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「砂くじってどんな魚?」田舎で一度だけ釣れた思い出の魚

「僕の昭和スケッチ」イラストエッセイ191枚目

<幻の川魚「砂クジ」 © 2023 画/もりおゆう 水彩/ガッシュ 禁無断転載>

三水川

子供の頃の夏休み、黒野村の三水川でよく魚釣りをした。
三水川は田畑の中を流れる小さいけれど美しい川だった。
ある日いつもの様に従兄弟と釣っていると見たこともないような魚が針にかかった事がある。15センチ程の魚体だった。

僕は岐阜市内で育ち、長良川などでよく釣りをしたのだけれど、それは初めて見る魚だった。僕が興奮気味に魚を手に取ると、後ろで従兄弟が「ゆう君、砂くじじゃ」とつまらなそうに言った。

つまりは、田舎では誰も釣らない役に立たない雑魚なのだろう、、、と落胆して川に離したのを覚えている。

けれど、少なくとも僕の目にはその魚は背が緑灰色で綺麗な砂模様が入った美しい魚だった。

その数年後には三水川も環境破壊で汚れてしまい、その魚は一度も針にかかる事はなかった(というか、三水川では、一匹の魚も釣れなくなった)。中高生になると僕は同じ岐阜市から北西部にある渓流「根尾川」で泳いだり釣りをする様になった。けれど、根尾川ではその魚を見かける事はなかった。

あの魚は、何だったのだろう、、、?
と数十年を経た今回ネットで色々と調べてみたが、どうも私の記憶に合致する魚は見つからなかった。探した中では「鮎もどき*」が一番似ているが、鮎もどきは元々岐阜には生息しておらず個体の色も暗く、やはり違うように私は思った。

もしかしたら、「砂くじ」という魚名が私の全くの記憶違いなのかもしれない、と思い直し、、、色々と考え、、、
「砂くい」「砂〇〇」「鮎くい」、、、上手くいかず、、、何か手の届きそうなところまで来ているのに見つからない、、、そんなもどかしさにはまり、自信が無くなってきた、、、。

ところが、、、、
ふと簡単なことを思いつき、「スナクジ」とカタカナで検索してみたら何と直ぐに発見(笑)

「スナクジリ」

あくあぴあ芥川/高槻市立自然博物館HPより転載>

和名=カマツカ
カマツカには地方名が多く、岐阜での名前は「スナクジリ」。
生息域=本来は静岡県~山口県の本州太平洋・瀬戸内海流入河川(ただし現在では国内外来種*として北海道を除く全国で生息するとの事).
岐阜では当時の生息域が岐阜県郡上市とあるので、在所の場所「黒野村」から距離はあるが概ね一致する。黒野村の子供達は「スナクジリ」を「スナクジ」と呼んでいたのだろう。
美味とされ、流通量は少ないが琵琶湖周辺で取引されている食用湖魚のひとつ(高値)。川のキスなどとも称され、5月〜6月中旬の産卵期には特に珍重されるという。

黒野村の子供達は、これが食用となることを恐らく知らなかったのだろう。
ちなみに、スナクジリは魚介図鑑の物知りランキングでは星5つで「知っていたら学者級」との事。僕は勿論曖昧な知識で学者には遥かに遠いが、今回長年の疑問が避けて何やらスッキリ(笑)

上の写真のスナクジ君を見つけた時には、古い友人に積年を経て会えた様な懐かしさを感じたほどだ。

『そうそう、君だよ君』と。


国内外来種の問題

外来種とは生きものが元々持っている移動能力を超え、人間の力で運ばれたものを指す。 海外だけでなく、国内の別の地域から持ち込まれた生きものも外来種。今回記事を書くにあたって色々と調べる中、東京の多摩川で取れたカマツカ(スナクジリ)の写真も見たが、この記事にあるような美しい魚体ではなかった。水や川底の影響を受けてしまっているのだ。何か無惨な気がするのはあの日美しいスナクジを見た自分の感傷かも知れないが、つくづく残念なことだ。罪深いことだと思う。


*鮎もどきは琵琶湖琵琶湖の淀川水系と岡山に生息していた魚で現在は絶滅危惧種となっている。
<©2023もりおゆう この絵と文は著作権によって守られています>
(©2023 Yu Morio This picture and text are protected by copyright.)



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