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「新型コロナウイルス禍がもたらす心理的変化」とは?

 お元気でしょうか,今福です。今日は新型コロナウイルス禍(COVID-19)の心理的影響について,心理学の研究を引用しながら書いてみました。

 「子どもの心の発達にも影響があるの?」「その科学的根拠は?」などの疑問に対しても,研究が始まっています。

(1)コロナ禍とは何か

 2020年1月16日に日本で初の新型コロナウイルスの感染者が確認されました。3月11日にはWHOが「パンデミック相当(世界的な大流行)」に相当すると表明しました。7月24日の現在も,日本では1日900名以上の感染者が報告され,世界規模で流行しています。

 この流行のことをコロナ禍と呼びます。コロナ禍は私たちの行動に大きな影響をもたらしました。私のiphoneに記録されている1日の平均歩数も,コロナ禍ではかなり少なくなっていました(運動しないとけませんね)。

歩数_今福

 保育園や幼稚園,小中高校などでの休園や休校が相次ぎました。大学では,オンライン授業が積極的に取り入れられるなど,学習形態の変化がみられました。対面授業を実施する場合には,三密(密閉・密集・密接)を避ける,ソーシャルディスタンスをとる,手洗いやマスクをするなどの感染症対策が必須となっています。現場では集団感染リスクが常に隣り合わせにあり,厳しい状況が続いています。

(2)コロナ禍における心の変化:「協力」か「敵対」か

 コロナ禍では,感染者数が日々変動します。また,ワクチンや特効薬は開発段階にあり,感染収束の先行きが見えない状況です。教員としても,感染症の状況によって,授業カリキュラムを変更することも多くありました。このような環境は,私たちの心理にどのような変化をもたらすのでしょうか。

 熊谷先生(東京大学)は,「潜在的にはみんながこれまでにないほど不便を経験しているのだから,連帯のチャンスです。自分と同じようにしんどい思いをしている人がたくさんいるということでチューニングすれば,連帯に向かうと思うのです。でも一方では,総障害者化の状況では,みんな余裕がなくなります。みんな余裕がなくなる延長線上には,自分以外の人々よりも自分のニーズを大切にするという形で,他者を排除する方向に総障害者化が向かっていく可能性ももちろんあります」と述べています。

 つまり,コロナ禍という環境が,人々を「協力」に向かわせる場合もあれば,「敵対」に向かわせる場合もある,ということです。個人的にはこのような状況だからこそ,他人を攻撃するのではなく(議論はいいが),協力に向かえばと思います。

 18歳以上の日本在住の日本国籍者1248名を対象に,コロナ禍の感染忌避傾向と排斥的態度について調べた研究では,感染忌避傾向が強い人ほど感染予防行動をより多くとり,外国人と中国人への排斥的態度がコロナ禍で強くなることが示されました(山縣・寺口・三浦, 2020)。

 この結果は,日本人がコロナ禍では自分の所属しない集団(外集団)に対して,排斥的態度をとるようになることを表しています。

(3)コロナ禍は私たちの心にどのような影響をもたらすのか:発達心理学の知見から

 コロナ禍は私たちにどのような心理的影響をもたらすのでしょうか。コロナ禍における心理学研究の成果が報告され始めています。

 4~9歳までの子どもを持つ保護者420名に行われたアンケート調査では,「他の子どもたちと、よく分け合う(おやつ・おもちゃ・鉛筆など)」「自分からすすんでよく他人を手伝う(親・先生・子どもたちなど)」など,他人に利益のある行動をとる性質である向社会性が,パンデミック前に比べてパンデミック後に高くなることが示されました(Moriguchi, Sakata, Meng, & Todo, 2020)。

 この結果は,コロナ禍では自分の所属する集団(内集団)に対する結束がより強固になり,子どもがより思いやりのある行動をするようになった可能性を示します。

 0~9歳までの子どもを持つ保護者700名へのアンケート調査では,スマートフォンやタブレットなどのデジタルメディアを操作する能力が,コロナ禍で飛躍的に向上したことが示されています(Moriguchi et al., 2020)。

 家族や友達とのコミュニケーションもオンラインでのやりとりが日常になりつつある中で,このような影響もあるのですね。

 私たちの行った3~6歳の子どもを対象とした調査でも,パンデミック前に比べてパンデミック後に,デジタルメディアの使用時間(スクリーンタイム)が長くなることが明らかになっています。また,コロナ禍では母子の心理的ストレスが高くなる傾向もみられました。


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 また,「ロックダウン中、世界各地で早産が激減していたことがわかり反響 調査が始まっている」という記事を見つけました。アイルランドとデンマークの新生児集中治療室(NICU)の医師たちが,2001年以降に生まれた赤ちゃんと2020年に生まれた赤ちゃんの出生体重を比較したところ,デンマークでは低出生体重児が90%減少したことが分かったそうです。

 ロックダウンやコロナ禍は在宅勤務に切り替わる人が多く,通勤時間がなくなったことで,休息する機会も増えたことが妊婦の体の負担を減らしたようであると考察されています。このように,コロナ禍は私たちの生活にデメリットばかりでなくメリットをもたらす場合もあるようです。

 感染を広げないようにしながら他人とつながる工夫も求められそうです。

 コロナ禍に伴う大きな環境変化が,私たちの心に長期的にどのような影響を及ぼすのかは,今後も注意してみていかなければならないと思います。

引用文献

山縣・寺口・三浦(2020)新型コロナウイルス(COVID-19)禍における感染忌避傾向と外国人への排斥的態度の関連:日本を事例とする調査研究. https://osf.io/6yfmk/

Moriguchi, Y., Sakata, C., Meng, X., & Todo, N. (2020) Immediate impact of the COVID-19 pandemic on the socio-emotional and digital skills of Japanese children. https://psyarxiv.com/6b4vh/


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