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みやまる・スポーツブックス・レビュー

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#ノンフィクション

孤独な野球人が語らなかった8年間の物語:鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたか』

孤独な野球人が語らなかった8年間の物語:鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたか』

 作中にも少し触れているくだりがあるが、中日新聞には創業家が二つ存在する。「新愛知」と「名古屋新聞」という二つの新聞社が1942年に統合されて誕生したため、新愛知の大島家、名古屋新聞の小山家がそれぞれ創業家となっているのである。
 新愛知は名古屋軍と大東京軍、名古屋新聞は名古屋金鯱軍と、かつてはそれぞれが球団を保持していた。

 この「ツーインワン」の構造はそのまま派閥争いとして残り、<歴代監督人

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「栄光」という光の裏側にあるもの:沢木耕太郎『敗れざる者たち』

「栄光」という光の裏側にあるもの:沢木耕太郎『敗れざる者たち』

 中学生の時に2002年のサッカー日韓ワールドカップを取材した『杯(カップ)-緑の海へ-』を読んで以来、スポーツや映画を中心に様々な沢木耕太郎「私ノンフィクション」を読んできた。都会的でありながら、アスリートや役者の肉体にこもる芯の熱くなる部分も忘れない、シャープな文体のファンである。
 今回の『敗れざる者たち』については「なんで今まで読んでこなかったんだろう…」と、少し後悔すら感じるような「珠玉

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黄金期を作った“寝業師”の面倒見の良さとは:髙橋安幸『根本陸夫伝 プロ野球のすべてを知っていた男』

黄金期を作った“寝業師”の面倒見の良さとは:髙橋安幸『根本陸夫伝 プロ野球のすべてを知っていた男』

 所沢の僕の実家の近くに根本陸夫邸があった。根本は99年に亡くなっているし、他の家族が住んでいる気配も無かったので大した接点とは言えないが、それでもずっと掛かっていた「根本陸夫」の表札を見ると背筋がシャンとした。西武ファンとして、野球ファンとしては、名前を見るだけで凄みが伝わる人物であった。

 本著は旧制中学から近鉄まで長らくバッテリーを組んだ関根潤三はもちろんのこと、工藤公康、大久保博元、

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横浜ファンのみならず、野球ファンの胸を掴む男たちの長いドラマ:村瀬秀信『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』

横浜ファンのみならず、野球ファンの胸を掴む男たちの長いドラマ:村瀬秀信『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』

 年間143試合もやっていると、連敗やイージーミスなどを見て「俺は何でこんなチームを贔屓にしてるんだろう」なんてことを思う試合がある。そしてNPB12球団の中でそんな「煮え湯」を飲まされているのが、大洋・横浜・DeNAファンだろう。今でこそCSや日本シリーズに駒を進めるようになってきてはいるが、長らくAクラスはおろか、5位すら遠い暗黒が球団を包んでいた。

 文庫にして431ページと、重厚な球団史

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猪木が北半球と苦闘した熱い1年:柳澤健『完本 1976年のアントニオ猪木』

猪木が北半球と苦闘した熱い1年:柳澤健『完本 1976年のアントニオ猪木』

 アントニオ猪木のタオルと同じく真っ赤な表紙と、文庫にして500ページ近い束の厚さ。正直なところ、「プロレスは詳しくないが、猪木はなんとなく好き」という知識の自分が、この迫力ある本を読み通せるか自信が無かった。だが、数多の当事者の証言からパキスタンの新聞記事に至るまで圧倒的な取材量で、あっという間に当時のプロレス・格闘技の世界に引き込まれた。
 猪木は1976年にウィリエム・ルスカ(オランダ)、モ

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ネズミであり妖精であり星人であり龍(?)であり:木村元彦「誇り-ドラガン・ストイコビッチの軌跡-」

ネズミであり妖精であり星人であり龍(?)であり:木村元彦「誇り-ドラガン・ストイコビッチの軌跡-」



 昨年のW杯前ちょっと残念というか、やりきれない思いになったことがある。某サッカーサイトで「もし今、旧ユーゴ代表があったらどんなメンバー」かという企画があった。モドリッチをはじめそうそうたるメンバーが並んでいた。クロアチア代表だけであれだけ強いのだから、優勝できるかもしれない。しかし監督を見て心躍る妄想から、がくっと現実に引き戻されてしまった。「監督:ダヴィド・ハリルホジッチ」。確かにボスニア

