写真家 土屋 正英

自然風景写真家。物語を描くそんな写真を撮る。撮影講師・ツアー講師・新聞連載等々で活動中。

写真家 土屋 正英

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  • 天城山からの手紙

    伊豆新聞で2018年10月より連載スタートした、天城山からの手紙-自然が教えてくれたことのアーカイブ記事になります。加筆訂正をし、紙面では正確に見れなかった写真も掲載。

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「天城山からの手紙」1回目

まだ見ぬ姿を求めて今日も暗闇に一歩踏み出す。その場所は伊豆に鎮座する天城連山。あまり知られていないが、全国でも珍しい橅(ブナ)が生き残っている貴重な森である。今回からそんな天城山にスポットをあて、たくさんの物語を写真と一緒にお伝えして行きたい。 この日は風速7m気温-15℃という伊豆では信じられない冬の日。天城連山越しから見える、朝日を求めて、達磨山に向かっていた。山頂に着くと、吹き付ける猛烈な風は急速に体温を奪っていき、バックから三脚すべての物を氷に包んでいく。そして闇夜が

    • 「天城山からの手紙 60話」

      森には、過酷な場所へ命を宿した者、逆に最高な条件の場所に命授かる者がいる。それぞれに待ち受ける運命は、千差万別だが、命あるその場所で命繋ぐために生き抜かなければいけない事実は、変わらない。そして、命あるものは必ず終わりが来るという自然のルールを、すべての者が受け入れる。森を歩きながら、そんな事を考えていると、とても寂しくなる時がある。しかし、”時間”は流れ、決して止まらないのだから仕方がない。時間に形があれば、捕まえてしまいたいと思うのだが、いくら手を伸ばしても手元に置いてお

      • 「天城山からの手紙 59話」

        やっと天城も冬が訪れ始めた。森にはまだ、秋の残り香が漂うが、枝にはほとんど葉がない。冬の天城は、まるですべてが眠りに落ちたかのように静まりかえり、辺りは殺風景な景色が広がるばかり。歩いても歩いても森の気配を感じることはできず冷たい風が身に染みる。この日、明け方まで雨が降っていた。冷たい雨は、葉を落とした木々の体を黒く染め上げ、意思さえも閉じ込め消しさる様だ。私はカメラを構えることもなく、なんとか息吹の痕跡はないかと、キョロキョロするばかりで、歩が進まない。そのうちに、一つの風

        • 「天城山からの手紙 58話」

          前日の天気予報を見ていると、翌日には大雨と強い風がやってくるらしい。夕飯時もずっと携帯とにらめっこで上の空。妻が一声”行ってらっしゃいと、天の声を授かり、明日の出会える情景で一気に心は埋まった。先週に行った滑沢渓谷では、紅葉がまっさかり!きっと大雨に打たれ、赤いもみじ達が岩肌に落ち化粧をしているだろう・・と想像を膨らます。毎年、この時期に狙っている情景なのだが、なかなかきれいな紅葉の時に、この天候はやってこない。当日は予報通りに大雨。通常なら撮影なんてできない位なのだが、確認

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        「天城山からの手紙」1回目

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        • 天城山からの手紙
          写真家 土屋 正英

        記事

          「天城山からの手紙 57話」

          1歩、2歩、3歩・・・と目の前の石を渡り、神様が飛んで現れるような気がした。水面ギリギリにしゃがみ込み冷たい渓流の中でカメラを構えると、滝の前方に黄金色の光が差し込み、まさにその瞬間がやってくると期待させる。大体11月下旬~1月下旬にかけて滑沢渓谷のこの場所は。正面から太陽が昇り、よくいう”光芒”という現象が起きる。ただ、そう簡単には見ることは出来ず、どんな時に出るのかも想像がつかない。霧が立ち込めればそれこそ簡単に出るのだろうが、冬の渓谷に霧が入るのは。相当の冷え込みと温度

