ベッドタイム会議【ショートショート】

「ええ、ですからですから、こうしてあつまっていただいたわけで」
長い会議用の机、その中央奥に座った社会性が無表情にそう言った。

「皆さんが、最近日の入りも早く、寒いから起床も遅くなり、どうも1日の活動時間が少ないとわたくしに文句をおっしゃったから。ですからですから、今日はわたくし朝9時に無理やり起きたんですが、その結果がどうでしょうか」
「バカ眠い」眠い分野が言った。
「希望さんは?」
「絶望しかない」希望分野は言った。
「食欲さんは?」
「夜いっぱい食べちゃってうまい」食欲が言った。

社会性は呆れたように息をついた。
「あなたたちはバカです」
社会性は議事録に『12/6 みんなバカ』と書く。

根性が喋りだす。「いんや、そりゃあ1日にしてならずだよ。まあ、何を成すかはしらねえが。何をやるにも朝早く起きたことはいいことに違いねえ。早起きしたら、いくらかお金がお得で、その比喩があるだろ、あの、えーと、あっくそ、なんでこんな簡単な言葉が出てこねえ。おい言語野、ちゃんと電波流せ」根性は隣に座る言語野に文句を言う。
「今日体調悪いんであんま使わない単語は全部しまっちゃいました」言語野は死んだ目で蛍光灯を見ていた。
「ちくしょう」

「さびしい」突如さびしさが呟いた一言で、場が悲しみに包まれた。
「どうしましたか」社会性が尋ねる。
「さびしい、わびしい、やだ、きょむ! きょむ! さびしい! けっきょく、なにものこらない! きょむ! さびしい!」
「ああやかましい! かんだかいヒステリーなこの声っ。早くこの子連れ出して。どういう気持ちでこんなこと言ってるのか、あたし全く理解できない。もう価値観が反してる。まったく相容れない。あたしが怒ってることに気づくまで、あえて距離を置いてわからせてやろうかしら」悪態がべらべらと悪態をついた。
「はいはい、さびしさちゃんは一回退室してください。明日様子を見ますから」

「どうしたんだ、あいつ」根性が問う。
「年末が近づくとさびしさは急に暴れだすんだよ。いつもそうでしょ」愛情が宥めるように言う。
「僕だって、冬が来るとそうだ」希望分野はうなだれた。「今日だって、朝起きた時は頑張ろうと思ったけど、眠いくんが、眠くなってきてからは、もう世界の全てがどうでも良くなってきてしまって、今じゃもう、絶望しかない、あっ……もうだめだ、うっうっうっ」
「そんなしょげたこと言うんじゃねえ! 一日一日、歩みが遅くとも……、えーと、ほらそういう四字熟語……おい、言語野っ」
「言語野くんは寝ましたね」社会性が言った。
「くそっ……だから……一日一日、歩みが遅くとも……日々が続いた先に……日々が続いて、その先になにがあるんだ……? あっ、だめかもしれねえ……うっうっうっ」根性は折れてしまった。
「そうだ……もうだめだ……うっうっうっ」希望分野も大泣きした。
「ほーら、あんたたちの真似してあげましょうか、もうだめだ、うっうっうっ」悪態をついた。
「悪態さん、君はなんて愛が無いんだ」愛情が悪態に言った。
「あんたなんて愛情を向ける相手すらいないでしょうが」悪態が悪態をついた。
「え、あ、そんなこと、言わなくたって……ああ、たしかにそうだ、向ける相手がいない、もうだめだ、うっうっうっ」愛情は一人じゃダメだった。
「ほーらほら、もうだめだ、うっうっうっ」
「もうだめだ、うっうっうっ」
「うっうっうっ」
「お腹すいた」
「もうだめだ、うっうっうっ」
「バカ眠い」
「うっうっうっ」

「はい、今日もあなたたちみんなバカでした」
社会性が電気を消した。


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