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てのひらの物語

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物語を綴るように、体験を通したエッセイ。
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#北国

霧の朝に

霧の朝に

霧雨にしっとりと濡れながら

白く煙る景色の中に佇んでいると

夢の中に迷いこんでしまったような

ぼんやりとした心持ちになってくる

港の方では何度も霧笛が鳴っている

その音に誘われるかのように

靄に包まれ歩いてゆくと

このままどこか知らない世界へ

吸い込まれてしまうような気がする

こんな霧の朝に

自分と同じ姿をしたもう一人の自分

ドッペルゲンガーに

会ってしまうのかもしれない

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氷の芸術

氷の芸術

朝、海沿いを歩いていると、凍っていた海が溶け出しており、海風に吹き付けられた無数の氷が岸辺に打ち上げられている風景を目にした。
薄いガラスの層が幾重にも積み重ねられているようで、一枚ずつ手に取り眺めたくなるような光景だった。

透明な氷のプレートが朝陽にきらきら輝いて美しい。
まるで自然が作り上げた現代アートのようだ。

とりあえずスマホで撮影して、翌日は一眼レフ持参で同じ場所に駆けつけたものの、

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白鳥は歌う

白鳥は歌う

冬の初め頃から、近所の島で見かけるようになった白鳥のつがいと子供がいる。
マイナス10度以下の気温になり本格的な寒さがやって来ても、白鳥ファミリーはまだ留まっている。
普段白鳥は春先になると南からこの国へやってくるため、春を運んでくる鳥だ。
そして冬の訪れと共に再び南へと飛び立つので、こんな季節までこの地に残っていることは珍しい。

朝、島へ散歩に行くと、凍りかけた海上にまだ白鳥ファミリーがいた。

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