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薬膳空想物語 『七十二候の食卓』

雨水
草木萌動 ~そうもく、めばえいずる~  六皿目

空気のやわらかさを感じながら、潤った土や草木からかわいい新芽が顔をだし、芽生える頃。

長い冬を纏っていたコートを本格的に脱ぎ捨て、一気に色のついたスプリングコートを身に着け羽を付けたい気分になる。

軽めのコート、スニーカー。
あぜ道を歩けば、たんぽぽが冬のなごりの枯葉の中から顔を出す。
ひとつひとつの芽吹きの気配によろこびが湧いてくる。

子どもの頃に走ったあの土手に行ってみようか。
あの頃は風を切って思いっきり走っても、どんな遠くまで歩いても枯渇しない無敵な体力があったけど、
今は抵抗できない歳月の経過にこの身をもって感じてしまう。

あなたは戻れるのなら、どんな年齢の自分に戻りたいですか?

草木萌動 そうもく、めばえいずる。
人生を季節で例えるなら、めばえいずる頃の春は間違いなく若く、これからぐんぐん育っていく幼少時代から10代にかけてだろう。
タイムマシーンにでも乗らないと戻れない。

今は静かに受け入れて、自分のからだをただただ愛でてあげるしかない。

何気なく足元に咲くたんぽぽは、パキッとした発色が元気をくれる。
優美な花が発するようなかぐわしい香りはないけど、素朴なひだまりのような匂い。
そして、ナチュラルに老いていくのさえも前向きに受け入れてくれる。

自然でいいんだよ。


そんなことを囁いてくれているような気がする。


そうだ。
元気を満たしてくれる『春キャベツでロールキャベツ』を作ってみよう。

やわらかい春のキャベツ(※1)を一枚一枚丁寧にはがす。
沸騰したお湯に入れサッとゆでて冷水に浸しておく。
タネを作る。牛乳(※2)にパン粉を浸しておく。
キャベツの硬いところの芯をみじん切り、玉ねぎ(※3)、人参(※4)もみじん切りにする。
ボウルに豚ひき肉(※5)、塩、胡椒、ナツメグ、生卵(※6)、パン粉を入れる。
粘りが出るまで練る。
タネを水分をふき取ったキャベツに包んでいく。
ころころたくさん作る。
鍋に均一に並べ、水を張りコンソメ、ケチャップ、ローリエを加えて煮る。


ほっこり春の兆しの元気ロールキャベツが出来上がった。
気を補充して滋養も満たされるごはん。
からだを巡る細胞は間違いなく春の季節に戻ったようだ。


※1 キャベツ:食味/甘  食性/平 帰経/心・肝・腎
※2 牛乳:食味/甘  食性/平  帰経/心・肺
※3 玉ねぎ:食味/甘・辛  食性/温  帰経/肺・胃・肝
※4 人参:食味/甘  食性/平  帰経/脾・脾・肺   
※5 豚肉:食味/甘  食性/平  帰経/脾・胃・腎  
※6 卵:食味/酸・甘  食性/平  帰経/肺・脾・胃・心・肝・腎

●食味:酸味・苦味・甘味・辛味・鹹味([かんみ]塩からい味)を五つに分けたもの(五味ともいう)
●食性:熱性・温性・平性・涼性・寒性と食物の性質を五つに分類したもの(五性ともいう)
●帰経:生薬や食材が身体のどの部分に影響があるかを示したもの。ここでいう五臓は「肝・心・脾・肺・腎」の事だが、単に臓器の働きにとどまらず精神的な要素も含まれ、ひとつひとつの意味は広義にわたる。

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