道端凡凡

短編小説とかエッセイとか書いてる人。

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最近の記事

コンビニ弁当を縦に入れる

文学フリマ東京37にて寄稿したショートショートです。  初めてのバイトは夜の街のコンビニだった。レジに一人で立たされた初日、お弁当用のレジ袋の存在を知らなかったおれは、強面のおじさんのお弁当を縦にして入れた。  あの時おじさんとおれの間に流れた空気は、年月が経った今でも全く他に例えようのないもので、もはや唯一無二のフレーバーである。  もちろん、当時のおれは考えもなしにそうしたわけじゃない。もしお弁当を縦にすればお米が端に寄ってしまったり、付け合わせの具材が重力に負け、転げ

    • 新幹線で座れない男の話

      時は師走。週末のこと。 俺は新幹線乗車ビギナーであり、自由席で座れないことがあると初めて知った日の話である。 京都駅に、東京に向けてののぞみ8号がホームへと停まった時、俺はホームの柵越しに座席をのぞき見て、 おやおや混んでるな、これは真ん中を空けて座ったり荷物を乗せている人に交渉して、気まずく座らねばないな、と思った。 自由席は1号車から3号車。ホームには絶対に座るぞと決意を持った人々の長めの列があり、駅構内でサンドイッチやコーヒーを買ってウキウキしてた俺は遅れをとってそ

      • 渋谷だとか地名だとかそういうことじゃないんだろうけど

        渋谷は人酔いに特化した街だと思うので、今日の体調はいかがだろうと気になる方は、一度スクランブル交差点からセンター街までを歩いてみるといい。私はいつもながら、アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。 と思って、大不調だと再確認した。 そもそも、人々がそれぞれ違う目的地を目指してるのに、青になった途端一斉にスクランブルさせるのがおかしい。 俺はこれを「社会人フルーツバスケット」と呼

        • 意図しなく突然に訪れて、と思っているがそれは

          「あー、そっか。そう思うならそうかもしれないね。」 いや、そうじゃなくて、そういうことじゃなくて、ニュアンスもそうじゃなくて。俺はそう思いつつもこの空気を変える言葉が一切出てこなかった。 「えっと、あー。その、たとえば三重県ような、感じ」 「え?」 そうだろう。そうだろう、とも思いながら、気持ち的には三重県がちょうど良かったんだから仕方ない。 「そんなもんで、別に意味はなくて」 「じゃあ、意味が無いことを話してたってこと? そして、三重県に意味がないって言う主張でい

        コンビニ弁当を縦に入れる

          ベッドタイム会議【ショートショート】

          「ええ、ですからですから、こうしてあつまっていただいたわけで」 長い会議用の机、その中央奥に座った社会性が無表情にそう言った。 「皆さんが、最近日の入りも早く、寒いから起床も遅くなり、どうも1日の活動時間が少ないとわたくしに文句をおっしゃったから。ですからですから、今日はわたくし朝9時に無理やり起きたんですが、その結果がどうでしょうか」 「バカ眠い」眠い分野が言った。 「希望さんは?」 「絶望しかない」希望分野は言った。 「食欲さんは?」 「夜いっぱい食べちゃってうまい」食

          ベッドタイム会議【ショートショート】

          (R)amen

          この後絶対に駅のトイレに行って吐こう、と思いながら食べるラーメンには大変恐縮ではあったが、飲み会の〆だと言って入店した皆の笑顔は裏切れなかった。 ドン。 わあ、いただきます。 スープおいしいよ、またあとで会おうね。 キャベツおいしいよ、またあとで会おうね。 チャーシューもおいしいよ、今すぐ出てきちゃいそうだけどまだ待ってね。出ないでね。絶対またあとで会おうね。 麺もありがとね、噛み切らないとあとでうまく会えずに胃カメラみたいになるよね。 おいしかったね〜。今日はみんなあ

          クリーンクリーン

          ….クリーンクリーンマモードモードチェンジチェチェンジ。しなばもろとも、しなばもろとも。 おまえはがをここにのいるべきではないなない。ソーダしゃりどーらん小文字酒場ソビエト連邦。 言語構築中...華そば、醤油自殺マシマシ...完了。 以下。 a.泣きながらごめんと謝った先に誰もいなくて、だから誰も許してくれなかった。 b.「あ」と言った瞬間に「あ」はひらがなでもう使われているからそれはオマージュだと言われて喋れなくなった。 c.小指を折った。小指が折れていない人の方が多い

          クリーンクリーン

          第三十四回文学フリマ東京に出店した物書き赤ちゃんの話

          「文学フリマ出ない?」 「なにそれ、いいよ」 その「いいよ」が去年の12月頃であったか忘れたが、しかしこの「いいよ」どれだけ「いいよ」で無くなるかという直前の佳境の話と、結果的にめっちゃいいよの話である。 その前に少しいいよについて語る。 いいよ 知り合いに三浦という男がいる。三浦と俺は9年くらいの付き合いであり、三浦が「タイムカプセル埋めに離島に行かない?」と言えば、俺は「いいよ」と言って企画書を作り、三浦が「ボルダリングした後のプルプルの腕でジェンガする大会しない