          「天城山からの手紙 57話」

          「天城山からの手紙 56話」

          出発の夜、外は雨が降り予報によると朝方に風は強いが、天候は回復するという。こんな天気の時、天城の山は素晴らしい景色になる事とが多く、狙って出かける事が多い。丁度、下界では紅葉が始まり、森は紅葉が終わるころだろうか。この日、登山口についても山に入るか?渓谷に入るか?悩んでしまった。なぜなら、雨で風が強い、そして晩秋となると落葉で埋め尽くされた渓谷の装いが容易に想像できるからなのだ。もう一度、山の上をみて、今日は霧はないなと納得させて腹を決めた。早速胴長を着込み薄暗い渓谷へと歩き

          「天城山からの手紙 56話」

          「天城山からの手紙 55話」

          天城の秋も、あっという間に紅を咲かせては過ぎ去っていく。山は、11月の下旬になるころにはもう冬支度が始まるが、ちょうどその頃、伊豆の各所で紅葉が始まり、その雰囲気のまま山を訪れると、なぜだかとてもさみしくなってしまう。この日、天城の秋を見納めに訪れた。ちょうど、お月さんが沈むころに歩き始め、森はヘッドライトがいらない位に明るかった。そして、真っ赤になりながら沈むお月さんと交代するかのように、真っ赤な太陽が顔を出し、朝が始まる。この日はもう、晴天もいいところで雲一つない空が頭上

          「天城山からの手紙 55話」

          「天城山からの手紙 54話」

          連載も一年が過ぎ、読者には毎回の拝読を感謝している。なるべく、最新の天城をお伝えしたく入山を続けているので、これからもお付き合い願いたい。さて、季節が移ろう時は特に、そのシーズンを占うかのように、最初の出会いはとても大事なものになる。この日は、天城の秋をスタートさせた大事な一日となった。全国にならい、天城の紅葉も例年より一週間ほど遅れているようだ。そして、現在の天城は、今期の台風により、沢山の倒木が増え、残念ながら大きく形相が変わってしまった。私の心情からすると、どうしても倒

          「天城山からの手紙 54話」

          「天城山からの手紙 53話」

          山に雨が降ると、それは長い旅路の始まりとなる。大粒の雨が降る時、ブナの足元に立つとこれでもかと大量の雨水が降り注ぐ。大空に広げた両手に、まとわりつく様に雨がかき集められ、自分の足元へとぼたぼたと音を鳴らし落とす。じっくりとその光景を見ていると、目の前を落ちていく一粒の水滴は、まるで生きているかの様に飛び跳ね、競う様にブナの根本へと吸い込まれていく。小さな水滴に、目と鼻と口を書いて山に放たれる様子を皆さんも想像してみてほしい。正にその瞬間が長い旅路の始まりなのだ。どれだけの時間

          「天城山からの手紙 53話」

          「天城山からの手紙 52話」

          森に生きる者達が命終わる時、誰が見送りしてくれるのだろうか?地に倒れ込み、まだ血の通うような姿でも、ただその場に居続ける。雨が降り雪が積もり、命始まる春が音を立てて過ぎて行っても、何もなく地に体を預けるしかないのだ。そして、時間が積もると共に新しい命が倒れた体に寄り添い、地に還る助けをし、その姿は、想いが形となり長い時間をかけて終わりまでの時間を巡らせる。寄り添う青い苔が体を覆うと、茶色い落ち葉の上で倒木は生き生きとした顔になり2回目の人生が始まったように見える。コケが形どる

          「天城山からの手紙 52話」

          「天城山からの手紙 51話」

          また台風がやって来た情報が流れてくる度に、自然の脅威をまざまざと見せつけられ、平和に過ぎ行く日常の有難さを痛感したのではないだろうか?そして、人間も自然の一部であり、そのルールには逆らえないと再認識する。台風も過ぎ去ろうとしている中、やはり頭の隅っこには、天城の山は大丈夫だろうか?あの木は無事に立っているだろうか?どうしてもチラついてしまい、足が山へ向かってしまう。台風19号通過から迎えた13日、やはり天城の様子を見に行こうかと車を走らせた。台風一過が置いていく絶景も狙いで、

