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ショートショート(掌編)集

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短いお話たちです。
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2021年3月の記事一覧

やる気がまったくありません。【掌編】

やる気がまったくありません。【掌編】

「鹿島さん?これ3部だけコピーとっておいてもらえるかな?」
先輩の柏さんが、僕に声をかけてきた。

「はい!コピーをしましたら、先輩の机に置いておけばよろしいでしょうか?」
僕はおろしたてのワイシャツのような笑顔で答えた。

「うん、よろしく!」
柏さんは、にっこり笑って会議室へと向かった。

「承知いたしました!」
僕は漬けたてのキュウリのようにシャキシャキと返事をした。

でも、本当はコピーな

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誰かが書いたような文章【掌編】

誰かが書いたような文章【掌編】

誰かが書いたような文章ですね。

「いえ、僕が書きました」

そういうことじゃなくて、何かのパクリみたいな文章だなと。

「いえ、僕が僕なりに書いたものです」

オリジナルの劣化版に過ぎないといいますか、、、。

「•••オリジナルってなんですか?」

端的に言うと、あなたには才能がないってことですね。残念ですけど。

「それでは、あなたが代わりに書いてくださいますか?」

ほら、やっぱり誰かに書

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愛の確認【掌編】

愛の確認【掌編】

「私のこと愛してる?」

そう聞かれるたびに「うん」と答える。

「私、かわいい?」

そう聞かれるたびに「うん」と答える。

「本当に、私のこと愛してる?」

僕はいつものように「うん」と答える。

彼女はいつも不安になって愛を確かめたがり、
僕はいつでも不安になった彼女の手を握る。

ただ愛の確認に応える度に、僕はだんだんと消耗していく。

彼女の不安を埋めるものが何なのか、どうも見当がつかな

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繰り返される会話。【掌編】

繰り返される会話。【掌編】

あの子、かわいくない?

あの子、かわいいな。

あの子、かわいいんだよね。

あの子は、その都度変わっている。
その文に込められている意味に、大差はない。



一か月後。

あの子、こんな所がかわいくて、、、、

あの子、ちょっとした仕草がかわいくて、、、

あの子、やっぱりかわいいんだけど、、、

あの子は、その都度変わっている。
その文に込められている意味に、大差はない。



一年後

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君のために言っている。【掌編】

君のために言っている。【掌編】

「君のために言っている。」
それが彼の口癖だった。彼は人の欠点をあげつらっては、自分は善人のように振舞った。

ノーブレス・オブリージュ

そう、それが彼なりの正義であり義務であったのだ。
人の欠点を大声で指摘すると、その人に嫌われるかもしれないし、人々に煙たがれるかもしれない。しかし彼にとっては、それでも勇気を出して指摘するべきことだった。
それが「君のためになる」と彼は心の底から信じていたのだ

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メタ発言、やめて。【掌編】

「おい、ヒロシ。お前はこれまで生きてきて、何が一番楽しかった?」
ある晴れた昼下がり、突然タロウがヒロシに語りかけた。

「そうだな、これまで楽しかったことかぁ、、、。笑いすぎて内蔵が飛び出るんじゃないかってほど腹を抱えて身悶えしたこともあった気もするんだけど、なんだろ、突然言われるとパッとは出てこないな。つらかったことならすぐ思い出すんだけどさ」
とヒロシは答えた。

「おい、ヒロシ。なんでお前

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霊が見える彼女【掌編】

霊が見える彼女【掌編】

「わたし、霊が見えるのよ」
彼女がとんでもないことを言うのは、いつものことだ。
「僕は君しか見えないよ」
僕はいつものように、なんとなく小さな声で返事をしておく。

すると彼女の母親が部屋に入ってきた。
「けんちゃん、いつもありがとうね。娘もきっと喜んでいるわ。」
母親はそっと腰を下ろし、机の上におしゃれなコーヒーカップを2つ置いた。
僕はチラっと彼女を見た。彼女はどこか寂しそうな表情をしていた。

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愛を返せない男【掌編】

愛を返せない男【掌編】

彼はどうしようもなく人から愛されてしまう、
そんな男だった。

彼の整った容姿が人々の注意を引き、彼の隙だらけの言動に人々は心を許してしまう。言い方を変えると、男性か女性かに関わらず人々の内に眠っている「母性本能」を引き出してしまう、そんな魅力が彼には備わっていたのだ。

彼の周りには自然と人が集まってきた。
なぜなら、どこか抜けている彼を見ていると危なっかしく見えてきて、自然と心配になって彼を助

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とり憑かれているようです。【掌編】

とり憑かれているようです。【掌編】

「霊たちが、私に悪さをするのよ。」
大学のサークルにそんなことをいう女の子がいた。彼女は僕と同期であったが、彼女があまりサークルに顔を出さないということもあって、彼女と言葉を交わした記憶はほとんどない。それでも僕は彼女のことが少し気になっていた。
それは、異性として関心があるとかそういうのではなくて、彼女の言動に含まれている違和感がなぜか僕をひきつけたのだ。まわりの友人たちは、彼女を「ちょっと変わ

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ファッションみたいに禁欲する人【掌編】

ファッションみたいに禁欲する人【掌編】

禁欲とは、自分の中にある肉欲との絶え間ない戦いの別名だ。
一方で、僕の友達で、そんな禁欲をあまりにも軽やかに、涼しい顔でしている奴がいた。
彼は、まるでファッションみたいに禁欲していた。
僕には、彼のその生活が、なんとも美しく見えた。

ちなみに彼は、クリスチャンだった。

僕の友達に、おじいちゃんの代から三代クリスチャンである友達がいた。彼も勿論、自分自身をクリスチャンだと自認している。日本では

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