渋谷だとか地名だとかそういうことじゃないんだろうけど

渋谷は人酔いに特化した街だと思うので、今日の体調はいかがだろうと気になる方は、一度スクランブル交差点からセンター街までを歩いてみるといい。私はいつもながら、アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

と思って、大不調だと再確認した。
そもそも、人々がそれぞれ違う目的地を目指してるのに、青になった途端一斉にスクランブルさせるのがおかしい。
俺はこれを「社会人フルーツバスケット」と呼んでる。全然楽しくない。幼稚園児も泣く遊び。遊びでもない。これはなんらかの犯罪。

街を歩く。すれ違う人達は殺気立ち、かと思えば心ここに在らず、並列して歩く友人と話すことに夢中だったり、酔っ払いもして、特に目的もなく路肩に佇むやつもおり、年齢層も性格も特にカテゴライズできず、もはや誰も味方だと思えぬまま、なんとか本日誘われたDJ barへと到着した。

それが本編です。

初見のバーや謎のテナントビルは敵のアジトに近い。普通にこわい。敵のアジトに単身乗り込む気持ちを店前でチョロチョロ彷徨きながら整え、余裕ですという表情を防護服として着る、着ている、つもり、です。実際の顔がどうなってるかわかりません。

幸い、俺は最近髪をシルバーに染めたので、一般の人よりアバンギャルドで、きっと攻撃的なアドバンテージは持っていると思いながら、どんなDJマンや渋谷の民がいようと大丈夫、と胸を張って入店できた。

ガチャン。
「あっ、えっと、す……」

俺はやった。イキったあまりの、余裕ですけどムーブをやった。銀髪のやつがなんか、すっす、した。入ってからすぐスマホもいじった。スマホいじるのもやってんなと思い、ポスターとかみながら、「へぇ…」とか言った。それを込みで完全にやってる。

でも、そのうち場慣れして正気を取り戻し、普通に飲み物飲みたくなってきて、バーカウンターへと行った。
こういう時、何を頼みたいかより何を頼むと長持ちして、かつかっこいいか考えちゃうね。
そう、俺の中身はいつだってかわいいままだ。俺ってかわいいね。そう、かわいいって言って。早く。ほら。

さて、ここからは何も特筆することもない。
ジントニックを一杯飲む。

友人が鳴らす往年のアニソンで踊り狂う。
その後曲のつなぎとモジュレーションを得意とするモジャモジャDJのトラックに乾杯。

そんで、W不倫をして住居を失ったDJの女、
婚約中にも関わらず30歳で死のうと思い立ち会社を辞めてアイルランドに飛ぶ女、
彼女と別れ4LDK一軒家に1人暮らすことになった男、
本物の漢気を求めて女装してまで男に抱かれようと考える男で話し、夜が耽る。

なんだなんだ、今日はいい夜じゃないか。
自ら酔っぱらってみれば、退廃的なこの街も、異種混合の人の流れも、行きの道より少し俺に寄り添ってくれてるような気もした。

正気じゃないことが、この街の前提とも言えようか。

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