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harari
2022年3月6日 11:34
亡くなった祖母の古民家で、手仕事が好きな若い娘4人が「りかさん」を取り囲むように微笑ましく、慎ましく過ごす日々が描かれた作品。形式上は寮で、孫の蓉子と美大生の2人と、鍼灸の勉強で日本に来たアメリカ人のマーガレットがひとつ屋根の下で暮らしている。中近東のキリムという織物に熱中しており、サバサバとした性格と物言いの与希子に、織物が名産の島で生まれ育ち、自らも機織りをする大人びていて物静かな紀久。
2022年1月21日 20:39
始まりでは、暗闇や紺色の世界を纏っていたストーリーと主人公が、徐々に明るい世界を見始めて、強烈に生きていることを実感していく様子にグッとくる。終わりの世界は例えるならば、赤や橙の燃えている色であった。主人公の鳴木戸 定は25歳の編集者として働く女性であり、過去の強烈なエピソードや生い立ちから、今も独特の空気感を持つ女性であり、感情が読めず、周囲がドン引きすることも平気でしてしまう所がある。そん
2022年1月11日 23:53
私は小学生の頃、重松清の「カレーライス」が教科書に載っていた世代だ。記憶は朧気ではあるが、主人公の男の子は父親に謝らないと意地を張っていて、それが何故だかをクラスメイトと議論する授業があったと思う。教科書の文字が大きかった気もするから低学年だったのだろうか?それから時を経て、「ステップ」が映画化されたのを機に、小説が図書館にあったので読んだ。過去に「とんび」がドラマ化された時には、家族で食卓
2022年1月5日 20:14
絵画に詳しくなくとも、大半の人が名前を知っている名画家ゴッホの生きた時代を、タイムスリップしたかのように思わせてくれる正確な描写と熱量が迫る。私たちの生きる時代で、ゴッホは超が付く有名画家だけれど、彼は遂に生きている間に自分の絵の価値を確かめることができなかった人だと初めて知った。舞台は1886年〜91年のフランスで、その頃のフランスは絵画ブームが起きており、その新しい波として日本の浮世絵が
2021年12月28日 01:42
昔の小説の言葉遣い、文体が好きだ。特に今回読んだ作品は、不思議とスッと文章が頭の中に入ってきて、初めて触れた三島由紀夫の作品であったが、恐らく文体と気が合うのだと思う。この小説は、自殺未遂に失敗した二十七歳の男が、新聞の広告欄に「命売ります」と掲載したばかりに、様々な危険な目に遭いながらも生きながらえてゆく物語である。羽仁男が死のうと思った所以には、ゴキブリが這いずり廻り、新聞に紛れ込ん
2021年11月24日 19:47
いい歳をした男の兄弟が二人暮らしをしていると、怪しいのだろうか?なんだかちょっと怖いのだろうか?この小説に登場する主人公たちが聴く音楽や映画に江國香織節を感じつつも、そんな問題提起もしていると感じた。江國香織の作品の中では珍しく男性の主人公(それも兄弟で、決していい男ではないタイプの)である。兄の明信は会社勤めで几帳面な性格であり、弟の徹信は学校職員で時としてお調子者といった風はあるが、
2021年11月18日 13:36
『夏物語』という題名と表紙の装飾から、ちょっぴり切ない少女の恋か、ひと夏の淡い恋とか人々の行方の物語かと推測していたけれど、この作品が取り扱っている内容はディープで、第二部に入ると一筋縄ではいかない生と誕生についての物語へと内容がシフトしていく。この本を手に取るきっかけは、Me-timeという雑誌のなかで江國香織がおすすめしていたからで、もう秋になってしまったが読み進めることにした。人が生ま