「天城山からの手紙 56話」
出発の夜、外は雨が降り予報によると朝方に風は強いが、天候は回復するという。こんな天気の時、天城の山は素晴らしい景色になる事とが多く、狙って出かける事が多い。丁度、下界では紅葉が始まり、森は紅葉が終わるころだろうか。この日、登山口についても山に入るか?渓谷に入るか?悩んでしまった。なぜなら、雨で風が強い、そして晩秋となると落葉で埋め尽くされた渓谷の装いが容易に想像できるからなのだ。もう一度、山の上をみて、今日は霧はないなと納得させて腹を決めた。早速胴長を着込み薄暗い渓谷へと歩き始めたのだ。と、ここまでは良い。まったく自然とは気まぐれで、今年遅れてるとは言え、紅葉が二分咲きとは・・・。皮算用の板ではもう何回目だろうか?しかし、風景写真とは実にこうい事が楽しく、その日の出合いをどれだけ形にできるかが大切で、慣れたものだ。すぐに頭の中の想定を消して、心に鳴る音を頼りに一歩一歩渓谷をよじ登っていく。渓流に浸かる足はだんだんと冷え、上流から流れ落ちてくる強風が手先の感覚を奪う。時々、風に乗ってひらひらと黄色いモミジが顔をかすめては、私と森の時間は深くなっていく。そんな時、目の前に現れたのは紅葉でもない一枚の緑葉だった。この瞬すでにドキッと音が体に鳴り響き、寸分遅れて大きな流れに逆らう様にしがみ付くその姿は、どうやってその場所に止まったの?と疑問が溢れだす。まさにこれが出会いの瞬。こうして自分だけの物語が流れると、それは私の至福の瞬なのだ。
掲載写真 題名:「想いの限り」
撮影地:本谷川
カメラ:ILCE-7RM3 FE 24-105mm F4 G OSS
撮影データ:焦点距離40mm F14 SS 1/4sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2019年11月19日 AM8:42