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随筆/考察 の箱

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わりとまじめに考えたり思ったりした散文。 玉石混淆、御容赦。
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記事一覧

エッセイ/堂々

エッセイ/堂々

生きてくってことは、まずは、下らないもの、取るに足らないものにしがみついてゆくことだ。家族でも友人でもいい、思想でも主義でもいい、宗教でも哲学でもいい、仕事でも趣味でもいい。とにかく、多い方がいい。まずは、10本の指に少しずつ引っかけて、なるたけ今をごきげんでいることだ。成否も出来栄えも、実は大した意味はない。過度の義務感、熱い正義感、完璧主義、そんなものはどこかに投げ捨てる方がいいんだ。つまりは

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愚痴/射出

愚痴/射出

決定的に、いまの仕事が不向きだ。在宅で事務、このご時世には贅沢すぎる環境なのだろう。この2ヶ月、気まぐれな病状に翻弄されて、出勤できたり、できなかったり、その間に事が進んで、パソコンに向き合って、何が起きてるのかも分からないまま、ずっとこころで泣いている。訊けばいい、しかし、訊くことも多大な労力を費消する。ずっと、早く寝ころがりたい、それだけを願っている。寝ころがっても、身体中がこわばって痛い。た

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エッセイ/宛先不明

エッセイ/宛先不明

自己免疫疾患について。
――治らないのだ。
――変わらないのだ。
――死にさえできないのだ。

いつも、熱が40度あるように怠くて、身体が大規模反乱を起こしていて、「とにかく何もしたくない」私自身に鞭打って、毎日、何を見て、何を感じ、何を思い、何を考えているかを書いている。
徹底した自省である。ヘドロのように美しい、独り言である。

認めるのは厭ではあるが、私は感性が壊れているようで、実際は、外界

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コラム/余生, kommen Sie.

コラム/余生, kommen Sie.

生きることには、まだ堪えられそう。これまでごまかしたように、これからもまあ、ごまかせばいい。だいぶ疲れた気もするけど、余でない生が、すこし重たいだけだ。ぼくは、一日に一食、冷や飯と、できればレトルトの味噌汁があれば、それで十分だ。ひとり養うなら、三万のアパートにちょこんと住んで、大好きな教える仕事、それか単価は安くても、ウェブ・ライター、その月暮らしでいいんだ。節句も、祝日も、盆も正月も忘れ果てて

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エッセイ/くろけっと

エッセイ/くろけっと

そういう方面のコオロギの話、あまり興が乗らないが、そこは敵も策士、その鼻毛、読まれてますぜ、こちらが興の乗らない話ほど、岩にしみ入るコオロギのこゑ、気づいた頃には、コオロギポイント、法制化、宣伝カー、まずはおやつに、一日に二食、勘弁つかまつる。

誤解の種は、先につぶしておく。
コオロギを食うのが嫌なのではない、コオロギを食わされるのが、断固、嫌なのだ。
まあ、聞いとくれ。

給食の何が恐ろしいっ

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エッセイ/Coffee Broken

エッセイ/Coffee Broken

早起きして、声の多様性について、長ったらしい論考を書いたけど、下書きに寝かせる。文体が気に食わない。
→仕事のメールを整理しながら、昨日書いた短篇について考えていた。どう転んでも死ぬという先行き、身も蓋もないのだ。身も蓋もないものは清潔だが、認識と叙述における清潔とは、観念 notion にすぎない。Memento mori などは実に下らないことで、これは言ったら怒られるんだろうな、それでも言う

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エッセイ/劇薬に寄せる思いを激白

エッセイ/劇薬に寄せる思いを激白

あなたと一生一緒にいたい
という(抑揚までも)同じことばに、
ある人は添い遂げる契機と決意を与えられ、
また
ある人は身体の底から冷える恐怖を味わわされる。

ことばとは、確かにそのような劇薬でありながら、使用には、資格も制限もR指定も存在しない。

車で死ぬ人と、ことばで死ぬ人は、どちらが多いか。
酒に酔って失敗する人と、ことばに酔って失敗する人は、どちらが多いか。
煙草の投げ捨てと、ことばの投

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エッセイ/三人三様

エッセイ/三人三様

太宰のなにか好きかといえば、おそろしいほど文章が巧いところである。反論も多々あろうが、私は巧いと思う。つまり、舌を巻くほど巧いのだ。それだけである。『晩年』や『廿世紀旗手』の一歩目から息切れた篆刻のようなアフォリズムから、あるとき、なぜだろうか、短中距離走の神髄を体得する。戦後の『人間失格』も『斜陽』も、喧伝のわりにはとんだ駄作であるが、もう、それで構わない。そこまでに残したものは、どれも最高水準

