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かくかくしかじか。

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エッセイ的なお話たちです。
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#日記

歯が痛い

歯が痛い

コンコンコン

虫歯が歯茎にノックする

ズキズキズキ

そのたびに歯に痛みが広がっていく。

ああ、痛い。
虫歯の千本ノックに律儀な執念を感じつつ、
こんな状況になってしまった怠惰な自分に諦念を抱く。

ああ、痛い。
《歯が痛くない》、その状態がすなわち幸せの一部だったのだ。

ポジティブ筋肉

ポジティブ筋肉

性格には、人それぞれ楽観的だとか悲観的だとかいった傾向がある。

しかし、「ポジティブになる」のは筋肉的な作用で可能だ。

精神が膝から崩れ落ちそうになった時に「持ちこたえさせる」筋肉、
それがポジティブ筋肉。

ポジティブ筋肉とは決して個性ではない。
技術だ。

だから、ポジティブな人も、ネガティブな人も、どちらでもポジティブ筋肉は纏えるのだ。

つまり、無理に自分の性格を変えると考える必要はま

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波があるようだ

ただ、なんとなく、バットを繰り返し振るように書き連ねる文章たち。

深い意味も、意外などんでん返しも必要ない。

ただ、書きたいことを書こうとする。
そんなとても低いハードルのはずなのに、書きづらくなる時期がある。

それは短いと2〜3日、長いと数ヶ月。

そこを通過すると、また楽しんで文章を考えられるようになる。

これってなんだろう。

つらつらと書ければいいかというと、そうでもないし、むしろ

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ぶわわわ

ぶわわわ

ぶわわわ。
そんな音が、頭を駆け巡る。

ぶわわわ。
やるべきことが何なのかは、なんとなくわかっている。
しかし、目の前にあるのはまったく別のこと。

ぶわわわ。
とっちらかった意識の行方を追いかけるたびに、
行き着く場所がかわっている。

ぶわわわ。
脈略のない、その時々の衝動につられて漂う時の効果音。

ぶわわわ。
この音と共に生きている。

「え、もう米が無くなったの?」にまつわる《時間概念》

「え、もう米が無くなったの?」にまつわる《時間概念》

「一ヶ月前」と聞くと、僕は遠いはるか昔のことのように感じる。
ちょっと大げさに言ったが、そんな気がするのだ。

しかし、昨日のことだ。

いつものようにご飯をたこうとすると、
この前買ったばかりの「お米5キロ」が、ほとんど無くなりかけていた。

「え、もう米が無くなったの?」
その事実に、僕はささやかながら驚愕した。
米がないということは、自炊をするものすべてにとって(いや、少なくとも僕にとって)

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虫けら

虫けら

コンロの火口に降り立ったゴキブリ。
僕はとっさに、火をつけた。

チチチチ

ゴキブリは身を悶ながら、熱さに焼かれながら死んでいった。

―――

僕のいる大学の宿舎の台所は、共同である。
毎日、掃除のおじさんが掃除してくれているので、そこまで汚いわけではないが建物自体が古いこともあって、共同の台所にはよく大小のゴキブリが出る

特に、夜になって台所の電気をつけるとゴソゴソと徘徊する彼らに遭遇する

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僕のホクロをスイッチみたいに押すなって。

僕のホクロをスイッチみたいに押すなって。

僕の首の後ろには、ホクロがある。
それに気づいた友人たちは、「やる気スイッチ」と言ってポチッと押していく。
僕は押されるたびにイライラし、諸々の「やる気」が削がれていく。

押したくなる気を起こさせるホクロ。
押される側の気力を奪うホクロ。

押されるまで知らなかった、そんな魅力をふりまくホクロのことを。
押されるまで知る由もなかった、このなんとも言えぬ不快感のことを。

でも今になって、
これこ

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面倒くさイズム

面倒くさイズム

「問題を生み出すのは、人や現象ではない。思想だ。」

誰かがそう言っていた。
つまるところ、自分の考えが相手や目の前の出来事を嫌なものとして捉えるから結果的に不快な思いをすることになる、ということだ。

だから、極論をいってしまうと人生を苦しめるのも、豊かにするのも「思想しだい」ということになる。

僕はその主張をおおむね認める立場にある。
なぜなら、今までの僕の人生を支配し、僕の価値判断に大きな

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走る意味

走る意味

気分がひどく落ち込んでいる時、
だいたい体もそれに合わせるように重くなる。
その気だるさが、重力となって僕の体にのしかかる。

しかし、時にその重さに筋肉が持ち堪え、むしろ勝ってしまうことがある。
そうすると、気持ちの落ち込み具合も緩和され、ぐっと持ち上がっていく。

僕にとって走ることは、精神的疲労の波に耐えるための堤防になっている。

村上春樹はドリブラー

村上春樹はドリブラー

はじめて読んだ村上春樹の作品は『羊をめぐる冒険』だった。

大学1年の時に下宿で一緒に住んでいたイギリスからの留学生(といっても彼は日系で日本語も堪能だった)が、とても面白いから読んでみろと勧めてくれたのだ。

僕は大学生になるまで、恥ずかしながらちゃんと読んだ本といえば、中学生の時に没頭して読んだハリー・ポッターシリーズくらいのものだった。だからなのか、はじめて読んだ村上春樹の小説の面白さは、当

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