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1.メアージュピース物語 第3部 果てなき旅を終わらせた冒険者達の章 外伝「世界中を震撼させた悲しみの記録」第1話

かつて「女神メアージュ」と「男神ジュピース」が創造した世界、それが「メアージュピース」。水、氷、山脈、砂漠、草原、岩壁、森、花、魔、死、10の大陸から成るこの世界で繰り広げられる、壮大な歴史と数々の大冒険。第3部の本編は、世界中を恐怖の渦に陥れた歴史にその名を残す「ある殺し屋」に、大切な人の命を奪われた14人の冒険者達が運命的に出会い、皆で協力し合いながら復讐を果たすまでの物語であるが、今回は「外伝」として彼らがどのような悲劇に遭い、復讐の旅に出る覚悟を決めたのか、また何故その「殺し屋となった男」はそのような人生を歩む事になってしまったのかを彼の視点から紐解き、本編に至るまでの前日譚を綴る。(299文字)

第3部果てなき旅を終わらせた冒険者達の章外伝「世界中を震撼させた悲しみの記録」あらすじ

※話数が進むにつれ、多少残酷なシーンも御座いますので、苦手な方はお気を付け下さいませ。


第1話 花の大陸キュリキューラ キャメローム国城内
    エリザベート=コルメイルナ=キャメローム姫(18)
       姫専属メイド チュリーアン=スウィート(16)の物語


 まず、何処から話せばいいのかしら。

 そうですねぇ、まずは…私とエリザベート様が、恐れ多くも一緒に育ちました所からご説明致しませんとぉ。

 そうですわね…私は、チュリーのお母様であるシエラに育てられたと言っても過言ではありません。とは言いましても、乳母は別におりました。シエラは教師の資格を持っていましたので、私の教育係を任されていたのです。実際、乳母よりもシエラと一緒にいる時間の方が長かったですわ。チュリーが生まれてからは私達、まるで姉妹のように仲良く過ごしましたわね。

 はいー、私はいつもエリザベート様を本当のお姉様としてお慕い申しておりましたぁ。

 うふふ、貴女って昔からおっとりしていて本当に面白い子でしたわ。

 そ、そうでしょうかぁ。

 そうよ?

 は、はあ、左様で御座いますかぁ…。

 貴女のお父様、マークは城で兵士をなさっておりましたわね。

 はいー、国王陛下専属の見張り兵をさせて頂いておりましたぁ。

 私もよくお見かけして、その度に庶民のお菓子をおすそ分けしてもらいましたのよ?私、お食事の時に出される高級ケーキより、舐めても舐めてもなくならないチェリー味のキャンディーを頬張る方が、何倍も好きでしたわ。

 私も、チェリーキャンディーは大好きですぅ!父が沢山買って来て、近所の子供達にも配ったりしていましたぁ。

 そうでしたわね…マークは身分など関係なく、子供達には平等に接してくれました。それが私にとって、どれほど嬉しかった事か。

 わ、私は、よく父を叱ってましたぁ。エリザベート様に、馴れ馴れしい口を利いてはいけないってぇ…父は、分別がなさ過ぎるんですよぉーっ。

 でも、私にはそれが嬉しかったのですよ。私は父の愛情も、母の愛情も知らずに育ちました。マークの笑顔とシエラの温もり、そして愛しいチュリー…私は、貴女達3人の愛情に包まれて育って来たのです。城の人間達は私を敬って皆、ゴマをすったり、頭を下げたり、愛想笑いを浮かべながら私の機嫌を取ろうと必死…ですがそのような態度は、私にとって苦痛以外の何物でもなかったのです。ですからチュリー、マークの事はどうか許してあげて頂戴ね。