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逆境を笑え 野球小僧の壁に立ち向かう方法

逆境を笑え 野球小僧の壁に立ち向かう方法



(初出:旧ブログ2016/10/26)

 著者の名前を見て、「イチローのことがたくさん書いてあるんだろうな」と思った人は多いはず。川﨑の本なのに。本当にイチローのことが目一杯書かれているんだけどね。目次だけで『感動したイチローさんの一言』『イチローさんがいなくなった』『イチローとの出会い』『イチローが俺に火をつけた』とイチロー尽くし。最終章にあたる第7章の題は『WBCとイチローの衝撃』。もは

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ベースボール労働移民 ---メジャーリーグから「野球不毛の地」まで

ベースボール労働移民 ---メジャーリーグから「野球不毛の地」まで



(初出:旧ブログ2016/02/04)

 帯に「WBCの見方も変わる!」と書いてあって、軽く読めるかな~と思って買ったら想像とちょっと違った。大学の授業で副読本として使う本って感じかな。ついついアスリート・スポーツ選手というカテゴリに押し込めがちだが、プロ野球選手がプロと名乗る以上労働者なのだ。野球という職を求めて世界を流浪する姿を、果てはイスラエルやジンバブエまで追う。

 1年で終わった

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鈴木亜久里の挫折-F1チーム破綻の真実

鈴木亜久里の挫折-F1チーム破綻の真実



(初出:旧ブログ2016/01/30)

 最近はほとんどF1中継を見なくなってしまったが、一時期かなり熱心に見てた。ドライバー個人ではキミ・ライコネンと小林可夢偉が好きだった。そして日本のチームであり、鈴木亜久里がゼロから作ったという「判官びいき」も手伝って応援してたのがスーパーアグリF1チーム。おそらく同じような理由でスーパーアグリを応援していた人も多いはず。

 プライベーターとしてF

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最弱球団 高橋ユニオンズ青春記

最弱球団 高橋ユニオンズ青春記



(初出:旧ブログ2015/12/19)

 プロ野球通でもちょっと盲点だったりする高橋ユニオンズ。ミヤまるのこの本を読む前のユニオンズの知識といえば

・V.スタルヒン最後の球団
・『プロ野球ニュース』の佐々木信也が入団した球団。
・3年で解散

こんなもんである。高橋球団に触れた作品も『梶川一幸の犯罪』(赤瀬川隼。『深夜球場』収録の短編)くらいしか読んだことない。

 「永田ラッパ」こと大映

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みのもんたのプロ野球世紀の珍試合

みのもんたのプロ野球世紀の珍試合



(初出:旧ブログ2015/12/14)

 珍プレーのみのさんナレーションの後に読むにはピッタリの本かなと思って手に取った。85年から10年の間に起こった20の「馬鹿試合」を紹介し、最後に「みのさんウラ実況」として試合当時のチームにまつわる四方山話を語る。野球と全然関係のないこともペラペラ喋ってるけどそれこそみの節の真骨頂。

 よく考えたら「馬鹿試合」ってなかなかほかのスポーツでは考えにくい

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争うは本意なれど:ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えたひとびとの美らゴール

争うは本意なれど:ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えたひとびとの美らゴール



(初出:旧ブログ2015/12/05)

  関塚フロンターレは見てて本当に楽しかった。川島永嗣、箕輪義信、寺田周平、井川祐輔、谷口博之、そしてFWの豪華さたるや。黒津勝、ジュニーニョ、鄭大世、今やセレソンの顔であるフッキすらJ2に出場機会を求めるくらいの厚さだった。そしてそのタレント軍団の中でも一際輝いているのか中村憲剛と我那覇和樹だった。

 その我那覇は07年にピッチ外のことで振り回さ

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松本山雅ものがたり-J1をめざすアルプスの風

松本山雅ものがたり-J1をめざすアルプスの風



(初出:旧ブログ2015/11/16)

 今年等々力で初めて山雅のサポーターを生で見た感想は「……噂には聴いてたけどスゲェなぁ……」。昇格1年目なのに浦和・F東・新潟・柏と勝るとも劣らない深緑の大群の盛り上がりにびっくり。

 松本駅前の喫茶店の常連客で作った草サッカークラブがJ2に昇格するまでの50年近くに及ぶリアル「サカつく」。そもそもサッカーより登山が好きなお客さんが多い店で山に登ら

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