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エッセイ/It Is As It Is

エッセイ/It Is As It Is

頬を叩きつける、硬い雪つぶの嵐がおさまり、要塞のような倉庫のかげから、明るい陽がさしてきた。と、すぐに陽は翳り、また、こんどは柔らかい雪が頬にあたり、いや、叩きつけ、目の前は霧のように白む。その移りかわりは、私の意思から遙かなところで、粛々とおこなわれる流れであり、私は、ただそこにたゆたう、ひとつぶの発光エテルである。私が霰のような雪に叩きつけられる瞬間、霰もまた、私の強ばった頬に叩きつけられ、黄

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戯れ言/ 好きな英ことば

戯れ言/ 好きな英ことば

思いが思いを生み、日本語にいいかげん煮詰まってきたとき、それでもことばに執着したがる、難儀なこの人に、じゃあ、英語で好きな語はなんだろうか、と問いかけてみると、この人は、張った右背中のストレッチをしながら、黙りこくって天井を眺め、思案に暮れているから、かれこれ5分ほども、同じ腰椎まわりをほぐしていて、いかに気持ちがよいとは言っても、ちょっと伸ばしすぎなのではないか、とたしなめると、この人はやおら反

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随筆/A Style

随筆/A Style

かくまでと雪の白きをしらざりきをさなごのごと手にすくふ朝

何かをたゞ、ぢつと感じてゐたかつた。さうすれば、このぢごくから、ほんのつかの間、身をかはせると思つたから。
さう云へば、あなたは、些ともかはらないね。わたしはかはりはてた、とわたしは云ふ。
あなたは、ご自分で仰るほど、かはれてゐませんわ。妾、去年の妾とは違ふのよ。色味にばかりだまされて、まつたく笑止ね、と雪は笑ふ。
それでも、やはりあなた

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コラム/ドイツ銘菓・エックハルト

コラム/ドイツ銘菓・エックハルト

マイスター・エックハルト Meister Eckhart について書く。
いまから700年ほど前、ドイツのあたりで坊さんをしていた。
余談だが、ぼくの兼好法師とほぼ同世代だ。

知ってるから書くのではなく――もう、そんな記事は廃れてゆくのだろう――あくまで、知りたくて書くのが本稿の目的なので、もし、おなじく関心をお持ちいただけたら、まずは Wikipedia, あとはググっていただき、各々方、面白

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エセイ/戒語 '23

エセイ/戒語 '23

以下、歯に衣着せぬ自省。

*

構想が湧いた、よしいっちょ小説でもと思えばそこで既に負け戦なのである。エセイと随筆の隙間でちょちょいと筆を動かすから、愚にもつかぬポエムが出来上がるのである。棺桶の型に嵌める覚悟が失せて、細かな行替えと聯立てでどうも分からぬ事を書けば詩、な訳がないのである。存在、事象、言語、認識、認知、社会、文化、鏡像、形式――以上の語をすべて用いて文学の本義を述べよ(二十点)。

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エッセイ/Quod Erat Demonstrandum

エッセイ/Quod Erat Demonstrandum

毛錢の話なのである。

取りみだして失礼、とりあえず、読んでいただければよいのだ。

*

カントもびっくり、きょうも律儀に、朝いちばんのルーティーンである、「娘と歌いながらだれもフォローしていないツイアカのおすすめを読む」を実行していた私は、このツイートを目にし、ことばどおり仰天した。

一読して、軽い動悸をもよおしたものの、これは症状かもしれない。再読して、やや呼吸が荒くなるのを覚えたが、これ

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