪っ子を一緒に二次会に行こうと連れ出そうとする。それに怒った社長は社員と姪っ子を怒鳴りつけるが、それに怒った姪っ子が社長に切れだして二人は口喧嘩になってしまう。そんな中酔いつぶれて寝てしまっていた小幡さんの隣で鈴木は身の回りの片付けをしていたが、そこに丸山くんが挨拶にやって来る。

 小幡さんを連れて帰ることになった鈴木。しかしその帰り道で彼は酔っぱらった小幡さんに振り回される。鈴木は酔っぱらい体を寄せて甘えて来た小幡さんに変な気持ちを感じてきてしまうが、真面目な彼は自分を戒めて何とか平常心を保つ。しかし突然小幡さんは酔った勢いでぐるぐる回り始めてしまう。アルコール中毒の危険を察して慌てて止める鈴木。しかし小幡さんはその鈴木に笑って答えるだけだった。やがて小幡さんを家に送った鈴木は小幡さんに別れの挨拶をしようとするが、その時突然小幡さんが立ち上がって家の中に駆け込んでしまう。鈴木は今までの経験から危険を察して彼女の後を追って家に駆けこんだ。

 トイレから出てきた小幡さんは鈴木の服が自分のせいで汚れてしまっているのを見て弁償すると言って謝った。しかし鈴木はクリーニングは毎週出しているから大丈夫だと言って断った。小幡さんはお茶の間の座布団に座るとちゃぶ台に乗せていた本を自分と父の写っていた写真ごと叩き落として頭を抱え込むがそれを見ていた鈴木は気まずく思って帰ろうと思い、小幡さんに先程介抱したときに背中を擦った事をわびて別れの挨拶をするが、しかし小幡さんが話しかけて来たのでそのまま立ち止まる。小幡さんは先程の事を詫たが自分を責め始めてしまったので鈴木は帰るのをやめて彼女を宥めた。その鈴木に対して小幡さんは自分に幻滅したかと聞いてきた。

 小幡さんは父親がガンになったときのことから話しはじめた。彼女は父親がガンになってもいつもと変わらぬ笑顔で最期まで自分に接してくれたことを愛情と尊敬を込めて話した。それから小幡さんは母親が父がガンになった頃から態度を急激に変えた事を話す。いや、もとからああいう人だったかもしれないと彼女は言葉を添えた。小幡さんは母親が知らぬ男と頻繁に電話をしていた事。父親が病院から退院許可をもらって家に帰って来たとき彼女が父親に入道食を食べさせようとした時、金がいくら合っても足りないと文句を言ったことを話す。結局父親は病院に戻る事になったが、その翌日学校にいた小幡さんに病院から連絡が来る。

 感情をむき出しにして母親を罵る小幡さんを驚きの目で見る鈴木。そんな鈴木に向かって小幡さんは話を続ける。引っ越しの際にカッターを振り回して抵抗した話。中学生の時に本格的に水泳をはじめた事。そして母と母の男との全くうまくいかなかった関係など。そうして彼女は母親たちとの暮らしに耐えられず、高校卒業してすぐに家を出て再びこの土地に戻ってきたところまで話す。しかし話している最中に感情が高ぶってしまった小幡さんは、酔いの勢いも手伝って、鈴木に向かって自分が父親が死んだショックでそれから全く精神的な成長ができなくなった事をぶちまける。そしてどうしたらいいの?と彼女は泣き叫び鈴木の胸にいきなり飛び込んでしまう。

 その翌日の土曜日。鈴木は目覚めて自分が全く酔っていないことに驚いた。彼はこれだったらサイクリングに行けると思い、早速準備をする。出る前にクリーニングに出す昨夜着ていた衣類をチェックするが、見ていたら昨夜の事を思い出してしまい。いかんいかんと自分を戒める。彼はサイクリングの前にクリーニング屋により受付の婆さんに衣類の入った袋を差し出すが、婆さんは衣類を広げてチェックしているときに突然大声を出して鈴木にシャツを広げて見せた。鈴木も自分のシャツを見るがそこにはなんとキスマークがあったのだ。

 その翌日の日曜日である。本日は別れた妻のところにいる息子のアキラがやってくる日であったが、そのアキラが連絡もなしにいきなり家に上がり込んできた。アキラは鈴木の現在の暮らしと以前とのそれとのあまりのギャップにおかしくなり、鈴木を思いっきりからかう。

 月曜日の朝、鈴木は金曜日の出来事を未だ引きずって事務所に入った。しかし小幡さんはその鈴木に向かって普段どおりと変わらず挨拶をする。鈴木はその小幡さんを見て彼女は金曜日の事は忘れていると思って安心するが、その鈴木にパートの楢崎さんが鈴木に向かって歓迎会の後小幡さんを家まで送ってから何をしたんだと問いただす。鈴木は小幡さんが思いだすかもと慌てるが、その鈴木を制して小幡さんは楢崎さんに説教をはじめた。


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