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バラと錠剤〜アメリカ人との交際の物語

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オーストラリアに 1 年間留学し、帰国後のタクの心は曇っていた。この物語はタクの実体験を元に書かれている。2006 年 3 月~11 月、タク は大学生で、英語教師として日本に滞…
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2020年8月の記事一覧

バラと錠剤(15/15)〜アメリカ人との交際の物語

ホイットニーの帰国も間近。香港系オーストラリア人女性アリスの誕生会で、アリスのマンションでパーティーが開かれた。ホイットニーやアリ スが好むガールズナイトではないことを念のため確かめた後、タクは参加することにした。タクとアリスの職場仲間 1 名が日本人で、他は全 て英語圏出身で、10 人前後は来ていた。 主役のアリスの手料理が次から次へと振る舞われた。食事も済ませ、いつの間にか、手相の話しで盛り上

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バラと錠剤(14/15)〜アメリカ人との交際の物語

コートを着ないと寒くなってきた、砂の音がタクの脳裏に蘇った頃。ベットタウンだけのことはあり、彼女の最寄り駅西口にある夜の商店街は にぎやかだ。タクは二人乗りでママチャリをこぐのをあきらめ、押しながら商店街の人並みの中を歩いていた。

「私が去るとき、このチャリ、あなたにあげるね!」

「.........」

自転車が盗まれて家に帰るのも一苦労、そんな話しをしていた矢先だった。台詞自体は彼女らしい

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バラと錠剤(13/15)〜アメリカ人との交際の物語

夏雲が壮大にそびえていたタクの誕生日。タクは誕生日の興奮も手伝い、早朝に目が覚めた。タクのボロアパートには冷房がない。蒸し暑 かった。特に会う約束の時間は決めてなかったので、そのままホイットニーのマンションに出向いた。アメリカではあり得ないらしいが、カナダ では玄関の鍵をかけないらしい。カナダ人キャシーも住んでいるからか、いつも玄関の鍵は空いたままだった。玄関のドアを開け、ホイットニ ーの部屋のド

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バラと錠剤(12/15)〜アメリカ人との交際の物語

「おでこ」

薄暗がり、ベットの上 横たわる二人
見つめ合う視線
不意に、青い瞳を流れた すう滴の雫
悲しいとき つらいとき 感動したとき
そんなありふれた 雫ではなかった
どこまでもジュンスイで、何よりも 透き通っていた
君の真っ直ぐ懸命に生きようとする 繊細な心のように
どこか、爽やかで
とても、愛らしい
そんないとおしい雫 そしてぼくは、オデコにそっとキスをした

この詩に語られたホイットニ

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バラと錠剤(11/15)〜アメリカ人との交際の物語

ホイットニーは裸族だ。いつしかタクも裸になり、背中を合わせ体温を感じながら、幼虫のように丸まって寝るようになっていった。ホイットニ ーが仕事の日は 5 分おきに鳴るように携帯電話のアラームを設定していた。だいたい 3 回目のビープ音で起き上がった。3 回目までの猶 予、寝ているとも起きているともとれる幻想的な狭間で、片時の戯れをしていた。上向きにカールの効いた彼の長まつ毛を眺め、「Cute」と囁

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バラと錠剤(10/15)〜アメリカ人との交際の物語

ホイットニーはソフトボールで二塁手を、タクは三塁手を務めた経験がある。二人で西武ライオンズとソフトバンクのプレーオフの試合を見に 行った。松坂投手から松中選手がホームランを放ちソフトバンクホークスが勝利した。WBC の影響でホイットニーも松坂投手はしっていた。 デイゲームだったので昼下がりのような明るさを保っていた。彼女の最寄り駅周辺で祭りが催されている。帰りついでに祭りによった。駅の西 口を出る

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バラと錠剤(9/15)〜アメリカ人との交際の物語

タクが体験した無理な話を語りだせば枚挙にいとまがないので、話をキャンプに戻す。 御花畑駅に着いた。駅のプラットホームに白人女性がひとり、手持ち無沙汰に立っているのが見えた。直立不動でリュックをからっていた。 気丈に見えたがどこか不安げにもみえる。ど田舎の昼下がりに、白人女性と落ち合う確率をはじき出すと、偶然とは思えなかった。一つしか ないプラットホーム沿いに二人は 4、5 メートル離れたところに位