 そのお言葉を聞いて、恐らく父も母も天国で喜んでいると思いますぅ。

 そうね、そうですわよね…私は、自分の両親はマークとシエラだと思っています。今も、そしてこれからも。

 エリザベート様、有り難う御座いますぅ。



「ないったら、ないのよ!グズグズ言っている暇に、探したらどうなの!」

「はっ、たっ、只今っ!」

 あれは、いつだったかしら。

 確か、私がエリザベート様専属メイドに着任して、間もない頃の事で御座いましたぁ。

 そうでしたわ…私が14歳、貴女が12歳の時だったかしら。兵士達は母に怒鳴られ、必死に城中を探し回っていましたっけ。この日、母が命の次に大事にしていた「ツイーベリル」がなくなったのです。このツイーベリルは世界にたった一つ、この国にしかない秘宝です。各地のコレクター達は、喉から手が出るほどこの宝石を欲しがりました。お金になど換算出来ないほど、価値があると言われているこの宝石を手放す気は、この国にはなかったのです…それほどの物がなくなったと言う事で、母は朝から城中に響き渡るほどの物凄い剣幕で怒鳴っておりました。

 本当に、恐ろしいほどのお怒りぶりで御座いましたねぇ。

 ほんと、そうですわね…確か父は見て見ぬフリをしながら、お部屋に閉じ籠もっておいでになられていたと記憶しております。その頃の私は、メイド室で皆とお喋りに花を咲かせておりました。

 あの日はお忙しい所、本当に申し訳御座いませんでしたぁ。クッキーを皆で沢山焼きましたので、是非ともエリザベート様に食べて頂きたいとの声が上がったのですよぉ。無理にお誘いして、悪かったでしょうかぁ。

 そんな事、ある訳がないではありませんか。私は嬉しかったですし、クッキーも物凄く美味しかった…私は、とても楽しい時を過ごしていたのです。それだと言うのに…。

「おいっ!」

 兵士達の捜索は、この部屋にも及んだのです。

 ノックもせず、兵士達は勝手に部屋に入って来ましたよねぇ。

 ええ、そうでしたわね。

「皇后陛下の大事になさっているツイーベリルが、何者かによって盗まれた!」

『えっ?』

 私達は、一斉にざわめきました。

「お前達、心当たりはないかっ!」

「ちょっと…」

 私は、兵士達の前に歩み寄りました。

 何を仰られるのかと、内心ヒヤヒヤしておりましたぁ。

「こっ、これはエリザベート様、このようなむさ苦しい所にお連れしたとあっては、私共が陛下に顔向け出来ませぬ。どうか、ご自分のお部屋へ戻られますよう…」

「貴方達がこちらに探しにいらっしゃると言う事は、この中のどなたかがお母様の宝石を盗んだとでも仰りたいのですか?」

 エリザベート様、珍しく強気でいらっしゃいましたよねぇ。

 当たり前ですわ、貴女達が疑われていたんですもの。

「い、いえ、それは、その…」

 私が強気に出ると、兵士達は口ごもって言いました。

「こ、皇后陛下のご命令で、城中をくまなく探すようにと…」

「とにかく、此処には御座いませんわ!大体、お母様もまずご自分の管理不行き届きを反省なさった方が宜しいのじゃないかしら!置き場所を、間違えたのかもしれないのですし…すぐに他人を疑うのは、決して良い事とは思えないのですけれど!」

「たっ、大変失礼致しましたっ!」

 兵士達は、慌てて部屋を出て行きました。

 あの時の兵士達の慌てようは、おかしかったですねぇー。

「エ、エリザベート様…」

 シエラは、私に言いました。

「やはり皇后陛下は、我々をお疑いになっていらっしゃるのでしょうか…」

「だとしましたら、私がお母様に一言申し上げますわ。この城内に、人の物を盗むような人間は一人もおりませんと…」

 シエラやメイド達は、とても嬉しそうな顔をしておりましたわ。

 だって、エリザベート様が自らそう仰って下さって本当に嬉しかったのですよぉ。

 あら、私は当然の事を言ったまでですわ。


『互いに信頼し合ってこそ、主従関係は成り立つ』


 生前、マークが言っていたこの言葉を私は常に心に留めているのです。『私は、国王陛下を一番に信頼している。だから、きっと国王陛下も自分を信頼して下さっているに違いない』と言って、マークは笑顔で私の頭を撫でてくれました。

