道端凡凡

短編小説とかエッセイとか書いてる人。

道端凡凡

短編小説とかエッセイとか書いてる人。

記事一覧

小指

大きな小指の前で、ただ座って、それを眺めている夢の中にいた。 大きな小指は、湖の中心で、凛と静かに突き立っていて、私は、湖の淵のあたりで三角座りをしていて、それ…

道端凡凡
10日前

好きになったら負けという言葉があるのは

相手に命運を握られてしまうからである。 つまるところ同じように、面接もオーディションも、内見で気に入ってしまった賃貸の審査も、お母さんにお金を借りる時に顔色を窺…

道端凡凡
11日前
3

秋分【ショートショート】

家に帰ると、ドアが無くなっていて、玄関が丸見えになっていた。 管理会社に電話すると、「秋なので、一旦外させていただくことになりまして」と大して申し訳なさそうに言…

道端凡凡
3週間前
7

樹になりたいんだけど、別に樹になりたくはない、そんなつもりで生きてきた。 樹をまじまじと見るたび、その造形は素晴らしくて、樹の皮の一部になってみたいなあと思って…

道端凡凡
1か月前
6

コンビニ弁当を縦に入れる

文学フリマ東京37にて寄稿したショートショートです。  初めてのバイトは夜の街のコンビニだった。レジに一人で立たされた初日、お弁当用のレジ袋の存在を知らなかったお…

道端凡凡
10か月前
10

新幹線で座れない男の話

時は師走。週末のこと。 俺は新幹線乗車ビギナーであり、自由席で座れないことがあると初めて知った日の話である。 京都駅に、東京に向けてののぞみ8号がホームへと停まっ…

道端凡凡
1年前
6

渋谷だとか地名だとかそういうことじゃないんだろうけど

渋谷は人酔いに特化した街だと思うので、今日の体調はいかがだろうと気になる方は、一度スクランブル交差点からセンター街までを歩いてみるといい。私はいつもながら、アー…

道端凡凡
1年前
6

意図しなく突然に訪れて、と思っているがそれは

「あー、そっか。そう思うならそうかもしれないね。」 いや、そうじゃなくて、そういうことじゃなくて、ニュアンスもそうじゃなくて。俺はそう思いつつもこの空気を変える…

道端凡凡
1年前
4

ベッドタイム会議【ショートショート】

「ええ、ですからですから、こうしてあつまっていただいたわけで」 長い会議用の机、その中央奥に座った社会性が無表情にそう言った。 「皆さんが、最近日の入りも早く、…

道端凡凡
1年前
5

(R)amen

この後絶対に駅のトイレに行って吐こう、と思いながら食べるラーメンには大変恐縮ではあったが、飲み会の〆だと言って入店した皆の笑顔は裏切れなかった。 ドン。 わあ、…

道端凡凡
2年前
3

クリーンクリーン

….クリーンクリーンマモードモードチェンジチェチェンジ。しなばもろとも、しなばもろとも。 おまえはがをここにのいるべきではないなない。ソーダしゃりどーらん小文字酒…

道端凡凡
2年前
7

第三十四回文学フリマ東京に出店した物書き赤ちゃんの話

「文学フリマ出ない?」 「なにそれ、いいよ」 その「いいよ」が去年の12月頃であったか忘れたが、しかしこの「いいよ」どれだけ「いいよ」で無くなるかという直前の佳境…

道端凡凡
2年前
16

5/29(日)の文学フリマ東京 ウ-21「レレレ舎」にて短編集を出す男の話

woobeewooとして短編もどきを書いていましたが適当にペンネームを決めまして、5/29(日)の文学フリマ東京で、道端凡凡として「短編はシーツでまとまる」を300円程度で発売し…

道端凡凡
2年前
6

主題のない劇団(1)

人生を諦めると、もはやなんのやる気も出ないという人もいるが、僕は違った。諦めることで、好き勝手、突飛な行動を取れるようになっていた。 明日への希望が特に何もない…

道端凡凡
2年前
12

サンバ通り【短編】

残業終わりに一杯のつもりが、「もう一杯」「もう一杯」とついには最寄り駅までの終電を逃す程度に酔いがまわり、せっかくたっぷり働いたのにこんなことでタクシーなんざ使…

