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まちがいでんわ

 今の時代、間違い電話なんてかけてくるのはリスかサルかクマかウサギくらいのものだと思っていた。
 けど今日はカラスがそのリストの中に加えられた。

 確かに思えばこいつがいた。今まで来なかったのが不思議なくらいだ。


「はい、もしもし」

「アーッ、アーアッ」

「もしも…」

「アアアアアー」

 ずうっとこんな調子である。向こうはおそらく、これで話が通じていると思っているのだ。

 でも読書百遍自ずから通ずともいうとおり、そうやって10分も相手の話を聞いていると、なんとなく言わんとすることが分かってくるから不思議なものだ。

「アアアーアア後藤さんはいますか?」と、こんな具合に。

「いえ、いませんよ」と、僕は答える。

「アアー。ア、ア、ア、先日クルミの上手な割り方を教えてもらったお礼をぜひいいたいのですが」

「だから、ここに後藤さんはいません」

「アアアアアアアア、ではイタゲキさんはおますか」

「そんな人しりません」

「アアアアア、あなた、山内さんではありませんね」

「山内って誰です?」

「アアーアアアー山内さんをどこへやってんです!!」

「アアアアアアアーアアアアアー!!!」
 
 と、僕は言う。

 すると向こうのカラスはびっくりして、バタバタと羽音をさせて飛び立っていくのが聞こえてくる。

 まったく。

 間違い電話はいい。
 でも自分が間違っていると気づかない間違い電話ほどやっかいなものはない。

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