見出し画像

第三十四回文学フリマ東京に出店した物書き赤ちゃんの話


「文学フリマ出ない?」
「なにそれ、いいよ」

その「いいよ」が去年の12月頃であったか忘れたが、しかしこの「いいよ」どれだけ「いいよ」で無くなるかという直前の佳境の話と、結果的にめっちゃいいよの話である。

その前に少しいいよについて語る。

いいよ

知り合いに三浦という男がいる。三浦と俺は9年くらいの付き合いであり、三浦が「タイムカプセル埋めに離島に行かない?」と言えば、俺は「いいよ」と言って企画書を作り、三浦が「ボルダリングした後のプルプルの腕でジェンガする大会しない?」と言えば、俺は「いいよ」と言ってボルダリングに行き握力が0kgになるまで前腕を痛めたりした。
一方、俺も俺で「沖縄に一人で旅に来てるんだけどこれから来ない?」と無茶を言い、「いいよ」と三浦が二つ返事をしたり、「無限に無を感じたいから三浦の家に一週間泊まっても良いか」と問うて、「いいよ」と三浦が二つ返事したりした。

ちなみに冒頭の会話は三浦が問い、俺がいいよした。

いいよお


「おれ文が書きたいんだよね」通話をしていた時に、全然台詞が違うかもしれないがそんなことを去年の5月あたりに三浦が言った。

「いいよお」
このいいよ、はいいよの肯定活用系である。俺はとにかく肯定してそいつがどこまで行き着くか見るのが好きな男だった。
「じゃあ、今書いてみるか」俺はその時たまたま占いの文章を校正するという特殊なバイト先で働いていたので(面白い バイト indeed で検索した)、なんとなくその要領で文が書ける気がした。
「いいよ」三浦のいいよを皮切りに、通話を繋げながら3時間くらい無言ではじめてのショートショートを執筆した。


「おお、これはなんだか生産的なことをした気分だなあ」書き終わってお互い読み合い、「隔週くらいでお題出してやろう」と話がまとまった。

それからなんだかんだ飽きずに続け、その年12月ごろに「文学フリマでない?」と三浦が言って「いいよ」となった。
ちなみにこの時点で俺は文学についてもフリマについても何もかもよくわかってなかった。

いいよくない


来たる今年の5月。三浦に全てを任せていた俺は「もう月末、文学フリマじゃないか」と気づいた。三浦に教えてもらうと作品の媒体はわりと多種多様らしく、ペラいちのA4用紙から、完全に製本する人、もはや本でない人など様々なようだった。
うーん、「ペラいちのA4用紙」。とても救われる言葉だなあ。
俺は世の中で救われる言葉ランキングに「ペラいちのA4用紙で出展可」を入れようかと思ったが、やはり変なことが好きなので変なことや媒体がいいなあ、と思いながら3日前になった。

3日前になった。
あ?

3日前になった。
ああ?

困った俺は、デビューからベストアルバムを作ることになった。
今まで書き溜めた短編から「これはきっと文学らしいだろう」というものを文学フリマのために選考し、
『ぼくはなんやかんかで一億円のアタッシュケースを貰った! パカ。わーいうれしい! キキーッ、車が来て死んだ』というような、(あくまで例だが)絶望的で情報の少ない文を加筆せざるおえないと思った。

単に加筆と言ったが、これまであまり純文学にも触れず、「これがこうなってこうしたらすごい楽しくてしあわせだね」とアイデアでっかちの前傾姿勢で書いた、半ば脚本のみのようなものから、人に読ませられる文章にするにはここに書ききれないほどの高さのハードルがある。
"文学"フリマ。きっと文学に精通する文学少女ないし男子ないし文豪のような人が四方八方歩き回るイベントに違いない。そうなると拙い文を出して買われる方が怖い。文学フリマ出ない? いいよ。いいよ。いいよぉ。もういいよぉ。たすけてくれよぉ。

そんで、俺はわりと緊張感が出てくると筆が進むか折るかの2択なのだが、今回はうまくいき、長い時間をかけて加筆し、ご褒美にウーバーイーツを頼み、そんで加筆し、ねぎらいにウーバーイーツを頼み、またこんな深夜に申し訳ないわね、と思いチップをはずんではウーバーイーツを頼み、財布身体共に健康に悪いことを繰り返し、前日の昼にそれのようなものが出来た。

文が出来た俺は出来た!と思い、中綴じ製本も終わってないうちから終わった!と思い、脳も「終わったのか! 終わったのか!」と喜び、全体的に出来て終わったと感じた俺は、表紙のイラストを書いたり、へんな短編集を出すので変な人が寄ってきそうな看板を作って楽しんだりした。(結果的に「向こうから見て変な感じだったので気になって来ました」という方がいた。俺は「まんまとひっかかりましたね」と言った。)

0時を回って日付上当日となり、眠気がすごい中、俺はコピーした文をホッチキスで止めまくって、製本を終えた。

困ったのは三浦の進捗だった。
「まだ文章が出来てない」
何度でも言いたい。これは当日の0時のことである。
「何か生まれそうな気がする」
違うんだよ。そういうのはスランプになり紆余曲折があってなんとか抜け出して締め切り一週間前くらいに言うドラマチックな台詞なんだよ。当日じゃだめなんだ三浦。