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バラと錠剤(8/15)〜アメリカ人との交際の物語

お互い付き合っていると認めてそれほど月日が経ってない、一軒家からキャシーと共にホイットニーがマンションに引っ越したばかりの春さ がり。ちょうどいい機会だと思い、ホイットニーは日本語の勉強を始めていた。日本にやってきて二年半近く。英語では、the most、や the best の単語が頻出する為、どこまで間に受ければ良いかタクには分からなかったが、男女を含め、しっかりと友達になりたい、心から興味を

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バラと錠剤(7/15)〜アメリカ人との交際の物語

大学 2 年の夏休み、当時まだタクの恋人だったエニーが香港から日本へ遊びに来ていた時のこと。その一年前にも日本を訪れ、ニックのマ ンションで中華料理を振る舞ったことがあり、彼らとはそれ以来の顔なじみだ。飽きっぽいエニーは、1、2 年ペースで転職していた。世界トッ プクラスの国際競争力を誇る香港だけあり、転職も用意にできるのだろうか。転職の合間に約 2 ヶ月、日本に滞在している最中で、 エニー も一

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バラと錠剤(6/15)〜アメリカ人との交際の物語

玄関を抜けた所に、キッチン付き居間があり、その奥、ベランダに面した 2 部屋のうち左側がニックに割り当てられていた。ニックの部屋のド アが開くと、料理のときに流していた、ニックお気に入りの音楽が飛び出してきた。

「最近よそよそしいんじゃないか。友達は友達だ。恋人ができようが、関係ない。会いたいから会うんだ。今までのように連絡してくれ」

ニックはそう言い、タクにハイタッチを求めた。

「そうよ」

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バラと錠剤(5/15)〜アメリカ人との交際の物語

タクが上京して 1 ヶ月ほど経ち、大学も始まったばかりの頃だった。帰国して数ヶ月しかたっていなかったので、日本に強烈な違和感を覚え ていた。敵ばかりの戦場に出向いた兵士のごとく、肩に力が入るわ、精神は血走っているわ。自然体を理想と仰ぐ青年の滑稽な諷刺画のよ う。新ゲイコンパでタカと仲良くなり、タカと飲み歩いていたある晩のこと。交友関係が広く深いタカは長電話を始めた。手持ち無沙汰になった タクは、辺

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バラと錠剤(4/15)〜アメリカ人との交際の物語

「犬と猫どっちがすき? 」

「犬」

「私は猫」

なぜ?と、聞き返しもせず、ホイットニーは猫を選んだ訳を語りだした。すきっ腹にビールが回ったタクは、はっきりとは聞き取り損ねたが、

「猫は孤高で自分らしく生きているからいい」

と言っていた雰囲気はわかった。彼女らしかった。それは同時に、しっぽを振りまわし、無闇やたらと懐いてくる犬に対する複雑な気持ちの顕 われだった。そんな犬の像と、ひたすら媚

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バラと錠剤(3/15)〜アメリカ人との交際の物語

大学二年の初秋、タクは日比谷公園の外国人フェスティバルに足を運んだ。そこでカナダ人の友、ケントと落ち合うことにかなっていた。よい 機会なので、英語にも興味があり、好奇心も強い大学の友ヤスを連れて行った。公園に着くとケントの当時のハウスメイトのホイットニーも一 緒だった。ホイットニーは、タクやケントの飲み仲間のニュージーランド人ニックと別れたばかりで、タクは留学中に付き合いだした香港人エニ ーと遠距

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バラと錠剤(2/15) 〜アメリカ人との交際の物語

話は上野に戻る。
なるほどと思いつつ、キリスト教の地なのかな、と疑念に駆られたタク。さして重要な点でもなかったし、言葉尻をとるようで気が引けたので、 何も言い返さなかった。 ホイットニーの日本語力は、英語で例えるなら、ハロー、ノープロブレム、といったレベルなので、二人の会話は英語だった。 タクには、受験英語しか下地のないまま 20 歳を過ぎ、そこから 1 年間留学した程度の英語力しかない。ホイット

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