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トゥモロー・ネバー・ノウズ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)



 明日のことは、人間誰にもわからない。それは、あたりまえ。あたりまえだけど、人々はすぐに明日のことを知りたがる。
 ならば、異星から来た僕が教えてあげよう。たやすいことだ。立った一日先の未来を示すことなんて。


「私の明日はどうなりますか?」
 会社員をしている三十代女性。僕は目を瞑って、彼女の未来を透視した。仕組みなんて口で説明できるものじゃない。簡単に言えば、人間が生み出した科学では到底たどり着けないテクニックを使っているだけだ。
「あなたは、明日足を骨折します」
「え、骨折ですか?」
「はい。朝起きる時間が遅く、急いでいたため慌ててしまい、転倒して足を挫いてしまいます」
「では、それを防ぐにはどうしたらいいでしょう?」
「簡単です。あなたは今、明日を知ってしまった。それだけです」
 女性はキョトンとした顔をして、僕が何を言っているのか理解できないのか、「え」とか「は」とか、とにかく困惑していた。
「特に対策する必要はないと言っているのです。なぜなら、あなたは明日を知ってしまったから」
「明日を知ると、対策しなくて済むんですか?」
「そうですよ。これは定期テストみたいなものです。あなたは今、予習をしました。だから明日起きる時間が遅くても慌てることはありません。すなわち、転倒することもありません」
 すると女性は安心した顔をして、「よかったあ」と心から出た声が漏れた。
「ありがとう。これで、明日は良い一日になるわ」
 女性は僕に五千円を支払って去っていった。


 この女性、たしかに明日を知ったかもしれない。しかし、それはあくまでも一つの明日に過ぎない。女性はたとえ慌てることがなくても、転倒することがなくても、骨折することがなくても、決して「良い一日」になるとは限らない。
 だって、明日は人間誰にもわからないものだから。
 女性は僕に未来を尋ねたことで、すでに別の明日が訪れることが確定してしまった。僕は全くもって興味がないから、明日彼女がハッピーになろうが、逆にアンハッピーになろうが知った話ではない。それでも一応確認してみる。僕だって彼女の未来を変えた責任はある。あまりに悲惨なら僕が救ってもいい。
『女性は人に押されて持っていたスマートフォンを落とし、画面を割ってしまう。』
 かわいそうに。だけど、骨折よりはマシか。
 明日なんて知るべきじゃないと僕は思う。だけど、明日を知りたい人間は山のようにいる。僕はそのおかげでお金を手に入れることができる。そうやって、地球という星は循環しているらしい。
 人間は、単純だけど愉快だ。それに、食べ物が美味しい。だから僕はこの星を気に入っているし、これからも住み続けようと思う。
「スシローでも行くかな」

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