バラと錠剤(4/15)〜アメリカ人との交際の物語

「犬と猫どっちがすき? 」

「犬」

「私は猫」

なぜ?と、聞き返しもせず、ホイットニーは猫を選んだ訳を語りだした。すきっ腹にビールが回ったタクは、はっきりとは聞き取り損ねたが、

「猫は孤高で自分らしく生きているからいい」

と言っていた雰囲気はわかった。彼女らしかった。それは同時に、しっぽを振りまわし、無闇やたらと懐いてくる犬に対する複雑な気持ちの顕 われだった。そんな犬の像と、ひたすら媚びてくる者、己を自らに卑下する姑息な者とを重ね併せているかのようだった。
あるドラマの役でホイットニーが忌み嫌った男がいる。
彼には好きな女性がいた。 しかし、彼女には婚約者がいた。 結婚間近で、その婚約者は死んだ。 時を同じくして彼は他の女性と付き合いだした。 しかし、彼はまだあの女性が好きであった。 別れることもなく、 好きな女性の周りに故意に出没し続ける彼... そんな感じのストーリーだ。
姑息にみえるところは、犬と変わらないようだった。同時に、方向性が異なるとも思えた。無心にひたむきで従順な犬。かたや、狡猾でしたた かな彼。
ある日、「嘘のつき方」というタイトルの詩をタクは書いたことがある。

「嘘のつき方」

嘘って何? 嘘って悪?
おもいあまって本音を隠す これは嘘? 誤解をおそれて本音を隠す これも嘘?
定義なんて重要じゃない 詳細なんてどうだっていい
本音が 本音で あり続けること 絶対に 大切にしていきたいこと
いつまでも 自分の 気持ちに 正直で ありたい
だから 自分に 嘘は つきたくない
誠実
僕が 一番 求めるもの 人で 一番 大切なもの
誠意ある嘘 それってあり?
相手を思いやった先にいきついた嘘は、許されてしかるべきだ。へたをすれば信頼を失うかもしれない危険を受け入れ、あえて相手のため に行動するのは、かっこいいとすら思っている。

「the way we tell a lie」(嘘のつき方)
What is a lie? Is it evil?
Would it mean a lie if we ended up hiding a real feeling caring too much about other's feeling?
would it mean a lie if we ended up hiding a real feeling fearing other's misunderstandings?
The definition ain't important by any means. The detail ain't important in the least.
A real feeling has to be accepted as real at any cost. It is the thing that definitely has to be respected.
I wanna be honest following my real feeling for good, so I won't tell a lie to myself.
Honesty
It is the thing that I seek the most.
IT is the thing that people respect the most.
a lie as a result of sincerity Is it understandable?
Is it acceptable?
(I think it is!)

英訳した詩をホイットニーに読んでもらった折、

「なんて日本的な発想の詩なの」

と、返ってきた。訝しんでいるのか焦点が合わず遠い目をしていた。賛成の色は微塵もなかった。タクはそんなホイットニーの背景が、あの姑 息な男への過度な苛立ちを呼び込むのかと思った。タクにとっては、繊細さと弱さを備えた人間味があり、どこか憎めないところがあった。
自分自身にとことん正直に生きようともがいているタク。ホイットニーも、自分自身の中に応えを求めていた。それがタクには心地よかった。 切りのない、だまし合い、探り合いをする必要もないと思っていた。後に語られることになる、西洋産の「あるスイッチ」を感知し、そのメカニズ ムを暴くまでのタクは、本気でそう信じていた。ユートピアの幻影を暴くスイッチだった。

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