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ミスチルが聴こえる(短編小説)

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Mr.Childrenの曲を聴いて浮かんだ小説を創作します。 ※歌詞の世界観をそのまま小説にするわけではありません。
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2022年5月の記事一覧

終わりなき旅(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

終わりなき旅(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

「今、君は今年十三歳だっけ?」
 運転席でハンドルをゆったりと握り、前方をぼんやりと見ながら、憲一おじさんは僕に話を振ってくる。
「そうです」
「じゃあ、これから中学生か」
「そうですね」
「それは大変だ。中学生は大人と子供の挟間にいるから、常にグラグラした精神状態で生きていなければならない。たとえ自分は違うと思っていても、周りがみんなゆらゆらしているから自分も飲み込まれてしまう。それは、避けよう

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ラララ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

ラララ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 テレビをつけると、いつも出てくる芸能人が熱弁している。何を語っているのだろうと聞いていると、自分が乗り回しているフェラーリの話だった。僕はテレビの電源を消した。

 コンビニに行くと、アイスケースの中に中学生が入って踊っていた。それを動画に収めて喜ぶ親。僕はその様子を写真を撮った。誰かが呼んだであろう警察が来て、容疑を否認する親子をよそに、僕は写真を警察に見せた。警察は親子を連行した。

 満員

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ニシエヒガシエ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

ニシエヒガシエ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 【AM10時。大阪】
「なあ、猿」
「どうした、雉子」
「俺、ラーメン食いたい」
「なんの?」
「とんこつ」
「じゃあ、博多のラーメンがいいな」
「よし、行くか」

【PM1時 福岡】
「美味かったな、猿」
「ああ、めっちゃ美味かった。やっぱり本場は違うな」
「俺、デザート食いたい」
「なんの?」
「メロン」
「じゃあ、北海道がいいな」
「よし、行くか」

【PM5時 札幌】
「札幌に夕張メロン

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アンダーシャツ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

アンダーシャツ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 あいつのシャツ、真っ黒に汚れてるな。そうか、頑張ったからか。何を頑張ったんだ? 不正か? 
 あいつのシャツ、真っ赤に染まってるな。そうか、頑張ったからか。何を頑張ったんだ? 殺人か?
 あの少年のシャツは真っ白だ。そうか、まだ無垢な存在ってことか。何を頑張るべきか。それは多分、事実を疑うことだろうな。
 若者が飛び跳ねた。色とりどりの絵具をシャツに塗りながら。俺はそれを個性だと信じていた。だけ

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光の射す方へ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

光の射す方へ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 朝起きると脳に浮かんでくる言葉が、「死にたい」。それが異常だとわかっているけど、本能には逆らえないらしく、僕は毎日苦悶している。空は晴れている。雲ひとつない快晴の日もある。それでも、僕は四方八方がブラックアウトして見えない。どこへ進んでいいのか、いやはやわかりませんといった具合だ。結局どこへ行っても正解じゃなくて、全部ハズレ。お前はもう生きている意味がないと見たこともない神様に言われている気がし

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独り言(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

独り言(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 あーあ。俺の人生、なんなんだろうな。おい、俺ってどこで道を間違えたんだ? 小せえ頃は真面目に生きていた。万引きもしなかったし、いじめもしなかった。常に勉強を頑張って、百点満点取って褒められて。優秀な高校に行って、部活も入らず今度は東大目指したんだ。毎日毎日勉強。たまの休みには美術館に行って自己啓発。そういや、ろくに友達もできなかったけど、俺には勉強っていう相棒があったから、あのときは一人でも何と

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トゥモロー・ネバー・ノウズ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

トゥモロー・ネバー・ノウズ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 明日のことは、人間誰にもわからない。それは、あたりまえ。あたりまえだけど、人々はすぐに明日のことを知りたがる。
 ならば、異星から来た僕が教えてあげよう。たやすいことだ。立った一日先の未来を示すことなんて。

「私の明日はどうなりますか?」
 会社員をしている三十代女性。僕は目を瞑って、彼女の未来を透視した。仕組みなんて口で説明できるものじゃない。簡単に言えば、人間が生み出した科学では到底たどり

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幸せのカテゴリー(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

幸せのカテゴリー(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 朝起きると、凛が朝ごはんを作っている。まだ十二歳なのに、凛は料理が上手だ。僕は顔を洗って目を覚まし、凛の横に立って「今日は何を作ってるの?」と聞く。「目玉焼き」凛はフライパンに目をやりながら答える。「何か準備する?」僕が聞いても、「大丈夫」と言うだけ。凛は、あまり愛想がない。だから反応も薄い。僕は自分用の冷たいコーヒーを淹れて、それを立ったまま飲み干す。胃がキンと固まった気がして、ヒリヒリする。

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シーソーゲーム(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

シーソーゲーム(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

「ねえ、祐二」
「何?」
「私のこと、好き?」
 始まった。いつもいつも、里英は僕を試す。自分の内部を満たすためなのか、それとも愛を感じたいのか。
「好きだよ」
「じゃあ、私より可愛い女の子が現れても、見向きもしないで私を愛してくれる?」
「僕は見た目で里英を選んだわけじゃないから。内面が好きだから付き合っているんだよ。だから、浮気なんて絶対しない」
 すると里英は「そっか」と澄んだ声で言って、に

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タイムマシーンに乗って(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

タイムマシーンに乗って(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 豪快なエンジン音と共に、僕は光の中を走っている。眩しくて裸眼では目が開けないから、分厚いゴーグルを装着している。
「まるで星になった気分だよ」
 隣に乗っているエイジは語尾を弾ませ、光の世界を楽しんでいるようだ。
「どういう仕組みなんだい?」
「それは俺にもわからない。ただ一つだけ言えることは、このマシーンに乗れば過去にも未来にも行けるってことくらいだ」
「もはや、現代科学では説明できない代物だ

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