霊が見える彼女【掌編】
「わたし、霊が見えるのよ」
彼女がとんでもないことを言うのは、いつものことだ。
「僕は君しか見えないよ」
僕はいつものように、なんとなく小さな声で返事をしておく。
すると彼女の母親が部屋に入ってきた。
「けんちゃん、いつもありがとうね。娘もきっと喜んでいるわ。」
母親はそっと腰を下ろし、机の上におしゃれなコーヒーカップを2つ置いた。
僕はチラっと彼女を見た。彼女はどこか寂しそうな表情をしていた。
「あれから、もう10年経つのね。」
大きなため息をついて、彼女の母親はコーヒーをすすった。
僕は黙ってうなずいて、部屋を眺めた。
そう、「あの日」から何も変わっていない。
だだ、十年前に亡くなった彼女の遺影が飾ってあることを除いて。
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