新幹線で座れない男の話

時は師走。週末のこと。
俺は新幹線乗車ビギナーであり、自由席で座れないことがあると初めて知った日の話である。

京都駅に、東京に向けてののぞみ8号がホームへと停まった時、俺はホームの柵越しに座席をのぞき見て、
おやおや混んでるな、これは真ん中を空けて座ったり荷物を乗せている人に交渉して、気まずく座らねばないな、と思った。

自由席は1号車から3号車。ホームには絶対に座るぞと決意を持った人々の長めの列があり、駅構内でサンドイッチやコーヒーを買ってウキウキしてた俺は遅れをとってその最後尾にいた。

いや、でも、座れるに違いない。自由に座れる席、それが自由席だものね。
この時俺は、誰かの自由によって誰かが不自由になるなんて思ってもなかった。

ドアがプシュー、人がちょろっと出る。俺らはどどっと入る。
いいぞ、自由を勝ち取れ!

席を見渡すと、
埋まる。埋まってる。ない、ない。
交渉術が問われるはずの、真ん中が荷物置きゾーンなってることの多い3人席もみんな仲良くぎゅうぎゅうに座ってる。
いや、まだ諦めるな、だってこの先にはまだ3号車があるんだもの。

俺らの自由党、先陣を切ってくれていたスキンヘッドのヨーロッパ人の足が止まった。
どうした。まだ先は長いぞ。

前を見ると、3号車から2号車へと自由を求めてきた人々の流れとぶつかったようだった。
これが何を意味するか。3号車にはもう自由がないということ。

俺は後退りして1号車に光を求める。
すると1号車の前のドアには希望を失って佇む人々。

つまり、終わりだ。
自由な席に人が座れない、こんなことが世の中にあるのか。


さあここからは新幹線とは思えない謎の場所での暮らし。

謎に暗めな照明、地面にナップザック、お土産の大荷物、キャリーケース、1号車と2号車の車両を繋いでいるトイレとかの謎スペースに15人ばかりの人。

あるお姉さんはお化粧で暇を潰し、お兄さんはスマホをいじり、さきほどのヨーロッパの方は虚無の顔をしていた。

俺は悲しくサンドイッチ食べる。おいしい。


さて、こんな新幹線連結ゾーンでも位置によって過ごしやすさグレードが存在する。

立ち席Sを紹介しよう。それは四方にある乗車口ドアだ。

壁とドアの二方向からの支えで横揺れも軽減し、自前のキャリーケースに腰掛ければ自分だけの座席が出来上がり!  袋小路なので誰からも邪魔をされることはない。
ちなみに次の停車駅で開くドアでなければなお良い。
なぜなら人々が降りた後に真っ先に空いた席に向かえる有利なポジションだから。そっちはSS席と言える。

立ち席A、Bなどは存在しない。

次はCからの発表となる。
立ち席Cは、立ち席Sで自前の席を作ったやつの隣である。今回の俺はここにいた。
なぜCなのか。
これは個人差があるんだろうけど、俺が根が優しくて人に気を使ういい人だと思って聞いて欲しい。実際そうだよ。

立ち席Cは、Sの隣だからずいぶんいいじゃないかと思うだろうが、自分の一挙手一投足で車両の自動ドアが開いたり閉まったりする、はみ出た位置にある。
絶妙に感知されちゃうのだ。

実際に、俺がサンドイッチを食べたりコーヒーを飲んだりしてる間に、ドア君は何往復してくれただろうか。そんなんならずっと開いててくれ。
そんで、いい加減ドア近くに座ってる人に嫌な顔をされそうで、俺は最終的に岩のように静かにサンドイッチを食べる技術を身につけた。

それで、立ち席Dはトイレ前、
立ち席Eはもはや座席通路にはみ出ちゃった人。

以上がグレードになるので困った時は教訓にして欲しい。

結局俺はその後名古屋で座れたけどさ、2時間立ち席の人生も考えたよ。今はお尻も膝も喜んでる。幸せさ。
そう思うと指定席の意味がやっとわかったんだ。

また一歩大人になったね、俺。

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