俺はぐっと飲み込んで肯定した。
「もの書きなんてみんなそんなもんだよ」

いいのか

当日は31度の猛暑日だった。5月はもう夏、これは法律で決めましょう。
ゆりかもめ周辺の施設っていうのは大体が馬鹿でかいものの、ゆりかもめ君やその駅自体はあまり大きく無く、座席シートも謎のカップルシートみたいになっている部分がありよくわからん構造であり、また出展者入場と一般入場者がクロスフェードする時間は恐ろしく混んでおり、とてもイベントに遅刻しそうであたふたしている俺にとっては心臓によろしくなかった。

開演20分前に着き、両サイドブースにご挨拶し、布を敷いたり看板を立てたり商品を並べたり、した。それから落ち着く暇もないうちに主催の方のアナウンスが始まり、いざ開演だー!と会場が一丸となり、俺はブースに座った。
三浦は今朝9時に書き終え、ブースで製本作業に勤しんでいた。

人がだんだんと会場に入ってきて、思う。
これ、どうするべきか。俺らからできることはあるのだろうか。

正直こういう即売会に行ったこともやったこともなく、全く塩梅が掴めなかったので、とりあえず周りを見て、ほおん、とか、へえ、とか言いながら、なるべく結構玄人です、という顔を浮かべて座っておいた。

その後定点カメラで俺を映していたならば3種類の俺が撮れていたと思う。
なぜなら売る側として結局何をするべきかわからず、いろいろ試してはやめていたからだ。

1.俺が買うならガンガン話しかけられたり目を合わせられたくないので静かにした
最初はこのスタンスで行った。ただ座り、どこにも焦点を合わせない顔で「どうぞ〜」「こんにちは〜」と天井に向かって挨拶する人となった。
これは吉なのか凶なのかわからなかったので、こんにちはbotと化す前にやめた。

2.立った
座ってたら膝が疲れた。
あと、立ったらブースが盛り上がってそうに見えたから立った。
これはすごく浅はかだと思う。

3.見本を裏表紙にして、体をゆっくり揺らした。
裏表紙の絵の方がシュールで目を引くかもしれないと思い、裏表紙にした。これは題名が書かれていない変な本になったため、わりとみんな手に取ってくれた。
体をゆっくり揺らした理由に関しては、自分でもよくわからないため質問は受け付けない。

いい

初出店、ほぼノー告知、出来立てホヤホヤの不安なコピー本。ご来場者がそんな我らを目指して買いに来るでもなく、すこしばかり持て余してた頃、「ちょっとブース回ってきてもいい?」と三浦が言った。「いいよ」と俺はうなずいた。

そしたら三浦は30分くらいどこかへ消え、おそらく15冊くらいをまとめて買ってきた。
何やってんだお前。俺はそう思ったし、たぶんそんなことを言った。


「あ、俺お腹すいた。朝ごはん食べてないんだ。死ぬ」俺は朝ごはんを食べないと如実にコンディションが狂う男だった。
今度は俺が三浦に店番を任せるとコンビニに向かった。

その道中、改めて他のブースをみると、謎なタイトル、謎本、いいイラストの本、ガチャガチャ、その他めちゃめちゃに面白そうなものがあって興奮した。
「俺も、俺も買ってくる」コンビニから帰るなり、俺は三浦にそういって他ブースへと出かけた。

俺は今朝方Twitterで予習した気になる出展者のところや、思いつきでこの本面白そうだから買っちゃお、みたいな気分でたくさんの本を買った。だって200円、300円って言われちゃうともう無限に買えるのよね。
しかし、思ったよりもブース数が多く、なおかつそんなに店を離れるわけにもいかなかったので(ア)〜(セ)のブースまでしか見れなかった。
あとそこから先へ行ったら破産していた恐れがあるので、これも一期一会よね、とかっこよく引き返した。

いただいたものも有


「いない間にいくつか売れたよ」
三浦の驚愕の言葉に嬉しくもあり、なんで離席してたんだ俺は、お客さんのお顔が見れての即売会やろが、と自省したりした。

いいなあ

結果、十数部持ってきた俺のコピー本は完売した。
正直、ええ、と引いた。

引くばかりでは申し訳が立たないのでとても嬉しいと明記しておきます。
『嬉しい』

今まで誰に読ませるわけでもなく三浦やネット上に投げていた短編。
それが実の人間の手に渡ったのだと、当たり前なことを当たり前だと気付き感動するタイプの感動が俺を押し寄せた。

わー
人が読むー

とりあえず最後までブースに座っていよう、と思って最後まで体をゆらしたりした。

文学フリマ、出てみて思ったけど、いいなあ。
眠たいからまとめに入るなあ。

もの書きの赤ちゃんみたいな俺が突拍子もなく出て、いいなあと思うのだから、もとより何か書いている人には特に出てもらい、いいなあ、と思って欲しいイベントであった。
来場者サイドとしても、そして文学フリマでしか出てないレアな本がたくさんあるので来る価値が大いにあるということも知った。
ああ、いいなあ。いいなあ。いいなあーー。

いいよ2

「9/25の文学フリマ大阪出たい」と三浦が言い、
「いいよ」と俺が二つ返事しました。

この記事が参加している募集

文学フリマ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?