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「天城山からの手紙 58話」


前日の天気予報を見ていると、翌日には大雨と強い風がやってくるらしい。夕飯時もずっと携帯とにらめっこで上の空。妻が一声”行ってらっしゃいと、天の声を授かり、明日の出会える情景で一気に心は埋まった。先週に行った滑沢渓谷では、紅葉がまっさかり!きっと大雨に打たれ、赤いもみじ達が岩肌に落ち化粧をしているだろう・・と想像を膨らます。毎年、この時期に狙っている情景なのだが、なかなかきれいな紅葉の時に、この天候はやってこない。当日は予報通りに大雨。通常なら撮影なんてできない位なのだが、確認するためにカメラを担ぎ、現場に立った。すると目の前には、高揚した岩達が顔を真っ赤に染め、宴を楽しむ。一方私は、カメラを構える頭上の大木から、大粒になった雫が私一点を目掛け降り注ぎ、もう体の中はびちょびちょ。敢無く撤退となった。後は、雨が止むのを震えながら待つだけだ。2時間もすると、雨は小降りになり、満足に撮影が進むと現場に向かう。しかし、あ~神よ!無情とはこういう事か!目の前は、濁流が、真っ赤な絨毯を洗い流し、只の荒れた渓谷と様変わりしていたのだ。こんな事あるのか・・ぐっと肩を落とし現場を後に・・・しないのだ!なぜなら、この濁流の様子は、今しか撮れない。ここで諦めると、大きな出会いを逃してしまう。そう、掲載の倒木は、毎年、秋に向き合い続けた木。今年の台風で倒れてしまい、来年には姿が変わるだろう。だから、今日だけしか私はさよならを言えなかったのだ。自然は、大切な出会いをくれた。だって、紅に染まった渓谷は、またいつか撮ればいいのだから・・・。


掲載写真 題名:「終わりの言葉」
撮影地:滑沢渓谷
カメラ:ILCE-7RM3 FE 24-105mm F4 G OSS
撮影データ:焦点距離24mm F9 SS 1/13sec ISO800 WB太陽光 モードAV日付:2019年12月2日 PM14:41



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