分身

 分身できるようになったまではいい。
 その日は三人に分身して、二人にそれぞれ家事と仕事を任せた。

 僕は寝ようとした。

 すると、今別れた分身の二人も座布団を枕に僕の横に寝た。
 彼らも一人ずつ分身を作って、彼らに自分たちの仕事を任せたのだ。

 一時間後に職場から電話が来た。僕がきてないらしい。
 熱があると言って今日は休んだ。


 買い物に行くと言って出て行った一人も帰ってこない。

 テレビをつけると僕が出ていた。
 僕はオムライスを食べていた。
 少子化の影響で、休日に家族連れで出かける人たちの特集だとかでインタビューを受けている。

 向かいの席には妻らしき人と、その隣には子供もいた。七歳くらいの男の子だ。

「あれ、俺だよな」
 
 と、布団に入りながら僕は言った。

「あれ、山月さんじゃないか」

 と、右隣の僕が言った。

「確かにそうだ」

 と、左隣の僕も話に加わる。
 彼女は会社の経理の子だ。新卒で入ってきたばかりなのだ。

「ということはあの子はあの子の子か?」

 右の僕が疑問を口にする。
 テレビの僕の隣にいる男の子は、山月さんの子供なのかと聞いているらしい。

「いや、まだ早とちりはしない方がいい」

 左の僕がたしなめる。

 それから僕らはその話はせず、ご飯を食べ、順番にお風呂に入って眠りについた。

 おそらくだけど、明日は誰が会社に行くかでもめるはずだ。
 だって山月さんとテレビの僕が付き合っているのだ。
 ということは、僕が付き合ったっていいと言うことだろう。
 なんだってこんなことになっているのかは分からない。

 こんなに素敵なことはない。

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