見出し画像

『沖晴くんの涙を殺して』 (額賀澪 作) 4 #読書 #感想文

1冊のために感想文を書き始めて4日も経ったが、今日で最後にしようと思う。

最終話 死神の入道雲

この話では、京香の死後の世界が描かれる。元彼の赤坂冬馬と沖晴は、それなりに親しくなっていた。
沖晴は感じている。299ページ・308ページより

喜び、嫌悪、怒り、悲しみ、怖れ。全部、自分の中にあるはずなのに。取り戻したはずなのに。ときどき、無性に何かが欠けているような気分になる。
その人の死は、後悔と心残りとともに《当たり前》になっていく。

近しい人が亡くなった時。残された人たちは「たられば」の話をするというのはよくわかる。それをしたくてしているのかどうかは別として。
もっと〜〜してあげればよかった。あの時〜〜していたら。

でもその人の死は、いつか《当たり前》になる。自分の中からその人の死に対する感情が抜けていくように感じる時がある。それはその死を乗り越えたということなのかもしれないけれど、どこかでそれが《当たり前》になってしまうことが許せないような気もしている。うまく言えないけれど。

過去にできる強さは欲しいけれど、ずっとずっとそれを忘れないでいたい。生きたい。



沖晴は生前の京香の言葉を思い出す。
307・321ページより

『過去の辛い経験と決別するためだったり、今目の前にある困難を乗り越えるためだったり、未来に起こる苦しみを回避するために、嫌悪も怒りも悲しみも怖れもあるんだって。これがあるから人間は、過去と現在と未来を生きることができるんだよ』
じゃあ、喜びは?

喜びは、今この瞬間を沖晴君が愛している証拠だよ。

沖晴は、彼女が「生きていけ」と指をさした未来を愛しいと想いながら泣いている。彼女のことを想って泣いている。

最後に沖晴は「新しい『命』」と向き合うことによって、本当の意味で京香の言葉を理解できたのかもしれない...と思う。

「死」を乗り越えた先で「生」に出会ったのかもしれない。
「生」に出会ったことで「死」を乗り越えられたのかもしれない。


『この世界を、生きていきたい』と思って涙を流す沖晴の姿を、最後まで見届けてほしい。





この記事が参加している募集

#推薦図書

42,553件

#読書感想文

189,330件