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薬膳空想物語「七十二候の食卓」

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~はじめに~ 日本人ならば、二十四節気という言葉を少なからずどこかでは聞いたことがあるでしょう。 もともとは古代中国で作られて、季節の移り変わりをあらわす指標として農業で重宝され… もっと読む
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薬膳空想物語『七十二候の食卓』

薬膳空想物語『七十二候の食卓』

清明
鴻雁北 ~こうがん、かえる~  十四皿目~

ツバメが訪れる頃、日本で冬を過ごした雁(ガン)が遥か彼方のシベリアへ帰っていく。
次の秋から冬にまた会うまでのしばしのお別れである。

『ふゆみずたんぼ』という言葉を知っているだろうか。

いわゆる冬期湛水水田で、冬の間もその名のとおり田んぼに水を張り、田んぼに生きる原生生物やイトミミズ、渡り鳥など多様な生き物の力を借りて無農薬、無化学肥料で米

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薬膳空想物語『七十二候の食卓』

薬膳空想物語『七十二候の食卓』

清明
玄鳥至 ~つばめ、きたる~  十三皿目~

冬の間、温かい地方で過ごしていたツバメ達が海を渡ってやってくる頃。
ツバメ達の飛び交う姿を見始めてきたら農作業もいよいよ本格的に始まります。

日照時間の長さを感知して渡りを開始するため、天候や気温に左右されず
毎年3月〜5月にかけて南方から日本へと渡ってくるツバメは、長い道のりを旅する渡り鳥。
その移動距離は2000〜3000kmにもなるそうで

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薬膳空想物語『七十二候の食卓』

薬膳空想物語『七十二候の食卓』

春分
雷乃発声 ~かみなり、すなわちこえをはっす~  十二皿目~

春の訪れとともに、春の雷は恵みの雨を呼ぶ兆しで、この時期に鳴る雷を「春雷」という。
雷というと夏のイメージだが、「春雷」は夏の雷と違って比較的ひかえ目で激しさは感じられない自然現象。
『春雷は不作』ということわざがあるが、これは「雹」(ひょう)が関係しているらしい。
主に寒冷前線が通過するときの春雷のことだと思われるが、
寒冷前線

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薬膳空想物語『七十二候の食卓』

薬膳空想物語『七十二候の食卓』

春分
桜始開 ~さくら、はじめてひらく~  十一皿目~

全国各地から開花の便りが届くころ。
ぽかぽかと暖かさを感じる日も増え、いよいよ本格的な春の到来。
桜の花が芽吹き、咲き始めるのをこんなにも日本中が待ち焦がれる時期はないであろう。

春は、一気に目に触れる「色」が今までの冬色から彩りをあたえてくれる季節でもある。
日本の美しい色を表現する言葉は、その情景が感じられ想像力を掻きたてられる。

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薬膳空想物語『七十二候の食卓』

薬膳空想物語『七十二候の食卓』

「春分」
雀始巣 ~すずめ、はじめてすくう~  十皿目~

春分は太陽が真東から昇って真西に沈み、昼と夜の時間がほぼ同じ長さになる頃。

そしてその初候は、かわいい雀たちが枯れ枝を集めて巣作りを始め、家の軒下から時折顔を出しては勤しんでいる姿を見かけて、ほっこりした気持ちになる。

先祖を供養する「春の彼岸」を迎え、
その昔この世は東、あの世は西にあるとされ、彼岸の頃はあの世とこの世が通じやすくな

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薬膳空想物語『七十二候の食卓』

薬膳空想物語『七十二候の食卓』

菜虫化蝶 ~なむし、ちょうとなる~  九皿目

厳しい冬を越したさなぎが羽化して美しい蝶となって羽ばたいていく頃。
菜虫とは菜の花や大根、蕪などにつく幼虫、青虫のことである。
そして菜虫が蝶になるこの時期は「啓蟄」から「春分」への変遷を意味します。
生活の節目の少し前、4月からの物事の始まりの一歩手前。

田舎道の土手に面した斜面には菜の花の絨毯。
小学生の頃、同級生の友達と菜の花に埋もれて寝転が

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薬膳空想物語 『七十二候の食卓』

薬膳空想物語 『七十二候の食卓』

啓蟄
桃始笑 ~もも、はじめてさく~  八皿目

桃色のぷっくりしたつぼみが膨らみ、桃の花が開き始めるころ。

道端に寝っ転がって日向ぼっこをしている猫を見つけた時。
美味しい炊きたてのごはんを頬張った時。
お母さんの背中ですやすや寝ている赤ちゃんに遭遇した時。
こうして美しい桃の花を愛でた時。
ふわっと自然にこぼれる笑みは、何も言葉を発しなくても思わず溢れでる。

