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「天城山からの手紙 55話」


天城の秋も、あっという間に紅を咲かせては過ぎ去っていく。山は、11月の下旬になるころにはもう冬支度が始まるが、ちょうどその頃、伊豆の各所で紅葉が始まり、その雰囲気のまま山を訪れると、なぜだかとてもさみしくなってしまう。この日、天城の秋を見納めに訪れた。ちょうど、お月さんが沈むころに歩き始め、森はヘッドライトがいらない位に明るかった。そして、真っ赤になりながら沈むお月さんと交代するかのように、真っ赤な太陽が顔を出し、朝が始まる。この日はもう、晴天もいいところで雲一つない空が頭上に広がり、照れるように頬を染めた太陽が、青空の中で、異色の存在感を放っていた。こんな日は、撮影よりも素晴らしい朝の雰囲気を存分に楽しむ事も多く、逆に肩の荷が下りた気分で、最高の時間を過ごすのだ。それでも、歩いては後ろを見て、出会いを見逃さないように気を付けるが、いつもの儀礼みたいなもので歩が進むばかり。そんな朝のひと時を過ごす中、目的地に到着し、体を癒しながら大きく呼吸をする。表現できないくらいすがすがしい森の空気は、心も体もきれいに洗い流し、晩秋の冷たい気温が身に染みた。次第にその場所へと日が差し始めてくると、地面にたくさんの影が敷き詰められ、木々の分身を作っていく。そして、一本のブナの影を追うと、その先には影よりも小さい体が立っている。まさにこの分身は、本音を語る姿。すでに、森に溶け込んだ私には、影の語らいで、心を埋め尽くしていた。

掲載写真 題名:「本音」
撮影地:手引頭
カメラ:ILCE-7RM3 FE 24-70mm F4 ZA OSS
撮影データ:焦点距離36mm F11 SS 1/125sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2018年11月23日 AM7:44


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