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森川すいめい『漂流老人ホームレス社会』(Kindle版)朝日新聞出版(2015/7/7)

少しばかり深い本です。なんというか、「ホームレス状態にまでなった精神障がいを持つ人と、初めに話すこと」って何が良いのかな?なーんて悩んでいるあなたにピッタリの本。(深すぎない?)

 ある晩、前日に自殺未遂をしたと言ったホームレス状態の男性と会った。本人の話したいままに話を聴いた。本人がどのように生きたいのかを考えながら聴いた。そして私が最初に伝えたのは、
「住む場所は、どこがいいですか?」
 ということであった。ここまで落ち込んでいる人にそのように聞くと、たいていの人は、目を合わせてくださる。びっくりされるのである。…私がすることは、奪われた権利を、本人のものだと確認することである。それは生きていくための道具になり得る。
「知っている場所がいい」「ずっと住んでいたから豊島区がいい」…

いえ、そんなに身構える必要はありません。読むだけなら全然平気です。命まで取られるわけじゃなし。(ホントにヤバくない?)

まあしかし個人差があるので難しいですね。ひょっとしたら私は鈍感なのかもしれないし…

 本書には、精神医学的な考え方も記載した。専門書のようにはいかないが、精神医学を少しだけ身近なものに感じてもらえるように工夫をしたつもりである。支援活動の現場や、自分自身や身近な人を助けるために役立つものになったらと思う。…
 また、本書では特に、路上生活状態になったご高齢者や障がいをもつ人たちの現実を中心に紹介した。それは、私が精神科医という職分からも、そういった人たちと多く出会うからである。

ホームレス問題だけでなく、認知症を患った高齢者への適切な対処法などについても、医師としての経験から具体例をあげてわかりやすく教えてくれます。これからますます大事になってくる知識ではないでしょうか。

 この書では、タイトルにある老人の話ばかりでなく、若い人の話や60歳前後の人の話も書いている。老人として野宿になった人だけでなく、老人として野宿に至るだろう人の背景も知ってほしかった。野宿の人の平均年齢は約60歳である。野宿の人のことを書くにおいては老人のことを書かざるを得ない。老人がホームレス状態になる現代社会の課題を、その原因と背景を、この書で書きたかった。

現実とは、しばしば教科書通りにはいかないものですよね。よーく目を凝らしてみると世の中は矛盾だらけ。「そんなの国の仕事じゃん」で済むことばかりならどんなに楽でしょう。(^^♪ 夢

 問題の解決を国に期待していた気持ちは、このとき消えた。人が悪いわけではない、構造が悪いのだとわかった。
 国に期待することなく、今、現場でできることに集中しようと決めた。
 …行政には行政にしかできないことがある。行政が得意なことがある。…ただその構造上行政には期待してはいけない部分は期待しない、…その部分は民間でやらなければならない

スポーツや習い事でもそうですが、実際にやってみなければ理解できないことや、身につかないことがあります。本書は、著者と仲間たちが現場に足を運び、全力で戦った、本物の記録です。

 同じ事実が別の視点で見えた時にすべきことはいつも決まっている。現場に行くことだ。本当の答えはいつも現場にしかない。本人たちの話を聞かなければ答えはわからない。温かい部屋でイメージする「ホームレス像」をもって公園を閉鎖することは、事実を把握できないままでの意思決定であるという点で恐ろしい間違いを犯すことになるのだが、外に出ることがないならば、その間違えたことに気付くことさえできない。

「実話に基づいています」ので、映画のようなハッピーエンドばかりではありません。1章には読んでいてつらくなる場面が出てきます。ほかの章にも同じような場面が出てきます。警告はしましたからね。(ちょっとマテ)

…それがなぜ達成されたのかというと、私たちはある視点を大切にしていたからだと確信している。それは、「自分の人生の主人公は自分である」という視点である。自分の人生は自分で選択する。その選択をしたいというニーズを満たすべく私たちは手伝う。どこで生きて何をして過ごしたいかは本人が決める。それができるかどうかを周囲は裁断しない。

あと涙もろい方は号泣してしまうかもしれません。(ハンカチ用意)

 経済競争力の糧にならない人間は、ホームレスか精神科病院か刑務所に、社会は押しやっていないか。家族だけに責任を押し付けていないか。
 どこかの施設に入れることで安心していないか。
 人がなぜ生きるのか、考える時間を失っていないか。

 私は単に、ただ、社会が生きやすくなったらいいと願っている。

最後に、著者からのメッセージをどうぞ。(丸投げ)

…課題解決のために私たちは行動した。そして希望を見つけることができた。多くの笑顔の回復を見ることもできた。本書は希望があることを伝えることで終わりたかった。その希望の実現は、この2年間で少し進んだ。その形を紹介したかった。

 人と、世界の多様性を知ることは、人を生きやすくする。このホームレスという世界を、多くの人に知ってほしい。
本書は二〇一三年一月、小社より刊行されたものに加筆しました。
本書の内容は、個人の実話に基づいていますが、実在する人物とは異なります。
本書の著者に支払われる印税は、すべて、「特定非営利法人 TENOHASI(てのはし)」をはじめとする支援団体に寄附される。

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