 私にも、しょっちゅう言っていましたぁ。お前は、誰よりもエリザベート様の事を第一に考えなさいってぇ…信頼し合う事が、何よりも大切なんだよってぇ。

 そうね、ですから私はチュリーを誰よりも信頼しておりますのよ。チュリーも私と同じ気持ちでいると、信じて疑った事はありませんわ。

 それは、私もですぅ。

 そう、良かった。



 そして、あれから何日後だったかしら。噂はあっと言う間に広がり、いつの間にかシエラが宝石泥棒の犯人にされて…。

 はいー、私も大変驚きましたぁ。母も同様で、信じられないと言った様子でしたぁ。

 私は勿論、絶対に犯人はシエラではない事を確信しておりました。シエラは、そのような事をする人ではありません。私は城中の人間達から話を聞き、真実を突き止めようとしました。そして、噂が何処から流れたかをようやく突き止めたのです。

 大臣…ですね、エリザベート様ぁ。

 ええ、そうです。



「自分は、皇后陛下のお部屋の前で夜中にウロウロしているシエラを見たので御座いますっ!」

 大臣のルイージは、突然皆にそう言って回ったのです。

 しかし母自身も、確かにその事実は認めておりましてぇ…。

 でも、あれは違うんでしょう…チュリー…あれは、私の為にしてくれた事なのでしょう?

 は、はいー…エリザベート様の為に、母は休み時間を使ってチェリーキャンディーを買いに町へ出ましたぁ。そのキャンディーを、メイド室に置き忘れたのを夜中に思い出したので御座いますぅ。夕方にお渡ししようと思っていたらしいのですが、母はすっかり忘れてしまったようでしてぇ。それで翌日の朝一番でお渡ししようと思った母は、夜中に起き出してメイド室まで探しに行っただけなんですぅ。ついでに戸締まりの確認をしに、たまたま皇后陛下のお部屋の前も通ったそうでして、其処を恐らく大臣に見つかったのではないでしょうかぁ。

 それにしても、おかしな話ですわ…何故、大臣もそのような時間にお母様のお部屋の近くにいたのかしら。そう言った疑問から、私は大臣が怪しいと睨んだのです。

 それ以来エリザベート様は、大臣を監視するようになったのでしたよねぇ。

 ええ、必ずシエラの無実を晴らそうと心に決めたんですもの。

 それを聞いて、母はとても喜んでおりましたよぉ。

 まあ、そうでしたの…でも、シエラは…。

「エリザベート様…お願いですから、危ない事はおやめ下さいませ!」

 シエラは、何としてでも私を止めようとしていたみたいですわね。

 あっ、当たり前ですよぉーっ!もし大臣に見つかって何かされたらぁ、一体どうなさるおつもりだったのですかぁ。

 でも、私はどうしても諦める事が出来なかったのです。

「これはもう、なるようにしかなりませんのよ。私は、どうしても貴女の無実を晴らしたいのです。生まれた時から私を本当の子供のように愛してくれた恩、まだ返していませんもの。これくらいさせて頂戴、シエラ」

「エ、エリザベート様…」

 シエラ、涙ぐんでいましたわね。

 母は嬉しかったので御座いますよ、エリザベート様ぁ。

 このような事でシエラが喜んでくれるのなら、私はいくつ危険を冒しても構いません。実の母になど命を懸けられなくとも、シエラになら懸けられる…私は、そう思ってさえいたのです。



 それでエリザベート様は、とんでもない現場を見てしまわれるのでしたよねぇ。

 ええ、あれはある日の夜中でした。私はふとした物音で目が覚め、起き上がって窓の外を何気なく眺めたのです。綺麗な月が、城の中庭を照らしておりました。その花壇の影に、人らしきものを見つけたのです…1人は、大臣のルイージでした。

 もう1人は、どなただったのですかぁ?

 それが、私は一度も見た事のない…背の高い男の方でしたわ、眼鏡を掛けた。

 城の者では、なかったのですかぁ?