『桃季もの言わざれども下自ずか

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薬膳空想物語 『七十二候の食卓』

薬膳空想物語 『七十二候の食卓』

啓蟄
蟄虫啓戸 ~すごもりのむし、とをひらく~  七皿目

冬眠していた生き物が春の日差しのもとに出てくる頃。
軽快に土の上に出てきて遊びだすトカゲや、葉っぱにしがみつき顔を出すカエルたち。
間もなくやってくる春に向かって本格的に動き出してきた。
土の中で冬ごもりをしていた様々な虫や生き物たちが地上へと這いだしてくる頃。

蠢いてくる虫たちには関係のないやっかいなもう一つの「春の風物詩」の季節でも

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薬膳空想物語
『七十二候の食卓』

薬膳空想物語 『七十二候の食卓』

雨水
草木萌動 ~そうもく、めばえいずる~  六皿目

空気のやわらかさを感じながら、潤った土や草木からかわいい新芽が顔をだし、芽生える頃。

長い冬を纏っていたコートを本格的に脱ぎ捨て、一気に色のついたスプリングコートを身に着け羽を付けたい気分になる。

軽めのコート、スニーカー。
あぜ道を歩けば、たんぽぽが冬のなごりの枯葉の中から顔を出す。
ひとつひとつの芽吹きの気配によろこびが湧いてくる。

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薬膳空想物語『七十二候の食卓』

薬膳空想物語『七十二候の食卓』

雨水
霞始靆 ~かすみはじめてたなびく~  五皿目

『佐保姫の糸染め掛くる青柳を吹きな乱りそ春の山風』(平兼盛 詩花和歌集)
~佐保姫が染めた糸を掛けた柳の枝を吹き乱さないでおくれ春の山風よ~

陰陽五行説では春は東の方角にあたりその場所に宿る神霊佐保山 佐保姫(※1)を春の女神と呼ぶようになった。
そして、白く柔らかな衣を纏う佐保姫と、山に霞かかる美しい風景を春霞という言葉になぞられたのではな

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薬膳空想物語『七十二候の食卓』

薬膳空想物語『七十二候の食卓』

雨水
土脉潤起 ~つちのしょううるおいおこる~ 四皿目

冷たい雪が暖かい春の雨に変わり、大地が潤いはじめてくる頃。
少しずつ寒さも緩み始め、万物の生き物たちが目覚めてきます。

まだうっすらと所々雪が被った田んぼ道を散歩してみた昼下がり。
茶色と白の中から突然現れた可愛いひよこの頭か?とドキリとしてしまう。
今年初の黄色い花の福寿草が顔を出していました。

ふつうの花ならば芽が出て葉が育ち、そし

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薬膳空想物語『七十二候の食卓』

薬膳空想物語『七十二候の食卓』

~はじめに~
日本人ならば、二十四節気という言葉を少なからずどこかでは聞いたことがあるでしょう。
もともとは古代中国で作られて、季節の移り変わりをあらわす指標として農業で重宝されてきました。
太陽の運行をもとに、一年を二十四に分けたのか「二十四節気」で、旧正月の暦から始まり立春、雨水、啓蟄…と続く。
そのひとつの節気を更に三つに分けたのが「七十二候」。
四季がある日本で、暦の美しい言葉とともに不思

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薬膳空想物語 『七十二候の食卓』

薬膳空想物語 『七十二候の食卓』

立春「黄鶯睍睆 ~うぐいすなく~」  二皿目

この立春を過ぎたうららかな日に
偶然、ウグイスの鳴き声を耳にしたときは不思議と穏やかでやさしい気持ちになる。
年の最初に聴くウグイスの声を「初音(はつね)」というらしい。
そして、この季節あたりに生まれた由来でわたしの名前も「初音」だ。

せっかくの誕生日あたりのこの時期は、毎年ながらなんだか憂鬱だ。
仕事も忙しくてやることいっぱいで、でも考えたく

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薬膳空想物語 『七十二候の食卓』

薬膳空想物語 『七十二候の食卓』

~はじめに~
日本人ならば、二十四節気という言葉を少なからずどこかでは聞いたことがあるでしょう。
もともとは古代中国で作られて、季節の移り変わりをあらわす指標として農業で重宝されてきました。
太陽の運行をもとに、一年を二十四に分けたのか「二十四節気」で、旧正月の暦から始まり立春、雨水、啓蟄…と続く。
そのひとつの節気を更に三つに分けたのが「七十二候」。
四季がある日本で、暦の美しい言葉とともに不思

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