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夕食の最中、母と大げんかをして家を飛び出した。

何が原因だったのか怒り納め難く、とりあえず飛び出した。
とはいえ、たかが中学2年生、行くあてがあるわけもなく、あっちうろうろこっちうろうろ。結局家から15分足らずの母の実家、祖父と叔父叔母家族が住んでいた家に行った。行ったはいいが、玄関からコンバンハというわけにもいかず、家の周りをぐるぐる。何を思ったのか、屋根に登った。

そうだ。柿の木がすぐ軒先にあったので、それをつたって登れたのだ。昭和の瓦屋根の上を滑らないように夜目を凝らしながらつたい歩き、一歩一歩手探りで落ち着けるところを探し、座り込んだ。
 
11月の終わりだったろうか、屋根の上には熟れた柿の実がそこここに潰れ、葉っぱも積もっていて、触るたび、踏むたびにガサガサヌルヌルして滑りやすかった。寒いなとか、お腹空いたなとか、お尻が冷たくって気持ち悪いなとか、まだ探しに来ないなとか、
 
どのくらいそうしていただろう。
 
夜の庭の中から私の名前を呼ぶ聞き慣れた大人達の声が聞こえてきて、屋根から下ろされるまでの間、私は瓦の上でつぶれた柿の実を尻に敷きながら、夜の空を見上げていた。
 
シアワセに気づくのは、いつもそれが通り過ぎた後だ。
11月の夜、たとえ屋根の上でひとり、柿でお尻がヌルヌルでも。

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