道端凡凡
2年前
9

【ショートショート】隣人のサラダ

出勤前の時間、多くの社会人で賑わう駅前のカフェ。寝ぼけながらモーニングセットのサラダを食べている時、『あ、これ隣の人のサラダだった』と気付いた。 しまった、と気…

道端凡凡
2年前
9

小指

大きな小指の前で、ただ座って、それを眺めている夢の中にいた。
大きな小指は、湖の中心で、凛と静かに突き立っていて、私は、湖の淵のあたりで三角座りをしていて、それ以外はなんにも、ほんとうになんにもなかった。
大きな小指がどのくらい大きいのか、遠くからではよくわからないけれど、私よりも何倍も大きいと思えた。
でも、大きくてもやっぱり小指で、スラっと細くて、誰がどう見ても小指だった。足のじゃなくて、手の

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好きになったら負けという言葉があるのは

好きになったら負けという言葉があるのは

相手に命運を握られてしまうからである。
つまるところ同じように、面接もオーディションも、内見で気に入ってしまった賃貸の審査も、お母さんにお金を借りる時に顔色を窺うのも、一生懸命作った作品を人に良いと言われたいのも、雨予報に対しててるてる坊主を吊り下げるのも、パチンコで勝とうとするのも、全部相手に命運を握られているので負けである。

それでも、そんな中で勝利を勝ちとった時は気持ちいいよね。人によって

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秋分【ショートショート】

秋分【ショートショート】

家に帰ると、ドアが無くなっていて、玄関が丸見えになっていた。
管理会社に電話すると、「秋なので、一旦外させていただくことになりまして」と大して申し訳なさそうに言われた。
「これ、いつ頃ドア戻るんですか」とたずねると、
「なにせ今が秋ですからね、冬ごろには目途が立つんじゃないかと」と、これまた大して申し訳なさそうに言われた。

困った。

あまりに外から中が丸見えなもんだから、恥部を覗かれているよう

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樹になりたいんだけど、別に樹になりたくはない、そんなつもりで生きてきた。
樹をまじまじと見るたび、その造形は素晴らしくて、樹の皮の一部になってみたいなあと思っていた。
けれど、実際になるとなると、得体の知れないもの、たとえば虫や、自分の体と触れ合う生命なんかが、ちょっとおぞましく、不快にも思える気がした。

だから樹とハグすることに留めている。

早朝、近くに誰もいないことを確認してから、樹に抱き

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コンビニ弁当を縦に入れる

コンビニ弁当を縦に入れる

文学フリマ東京37にて寄稿したショートショートです。

 初めてのバイトは夜の街のコンビニだった。レジに一人で立たされた初日、お弁当用のレジ袋の存在を知らなかったおれは、強面のおじさんのお弁当を縦にして入れた。
 あの時おじさんとおれの間に流れた空気は、年月が経った今でも全く他に例えようのないもので、もはや唯一無二のフレーバーである。
 もちろん、当時のおれは考えもなしにそうしたわけじゃない。もし

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新幹線で座れない男の話

時は師走。週末のこと。
俺は新幹線乗車ビギナーであり、自由席で座れないことがあると初めて知った日の話である。

京都駅に、東京に向けてののぞみ8号がホームへと停まった時、俺はホームの柵越しに座席をのぞき見て、
おやおや混んでるな、これは真ん中を空けて座ったり荷物を乗せている人に交渉して、気まずく座らねばないな、と思った。

自由席は1号車から3号車。ホームには絶対に座るぞと決意を持った人々の長めの

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渋谷だとか地名だとかそういうことじゃないんだろうけど

渋谷は人酔いに特化した街だと思うので、今日の体調はいかがだろうと気になる方は、一度スクランブル交差点からセンター街までを歩いてみるといい。私はいつもながら、アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

と思って、大不調だと再確認した。
そもそも、人々がそれぞれ違う目的地を目指してるのに、青になった途端一

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意図しなく突然に訪れて、と思っているがそれは

「あー、そっか。そう思うならそうかもしれないね。」

いや、そうじゃなくて、そういうことじゃなくて、ニュアンスもそうじゃなくて。俺はそう思いつつもこの空気を変える言葉が一切出てこなかった。

「えっと、あー。その、たとえば三重県ような、感じ」
「え?」

そうだろう。そうだろう、とも思いながら、気持ち的には三重県がちょうど良かったんだから仕方ない。

「そんなもんで、別に意味はなくて」
「じゃあ、

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ベッドタイム会議【ショートショート】

「ええ、ですからですから、こうしてあつまっていただいたわけで」
長い会議用の机、その中央奥に座った社会性が無表情にそう言った。

「皆さんが、最近日の入りも早く、寒いから起床も遅くなり、どうも1日の活動時間が少ないとわたくしに文句をおっしゃったから。ですからですから、今日はわたくし朝9時に無理やり起きたんですが、その結果がどうでしょうか」
「バカ眠い」眠い分野が言った。
「希望さんは?」
「絶望し

