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ファンタジー小説を書いています。最後はホッと気持ちが温かくなる、そんな世界を書いていき…

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ファンタジー小説を書いています。最後はホッと気持ちが温かくなる、そんな世界を書いていきたい。多摩美日本画卒。好きな作家、森見登美彦 西加奈子 東山彰良 上橋菜穂子の方々。表現する楽しさは無限です!書いている時は無音が一番。心が物語に吸い込まれるその瞬間がどうしようもなく好きです!

最近の記事

【短編小説】ネコとキーコの青い空(最終回)

読み進めてくださってありがとうございます! 最終回、どうぞ最後までお読みください! ずっとそばにいてあげるから  その夜、ふたりはまた同じ家のコンテナで一晩過ごすことにした。夜明け前、ネコはぐっすり眠っているキーコを残して、そっと出かけていった。 空気が湿っている。雨になるのかもしれない。ネコはこの辺りの猫たちが集まる公園へ急いだ。もう家に戻るだけなので、今さら集会に顔を出すこともないのだが、ここで一番のボスである昔馴染みの猫に、久しぶりに会っておこうと思ったのだ。堂々と

    • 【短編小説】ネコとキーコの青い空(3/4)

      キンモクセイの香りの下で  次の日も雨だった。白い水しぶきがガレージの屋根から滝のように落ちていく。コンクリートをたたく雨音が、ネコの心をいっそう憂鬱にさせていた。 (キーコは今頃どうなっているのだろう。まったく哀れなものだ。まあ、なんにしても別におれには関係ない。どうでもいいことだからな)  ネコは横になり、大きな体を固く丸めると、小さく息を吐いて目をつむった。  それから雨は数日続き、ようやくある朝、眩しい日差しが久しぶりにネコの住む町に降り注いだ。目を覚ましたネ

      • 【短編小説】ネコとキーコの青い空(2/4)

        キミの色は特別だ!  次の朝、水を飲みに出かけるネコの足取りは重く、気分も晴れなかった。 キーコは今日も窓辺にいるのだろうか。たかが人形のはずなのに、もしかして、まだ昨日のような悲しい顔をしているのではないかと思うと、ネコは出窓を見上げる気がしなかった。 ところがキーコは相変わらずの明るい声で、ネコに話しかけてきたのだ。 「おはよう!」 「ああ、おはよう」  ホッとして気を抜いた。ネコは「しまった!」と顔をしかめた。あいさつを返すなど、不本意以外の何ものでもない。  

        • 【短編小説】ネコとキーコの青い空(1/4)

          クロネコと不思議な人形の、悲しくて温かいファンタジーです。4つに分けて投稿しました。 まずは初めのお話です。どうぞ読んでみてください。 ネコとキーコの青い空 窓辺の出会い  その日ネコは山根さんの家の屋根で、のんびり夕方の風にふかれていた。ここから眺める空は見事なものだ。ネコの頭上にはまだ青空が残ってはいたが、ポッコリ浮かぶ雲の端は、向こうにいくにしたがって少しずつオレンジ色に染められて、西の空はもう真っ赤に燃えていた。  やがてあたりが薄暗くなり、住宅街を囲む低い山

        【短編小説】ネコとキーコの青い空(最終回)

          【短編小説】春風のコンビニ

          「いらっしゃいませ!」  さわやかな朝の店内に、美沙子の明るい声が響く。    ここは町外れのコンビニ。 美沙子は9ヶ月の大きなお腹を抱え、化粧品の棚に新製品を並べていた。 「あ!」    腰をかがめた瞬間、美沙子は小さく声をあげた。そしてゆったり微笑むと 「大丈夫! ママ無理しないよ」    そう言って、はちきれそうなお腹の中で元気に動き回る赤ちゃんを、そっと両手で撫でてやった。 (いい天気!)    フウッと背筋を伸ばし、美沙子は窓の外に目を向けた。  時折の強い春

          【短編小説】春風のコンビニ

          【短編小説】春祭り

          「ほら!」  詩織の髪にとまった桜の花びらをつまんで、里奈は口元からフウッと吹き飛ばした。道路の端に積もった花びらが、風に誘われてサラサラと流れていく。 「春よねえ!」  里奈はため息まじりに青空を見上げ、詩織の背中をトンとたたいた。 「なんかあったの? 練習ぜんぜん気合い入ってなかったし。試合近いからさあ、先輩睨んでたよ。今度の2年はたるんでるって」 「別に、なにもないよ。なんか眠くって。なんていうんだっけ、シュンミンアカツキノオモイデだっけ?」 「ばあか! ア

          【短編小説】春祭り

          【短編小説】春の夜 君に会いに

          はじまり  それはまったく突然始まった。K市の郊外、山あいの静かな町に、まだ肌寒いある春の夜、星空を渡り高らかに響きわたったのだ。  バス通りから少し入った、閑静な住宅街に家を構える竹中元治は、妻の加奈子と二階のベランダでその音を聞いていた。 「始まったな」  夜空を見上げ、元治はゆったりとタバコをくゆらせる。黒々と横たわる山の稜線から空を貫いて渡るそれは、澄んだ美しい旋律で、元治の心に染み入ってくる。 「ええ」  加奈子も空気の冷たさに二の腕をさすりながら、瞬く星を仰いだ

          【短編小説】春の夜 君に会いに

          【短編小説】湘南ねこ

          「いい天気だ」  男は開店の準備を整えると、古い肘掛椅子を店の入り口のわきに置いた。ネコはいつものように椅子に飛び乗ってゴロリと横になる。お決まりのポーズだ。目を細め、男はネコの首筋をなぜてやった。  男の店は2階建ての木造で、水色に塗られた外壁は、塩と風にさらされて、ペンキがところどころはげていた。白抜きで「中華そば」と書かれた赤い暖簾が、ハタハタとたなびいている。    風が心地よい。ひとしきり体をなめると、ネコは鱗のように光の粒を跳ね返す水平線に目をやった。  ネコには

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