「天城山からの手紙 57話」
1歩、2歩、3歩・・・と目の前の石を渡り、神様が飛んで現れるような気がした。水面ギリギリにしゃがみ込み冷たい渓流の中でカメラを構えると、滝の前方に黄金色の光が差し込み、まさにその瞬間がやってくると期待させる。大体11月下旬~1月下旬にかけて滑沢渓谷のこの場所は。正面から太陽が昇り、よくいう”光芒”という現象が起きる。ただ、そう簡単には見ることは出来ず、どんな時に出るのかも想像がつかない。霧が立ち込めればそれこそ簡単に出るのだろうが、冬の渓谷に霧が入るのは。相当の冷え込みと温度差がないと無理だろう。期待するのは、雨上がりなどの煙る時か、水量の多い日などを狙うのか・・・。長年、写真を撮っていると、神がかっていると感じる時がある。なぜだか、足が向いてしまい、出会いたい光景に出会えるのだ。この日、心音の会メンバーと夜明け前から渓谷で待ち合わせ、光芒狙いで朝の撮影をしていた。記憶が正しければこの日は雨上がりだったはずだ。光の演劇よりも、まずは、黒い肌に紅を落とし静かに流れる渓谷の朝が素晴らしかった。しかし、頭の隅にはなぜか光の演劇が居座っている。私は早々に場所を移動し、光の差す方へ思いを馳せるが、一向に雲が晴れる気がしない。それでも、構図を作り冷たい渓流の中に腰を沈める。そして、しばらくすると黄金の色が水面を照らし始めた。もう、その瞬間、私の勘は「大丈夫だ、光は来る」と知らせる。1歩、2歩、3歩・・・。確かに飛び石を渡り現れた。そこには、優しい光の筋が滝の上空から差し、私達を包んだのだった。
掲載写真 題名:「神様の飛び石」
撮影地:滑沢渓谷
カメラ:ILCE-7RM3 FE 24-70mm F4 ZA OSS
撮影データ:焦点距離30mm F11 SS 2.5sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2018年11月30日 AM8:32
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