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(R)amen

この後絶対に駅のトイレに行って吐こう、と思いながら食べるラーメンには大変恐縮ではあったが、飲み会の〆だと言って入店した皆の笑顔は裏切れなかった。

ドン。
わあ、いただきます。

スープおいしいよ、またあとで会おうね。
キャベツおいしいよ、またあとで会おうね。
チャーシューもおいしいよ、今すぐ出てきちゃいそうだけどまだ待ってね。出ないでね。絶対またあとで会おうね。
麺もありがとね、噛み切らないとあ

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クリーンクリーン

….クリーンクリーンマモードモードチェンジチェチェンジ。しなばもろとも、しなばもろとも。
おまえはがをここにのいるべきではないなない。ソーダしゃりどーらん小文字酒場ソビエト連邦。
言語構築中...華そば、醤油自殺マシマシ...完了。

以下。

a.泣きながらごめんと謝った先に誰もいなくて、だから誰も許してくれなかった。
b.「あ」と言った瞬間に「あ」はひらがなでもう使われているからそれはオマージ

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第三十四回文学フリマ東京に出店した物書き赤ちゃんの話

第三十四回文学フリマ東京に出店した物書き赤ちゃんの話

「文学フリマ出ない?」
「なにそれ、いいよ」

その「いいよ」が去年の12月頃であったか忘れたが、しかしこの「いいよ」どれだけ「いいよ」で無くなるかという直前の佳境の話と、結果的にめっちゃいいよの話である。

その前に少しいいよについて語る。

いいよ

知り合いに三浦という男がいる。三浦と俺は9年くらいの付き合いであり、三浦が「タイムカプセル埋めに離島に行かない?」と言えば、俺は「いいよ」と言っ

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5/29(日)の文学フリマ東京  ウ-21「レレレ舎」にて短編集を出す男の話

5/29(日)の文学フリマ東京 ウ-21「レレレ舎」にて短編集を出す男の話

woobeewooとして短編もどきを書いていましたが適当にペンネームを決めまして、5/29(日)の文学フリマ東京で、道端凡凡として「短編はシーツでまとまる」を300円程度で発売します。

ブースには私がにこにこして座っているかと思うので、もしお立ち寄りの際は覗いてみてください。

主題のない劇団(1)

人生を諦めると、もはやなんのやる気も出ないという人もいるが、僕は違った。諦めることで、好き勝手、突飛な行動を取れるようになっていた。
明日への希望が特に何もないのは、きっと前者と同じだったけど。



僕はリゾートプールのウォータースライダーの乗り場の前で、右手にお箸、左手に一口大に丸めたそうめんを乗せた竹ザルを持っていた。
係員の制止を、唯一対応できた尻で振り切り、「いざ、」とザルをひっくり返

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サンバ通り【短編】

残業終わりに一杯のつもりが、「もう一杯」「もう一杯」とついには最寄り駅までの終電を逃す程度に酔いがまわり、せっかくたっぷり働いたのにこんなことでタクシーなんざ使ってたまるかと、何とか家まで歩いて帰れるであろう他の沿線の駅までやってきて、そこから家までへの帰り道のことであった。

裏通りをコツコツと足音を立てて歩いていると、どこからか、俺の足音に合わせてリズムを叩く音が聞こえてきた。

立ち止まって

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【ショートショート】隣人のサラダ

出勤前の時間、多くの社会人で賑わう駅前のカフェ。寝ぼけながらモーニングセットのサラダを食べている時、『あ、これ隣の人のサラダだった』と気付いた。

しまった、と気まずい気持ちでをゆっくりと横を向くと、案の定、隣の女性も自分のサラダが無くなったことに気付いており、遠慮がちにこっちを見ていた。
気まずかったのか、それとも事を大袈裟したくなかったのか、その女性はぼくと目が合うと、『あ……。いいんですよ!

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