読み進めてくださってありがとうございます! 最終回、どうぞ最後までお読みください! ずっとそばにいてあげるから その夜、ふたりはまた同じ家のコンテナで一晩過ご…
キンモクセイの香りの下で 次の日も雨だった。白い水しぶきがガレージの屋根から滝のように落ちていく。コンクリートをたたく雨音が、ネコの心をいっそう憂鬱にさせてい…
キミの色は特別だ! 次の朝、水を飲みに出かけるネコの足取りは重く、気分も晴れなかった。 キーコは今日も窓辺にいるのだろうか。たかが人形のはずなのに、もしかして…
クロネコと不思議な人形の、悲しくて温かいファンタジーです。4つに分けて投稿しました。 まずは初めのお話です。どうぞ読んでみてください。 ネコとキーコの青い空 窓…
「いらっしゃいませ!」 さわやかな朝の店内に、美沙子の明るい声が響く。 ここは町外れのコンビニ。 美沙子は9ヶ月の大きなお腹を抱え、化粧品の棚に新製品を並べ…
「ほら!」 詩織の髪にとまった桜の花びらをつまんで、里奈は口元からフウッと吹き飛ばした。道路の端に積もった花びらが、風に誘われてサラサラと流れていく。 「春よ…
はじまり それはまったく突然始まった。K市の郊外、山あいの静かな町に、まだ肌寒いある春の夜、星空を渡り高らかに響きわたったのだ。 バス通りから少し入った、閑…
「いい天気だ」 男は開店の準備を整えると、古い肘掛椅子を店の入り口のわきに置いた。ネコはいつものように椅子に飛び乗ってゴロリと横になる。お決まりのポーズだ。目…
miclala
2024年3月19日 01:43
読み進めてくださってありがとうございます!最終回、どうぞ最後までお読みください!ずっとそばにいてあげるから その夜、ふたりはまた同じ家のコンテナで一晩過ごすことにした。夜明け前、ネコはぐっすり眠っているキーコを残して、そっと出かけていった。空気が湿っている。雨になるのかもしれない。ネコはこの辺りの猫たちが集まる公園へ急いだ。もう家に戻るだけなので、今さら集会に顔を出すこともないのだが、
2024年3月17日 19:50
キンモクセイの香りの下で 次の日も雨だった。白い水しぶきがガレージの屋根から滝のように落ちていく。コンクリートをたたく雨音が、ネコの心をいっそう憂鬱にさせていた。(キーコは今頃どうなっているのだろう。まったく哀れなものだ。まあ、なんにしても別におれには関係ない。どうでもいいことだからな) ネコは横になり、大きな体を固く丸めると、小さく息を吐いて目をつむった。 それから雨は数日続き、
2024年3月16日 21:16
キミの色は特別だ! 次の朝、水を飲みに出かけるネコの足取りは重く、気分も晴れなかった。キーコは今日も窓辺にいるのだろうか。たかが人形のはずなのに、もしかして、まだ昨日のような悲しい顔をしているのではないかと思うと、ネコは出窓を見上げる気がしなかった。ところがキーコは相変わらずの明るい声で、ネコに話しかけてきたのだ。「おはよう!」「ああ、おはよう」 ホッとして気を抜いた。ネコは「
2024年3月15日 21:36
クロネコと不思議な人形の、悲しくて温かいファンタジーです。4つに分けて投稿しました。まずは初めのお話です。どうぞ読んでみてください。ネコとキーコの青い空窓辺の出会い その日ネコは山根さんの家の屋根で、のんびり夕方の風にふかれていた。ここから眺める空は見事なものだ。ネコの頭上にはまだ青空が残ってはいたが、ポッコリ浮かぶ雲の端は、向こうにいくにしたがって少しずつオレンジ色に染められて、
2024年2月20日 20:55
「いらっしゃいませ!」 さわやかな朝の店内に、美沙子の明るい声が響く。 ここは町外れのコンビニ。美沙子は9ヶ月の大きなお腹を抱え、化粧品の棚に新製品を並べていた。「あ!」 腰をかがめた瞬間、美沙子は小さく声をあげた。そしてゆったり微笑むと「大丈夫! ママ無理しないよ」 そう言って、はちきれそうなお腹の中で元気に動き回る赤ちゃんを、そっと両手で撫でてやった。(いい天
2024年2月1日 22:09
「ほら!」 詩織の髪にとまった桜の花びらをつまんで、里奈は口元からフウッと吹き飛ばした。道路の端に積もった花びらが、風に誘われてサラサラと流れていく。「春よねえ!」 里奈はため息まじりに青空を見上げ、詩織の背中をトンとたたいた。「なんかあったの? 練習ぜんぜん気合い入ってなかったし。試合近いからさあ、先輩睨んでたよ。今度の2年はたるんでるって」「別に、なにもないよ。なんか眠くっ
2024年1月3日 16:51
はじまり それはまったく突然始まった。K市の郊外、山あいの静かな町に、まだ肌寒いある春の夜、星空を渡り高らかに響きわたったのだ。 バス通りから少し入った、閑静な住宅街に家を構える竹中元治は、妻の加奈子と二階のベランダでその音を聞いていた。「始まったな」 夜空を見上げ、元治はゆったりとタバコをくゆらせる。黒々と横たわる山の稜線から空を貫いて渡るそれは、澄んだ美しい旋律で、元治の心に染み入っ
2023年12月14日 20:28
「いい天気だ」 男は開店の準備を整えると、古い肘掛椅子を店の入り口のわきに置いた。ネコはいつものように椅子に飛び乗ってゴロリと横になる。お決まりのポーズだ。目を細め、男はネコの首筋をなぜてやった。 男の店は2階建ての木造で、水色に塗られた外壁は、塩と風にさらされて、ペンキがところどころはげていた。白抜きで「中華そば」と書かれた赤い暖簾が、ハタハタとたなびいている。 風が心地よい。ひとしき