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みじかいたんぺん

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みじかいたんぺんです。短いです。体感時間は長めです(たぶん)。
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#超短編小説

【大河小説】くに

 ある男が悪い行いをする。
 彼は追われ、身を守らなければならない。
 そのために味方を作る。
 しかしその味方も方々に敵を作っている。
 彼らは自分たちの安全を守るため、さらに強力な共同体を作る。

 こうしてできたのが、国である。

まちがいでんわ

まちがいでんわ

 今の時代、間違い電話なんてかけてくるのはリスかサルかクマかウサギくらいのものだと思っていた。
 けど今日はカラスがそのリストの中に加えられた。

 確かに思えばこいつがいた。今まで来なかったのが不思議なくらいだ。

「はい、もしもし」

「アーッ、アーアッ」

「もしも…」

「アアアアアー」

 ずうっとこんな調子である。向こうはおそらく、これで話が通じていると思っているのだ。

 でも読書百

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不老不死薬希釈

 
 この前不老不死の薬を手に入れた。
 これを三十倍に希釈すれば、十年くらい生きられる薬を30本は作れるはずだ。
 
 なんて皮算用していると、あくる日に娘がことごとくカルピスやフルーチェやゼリーなんかの材料にしてしまった。

 朝起きると、枕もとに彼女が立っている。
赤い液体の入ったタッパーを持ち、お父さんが昨日持ってきた薬で今ゼリーを作ったとこなんて言っている。
 粗熱をとっているらしい。

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分身

 分身できるようになったまではいい。
 その日は三人に分身して、二人にそれぞれ家事と仕事を任せた。

 僕は寝ようとした。

 すると、今別れた分身の二人も座布団を枕に僕の横に寝た。
 彼らも一人ずつ分身を作って、彼らに自分たちの仕事を任せたのだ。

 一時間後に職場から電話が来た。僕がきてないらしい。
 熱があると言って今日は休んだ。

 買い物に行くと言って出て行った一人も帰ってこない。

 

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キャンペーン

 キャンペーンが始まった。
 僕らはキャンペーンキャンディーと、キャンペーンパンを作り、キャンペーンに来てくれたお客さんに次々渡した。

 初め子供にキャンディー、大人にパンを上げたが、どうも逆の方が喜ばれるみたいだった。
 今日のキャンペーンは、タイムトラベルキャンペーンということで、やってきた人全員を三年前に戻すという試みがなされた。

 契約すれば、30年前にでも、とにかくお好きな時間に戻す

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星つきシェフじゃんけん大会の衰退

 星付きのシェフたちが会して、ジャンケンで星を奪い合うという闇の大会が、今年も新潟の市民センターで開催された。

 今回の大会で世界でただ一人の13星シェフが誕生し、一方で50人のシェフが星を失い泣きながら会場を後にした。

 大会は年々盛り上がりを欠いていく。やはり今回もその物議は再燃された。

 まず、この大会が一番盛り上がっていたバブル期に導入された代返制である。
 当シェフの代わりにジャン

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ゲームを買いにいく

ゲームを買いにいく

 ゲーム買ってと息子に言われて、よっしゃ分かったとゲーム屋に行くことになった。

 もちろん昨今では買いに行くまでもなくネットでいくらでも無料で遊べるし、テレビゲームが欲しいのなら通販もできるし、古本屋にだって安く売られている。

 そのような誘惑をかいくぐり、そこからさらにゲーム屋にわざわざ行くなんて、これは立派な家族サービスというものだろう。

 まあ流行ってなんてないだろうからあんまり期待は

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忍者 VS 探偵

忍者 VS 探偵

 都内にある某大学病院の会議室。広い室内には長机がずらりといくつも設えられ、今そこには私が招待した16名の事件関係者たちがそれぞれ席に着き、こちらの様子を窺っている。

 二つの出入り口には屈強な警察官がついていて、忠実な番犬みたいにまっすぐ前を向き、ドアを守っている。

「今日皆様にここへ集まってもらったのは他でもありません。先の事件に関することです」

 私は二人の担当刑事とともに、そんな彼ら

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テニスの精

テニスの精

 自販機で水を買おうと、お尻の右ポケットから財布を取ったらすごく軽い。開いてみると、お札も小銭も見事にスッカラカンだ。

 どうやらさっき人込みの通りを歩いていたとき、すられたらしい。すられて中身を抜かれてまた元に戻された。でも身分証とか会員カードは取られてはいない。良心的なスリである。

 僕はTシャツをまくって、腹巻から予備の財布を取り出す。
 そうしてがま口を開け、硬貨を一枚一枚機械の中へ入

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