 ええ、城の者ではありませんわ。大臣は、持っていた鞄の中から見覚えのある小箱を取り出しました。そう、ツイーベリルの入った小箱です。

「ルイージさん…それでは、これは私が預からせて頂きます」

「君っ!いっ、1割…いや、さっ、3割は確実に回してもらえるんだろうねぇ?えぇ?」

「ちょーっと、待って下さいよぉ?」

 興奮状態の大臣を見て、男はバカにしたように鼻で笑いました。

「一国の大臣ともあろうお方が、今更何を仰ってるんです?貴方、まさか…この期に及んで、私が信用出来ないとでも?」

「とっ、とんでもないっ!」

 大臣は、急に冷静になって言いました。

「しっ、信じているに決まっとるじゃないか…じゃあとにかく、確実に私の分け前も用意しておいてくれたまえよ!い、いいね!」

「分かっていますよ。但し、気長に待って頂かないと。このような高価な代物は様々なルートを使って換金しますので、5年は掛かると見ていいでしょうねぇ…」

「ごっ、5年もだとっ!」

 大臣は、再び興奮し始めました。

「こっ、これを盗んだのは、わっ、私だぞっ!」

 私は、やはり…と、思いました。私が会話を聞いているとも知らずに、大臣は自ら自分の罪を告白してしまったのです。私は、慌ててベッドに入りました。怖くて怖くて、最初は中々眠れませんでした…しかしこれでシエラの容疑も晴れるのだと考えた途端、急に安心していつの間にか眠ってしまったのです。



 次の日の朝はぁ、大変な騒ぎで御座いましたねぇ。

 ええ…私は次の日の朝、早速お母様にお知らせ致しました。お母様も真犯人が見つかって、当然喜んで下さるものとばかり思っておりました。

 ですが、事態は思わぬ方向へ行ってしまったのですよねぇ。

 そうなのです…大臣は、ものの見事にごまかしました。その結果、やはり罪は全てシエラが償う事になってしまったのです。

 し、仕方がありませんー…証拠がなかったのですから、大臣がやったと言う証拠がぁ…。

 証拠…そう、証拠さえあれば。

「私が、背の高い眼鏡の男と夜中に中庭で話していたですと?しかも、宝石を私が盗んだ?」

「ええ、その通りですわ!」

「ハッハッハッハッハッハ!そのような証拠が何処にあると仰られるのですか、エリザベート様?場合によっては、法廷で決着をつけさせて頂いても宜しいのですよ?」

 ルイージは、冷ややかな目で私を睨んで来ました。そしてお母様を始め城の者達までもが皆、私を疑いの目で見始めたのです。私は、背筋がゾッとするのを感じました。証拠さえあれば…今更後悔しても、後の祭りでした。それ以前に、証拠などなくてもお母様は私の言う事を信じて下さるものと思っていたのです。ですが、実際は違った。娘の私を嘘つき呼ばわりし、他人である大臣の言う事を信用したのです。

 エ、エリザベート、様…。

 シエラはお父様の命により、処刑台へ…その後、マークも、自害、し、て…ご、ごめん、なさ、い、チュリー。

 エ、エリザベート様、な、涙をお拭き下さい。エリザベート様のせいでは、決して…ひっく、ご、御座いま、せん。で、ですから…エリザベート様が謝られる必要は、ひっ、く、ぜっ、全然、ない、の、です、からぁ。

 でも、私は、知っていたの、ですよ、大臣が、やった、って…知っていたのに、私の力が、及ばなくて。

 い、いいのですよ、エリザベート様ぁ。母はぁ、そのお気持ちだけでも十分有り難かったと思いますからぁ。それに、謝らなくてはいけないのはこちらの方で御座いますぅ。あれから、エリザベート様は母の為に何度も抗議なさって下さいましたぁ。その結果、皇后陛下のお怒りを買われて国を追放されておしまいになってぇ。実のご両親に見放されておしまいになったのですから、一番辛いのはエリザベート様で御座いますぅ。

 いいのです、そのような事は。あの2人の事は父とも母とも何とも思っておりません、今も昔も。私の大切な両親であるマークとシエラは、あの国の国王と皇后に殺された…ただ、それだけの事。これからは、たった1人で生きて行くしか…私に残された道は、ないのです。

 エリザベート様、私も及ばずながらこの命尽きるまでお側でお仕え致しますぅ。宜しいですよね、エリザベート様ぁ。

 チュリー…そうでしたわ、決して1人ではなかったのだわ。私には、貴女と言う大切な妹がおりましたのね。有り難う、本当に有り難う、チュリー。これからは、2人で生きて行きましょう…ずっと、ずっと。

 はい、エリザベート様ぁ。

 旅の目的地は、ただ1つ…それを果たすまでは、2人はずっと一緒ですよ、チュリー…。

 勿論で御座いますぅ。



次話(第12話以降)



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