          第三十四回文学フリマ東京に出店した物書き赤ちゃんの話

          5/29(日)の文学フリマ東京 ウ-21「レレレ舎」にて短編集を出す男の話

          woobeewooとして短編もどきを書いていましたが適当にペンネームを決めまして、5/29(日)の文学フリマ東京で、道端凡凡として「短編はシーツでまとまる」を300円程度で発売します。 ブースには私がにこにこして座っているかと思うので、もしお立ち寄りの際は覗いてみてください。

          5/29(日)の文学フリマ東京 ウ-21「レレレ舎」にて短編集を出す男の話

          主題のない劇団(1)

          人生を諦めると、もはやなんのやる気も出ないという人もいるが、僕は違った。諦めることで、好き勝手、突飛な行動を取れるようになっていた。 明日への希望が特に何もないのは、きっと前者と同じだったけど。 1 僕はリゾートプールのウォータースライダーの乗り場の前で、右手にお箸、左手に一口大に丸めたそうめんを乗せた竹ザルを持っていた。 係員の制止を、唯一対応できた尻で振り切り、「いざ、」とザルをひっくり返してそうめんを流した。そうめん達は一瞬で濁流へ吸い込まれて行った。 ああ、あんな

          主題のない劇団(1)

          サンバ通り【短編】

          残業終わりに一杯のつもりが、「もう一杯」「もう一杯」とついには最寄り駅までの終電を逃す程度に酔いがまわり、せっかくたっぷり働いたのにこんなことでタクシーなんざ使ってたまるかと、何とか家まで歩いて帰れるであろう他の沿線の駅までやってきて、そこから家までへの帰り道のことであった。 裏通りをコツコツと足音を立てて歩いていると、どこからか、俺の足音に合わせてリズムを叩く音が聞こえてきた。 立ち止まって振り返ると、音は止んだ。 気のせいか、と思って歩き出すとまた、足音に合わせてリ

          サンバ通り【短編】

          【ショートショート】隣人のサラダ

          出勤前の時間、多くの社会人で賑わう駅前のカフェ。寝ぼけながらモーニングセットのサラダを食べている時、『あ、これ隣の人のサラダだった』と気付いた。 しまった、と気まずい気持ちでをゆっくりと横を向くと、案の定、隣の女性も自分のサラダが無くなったことに気付いており、遠慮がちにこっちを見ていた。 気まずかったのか、それとも事を大袈裟したくなかったのか、その女性はぼくと目が合うと、『あ……。いいんですよ!』と言うように『差し上げます』のジェスチャーをして、食事に戻った。 いやいや、そ

          【ショートショート】隣人のサラダ

          お墨付き【ショートショート】

          もうろくしたジジイが電車内で声を荒げていると「ああ、この時がきたか」と思ってしまうのだが、今回の事案は少し違った。 あのジジイは車両の真ん中を陣取り、ドアとドアとの間でどうやら「書き初め」をしているらしいのだ。 乗客は皆、果たしてこれは害のあるタイプなのか、それとも無いタイプなのか、その様子を窺い、見定めているようだった。 電車内の地べたに大きく広げられた習字セット。ジジイは硯の端で太い毛筆の先を整えると、腕を上げ、最初の一筆を半紙へと乗せた。 スマホを見ている若い女性も、

          お墨付き【ショートショート】

          デリバリー

          クリスマスにフードデリバリーなんかを頼むやつは総じてカスだと思いながらバイクを走らせ、インターホンを押したら「俺の母親のコート」を来た女が出てきた。 母の命日だったので一緒にクリスマスを祝った。久しぶりだな姉ちゃん。

          デリバリー

          どちらもあなたである

             【あなた】  しげおは生まれて40年、働いたことがない。  職を失ったわけでもなく、職を求めているわけでもないのだ。  しげおの毎日はとてもたのしい。  ブランコの板の模様が気になれば膝をついてじっと眺め、触り心地が気になれば、質感を肌で知る。    花壇に生えている草花を近くで観察し、葉脈を道に見立てて、もしここに自分が立っていたならばこれはどちらに進むだろうと心躍らせる。  また、走りたくなったら走り出し、そのまま地面で前転をしてみたいと思えばそうする。  そ

          どちらもあなたである

          オフィサーズ

          「で、こっちがまずいコーヒーで、こっちが不味くないコーヒー。あたしの個人的な意見だけどね。」 真っ暗なオフィスの中、自動販売機だけがぼんやりと青白く、あたりを映し出していた。 自販機の前、千田さんと僕は体育座りで話している。 「遠藤くんさ、聞いてもいい?」 千田さんは伺うように切り出した。 「なんでこんな真夜中にあんなところにいたの?」 僕は自分がエントランスの前でうずくまっていたことを思い出す。 「カードキー……。忘れちゃったんで……。」 「違う違う。なんでこんな夜中

          オフィサーズ