          「天城山からの手紙 51話」

          「天城山からの手紙 50話」

          雨がやっと上がった帰り道、目の前に現れたブナのシルエットに入った一筋にラインは、また私の心を奪った。空はまだ雲で覆われ暗いのだけど、森にはそんな弱い光さえも物語の主人公にしてしまうほどの優しがあるのだ。この日、倒れたヘビブナに会いに行った。だからこそ、この情景に心を動かされたのかもしれない。無残なまでに今までの生きた時間を、一つの風が一瞬で奪ってしまう。どれだけ生き残ることにしがみ付き、どれだけの過酷な時間を過ごし生きてきたのだろう?でも終わりは突然と訪れて、永遠が瞬間となり

          「天城山からの手紙 50話」

          「天城山からの手紙 49話」

          この日、前日に見つけた”ツキヨタケ”を撮影したく夜の森を訪れた。ツキヨタケはブナなどの立ち枯れに寄生するキノコなのだが、名前から想像できる様に、夜になると蛍光色を放ち、闇夜に浮かび上がる面白い特性を持つ。例年9月中旬~10月中旬に天城で確認でき、毎年歩けばその辺に生えているのだが、今年、いざ撮影したいとなると全く見つからず、森のいたずらに遊ばれていた。やっとの思いで撮影できそうな立ち枯れを見つけたので、悦び勇み直ぐ翌日の夜に再訪となったのだ。夕刻、前日からのロケハンを共にした

          「天城山からの手紙 49話」

          「天城山からの手紙 48話」

          この穴から覗くその先には、秋の宴が待っていた。夏を過ぎ、うっすらと秋の風が吹く中、トップシーズンに向けて訪れたのは、滑沢渓谷。何度来ただろうか?それでも年に何回も来てしまう場所の一つなのだ。丁度この秋から差す光も素晴らしく、新たな発見を求めて彷徨う。名前の通りに滑らかな岩肌は、水に濡れ艶々に輝き、妖美なラインが渓流を作り出す。その濡れた肌に足を置けば、そこはスケートリンクの様に足を奪われてスッテンコロリンとひっくり返ってしまう。気を付けても、ズルっと滑らせ怖い思いをしたのも数

          「天城山からの手紙 48話」

          「天城山からの手紙 47話」

          先日の台風15号は、沢山の被害を伊豆にもたらした。そして、私の中で、天城の象徴だと思っていた「ヘビブナ」がついに逝ってしまった。幾たびの脅威を乗り越え、命を全うするために変えた姿は、まさに情念という一言に尽きる。私は、このヘビブナの前に何度立っただろうか?訪れる度に、偶然の出合いをくれた。その偶然が重なるほどに疑念が確信に変わり、この日、私は、不思議な体験をしたのである。人は誰しも大きな悩みを抱える事だろう。道に悩み、人との関係に悩み・・。それぞれが、何とか踏ん張り乗り越えて

          「天城山からの手紙 47話」

          「天城山からの手紙 46話」

          天城山のイメージは、何時も霧に包まれ暗い森だと思われることも多い。しかし、なかなかその様な条件に遭遇するのは難しい。この日は、雨に降られるのを覚悟で向かったのだが、いざ現場に到着すると雨も降ることなく、暗闇の向こう側には、期待通りの綺麗な霧がかかっていた。対外は夜明けと共に、すーっと霧は消え去り、日常へと戻ってしまう。きっと、今日もそんなだろうと、景色が残っているうちに撮影を急いだ。日が昇ると、霧の空間は、次第に黄色や青と照明が変わった様に変化していく。目の前が温かい黄色に包

          「天城山からの手紙 46話」