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「天城山からの手紙 55話」
天城の秋も、あっという間に紅を咲かせては過ぎ去っていく。山は、11月の下旬になるころにはもう冬支度が始まるが、ちょうどその頃、伊豆の各所で紅葉が始まり、その雰囲気のまま山を訪れると、なぜだかとてもさみしくなってしまう。この日、天城の秋を見納めに訪れた。ちょうど、お月さんが沈むころに歩き始め、森はヘッドライトがいらない位に明るかった。そして、真っ赤になりながら沈むお月さんと交代するかのように、真っ赤
もっとみる「天城山からの手紙 54話」
連載も一年が過ぎ、読者には毎回の拝読を感謝している。なるべく、最新の天城をお伝えしたく入山を続けているので、これからもお付き合い願いたい。さて、季節が移ろう時は特に、そのシーズンを占うかのように、最初の出会いはとても大事なものになる。この日は、天城の秋をスタートさせた大事な一日となった。全国にならい、天城の紅葉も例年より一週間ほど遅れているようだ。そして、現在の天城は、今期の台風により、沢山の倒木
もっとみる「天城山からの手紙 53話」
山に雨が降ると、それは長い旅路の始まりとなる。大粒の雨が降る時、ブナの足元に立つとこれでもかと大量の雨水が降り注ぐ。大空に広げた両手に、まとわりつく様に雨がかき集められ、自分の足元へとぼたぼたと音を鳴らし落とす。じっくりとその光景を見ていると、目の前を落ちていく一粒の水滴は、まるで生きているかの様に飛び跳ね、競う様にブナの根本へと吸い込まれていく。小さな水滴に、目と鼻と口を書いて山に放たれる様子を
もっとみる「天城山からの手紙 52話」
森に生きる者達が命終わる時、誰が見送りしてくれるのだろうか?地に倒れ込み、まだ血の通うような姿でも、ただその場に居続ける。雨が降り雪が積もり、命始まる春が音を立てて過ぎて行っても、何もなく地に体を預けるしかないのだ。そして、時間が積もると共に新しい命が倒れた体に寄り添い、地に還る助けをし、その姿は、想いが形となり長い時間をかけて終わりまでの時間を巡らせる。寄り添う青い苔が体を覆うと、茶色い落ち葉の
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