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「代替日本」以外の作品

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記事一覧

不用品回収の神

不用品回収の神

病室。夜8時。

神「ああ、この人ね。じゃあ回収しますね」

彼「ちょっと待って、あなた誰?」

神「不用品回収を生業とする神だけど」

彼「不用品て?」

神「この人。死にかけてるんでしょ?」

彼「死にかけって……。私の父です! 」

神「あごめんごめん、仕事なもんで」

彼「病気で苦しんでる人を不用品呼ばわりするなんてひどいじゃありませんか!」

神「いや、あなたにはわからないかもしれないけ

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今日の天使(5)

今日の天使(5)

単調な日々の中で、鬱々とした時間の波が襲ってくることがある。そんなとき、ふと微笑みかけてくれる今日の天使。

今日の天使『秋の長雨』

エアコンも付けてたし、なるべく早く寝るようにも心がけてた。

そうやって1日1回、ちゃんとシャットダウンしているつもりだった。しかしバックグラウンドで、その生身のシステムは異常をきたしていたらしい。

つまり私の脳は熱暴走を起こしていた。

浅い眠りのうちに、不快

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今日の天使(4)

今日の天使(4)

単調な日々の中で、鬱々とした時間の波が襲ってくることがある。そんなとき、ふと微笑みかけてくれる今日の天使。

今日の天使『風の子』

頭の中にはタスクがたまり、部屋とパソコンの中にはゴミがたまる。

八方ふさがりだ。どこから手を付けていいかわからない。すべてを捨ててやり直したい。だけどすべてをあきらめて放置する。

人も苦手だ。人と関わらなければ関わらないほど、苦手意識は蓄積していく。

台風が来

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今日の天使(3)

今日の天使(3)

単調な日々の中で、鬱々とした時間の波が襲ってくることがある。そんなとき、ふと微笑みかけてくれる今日の天使。

今日の天使『ドヤ顔おじさん』

どうしてもそれでなくてはならない。ネット検索で見つけたあの商品。他のメーカーのものではダメだ。成分からして話にならない。

思い当たる限りの近所の店を探した。しかしどこにも置いていない。だいたいどこの店も同じメーカーの同じ商品ばかりだ。物流が乗っ取られている

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今日の天使(2)

今日の天使(2)

単調な日々の中で、鬱々とした時間の波が襲ってくることがある。そんなとき、ふと微笑みかけてくれる今日の天使。

今日の天使『特売麦茶』

散歩にでも出れば、険悪な空気も解消できるだろう。そんな期待は裏切られ、二人は微妙な距離を歩いていた。

不機嫌なのは昨日眠れなかったせいだ。頭が冴えて眠れない。それは隣の部屋の騒音への怒りと、寝る前に飲んだ濃い緑茶のせいかもしれない。

「麦茶買ってくる」

空気

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今日の天使(1)

今日の天使(1)

単調な日々の中で、鬱々とした時間の波が襲ってくることがある。そんなとき、ふと微笑みかけてくれる今日の天使。

今日の天使『マンションのチラシ』

なんだか最近上手くいかない。鬱々とした気分。めんどくさいけど用事に出かけなきゃ。

出がけにポストをのぞく。いつもはうんざりするマンションのチラシ。だけど今日は違った。

いつかあの大きな公園の近くに住みたい。そう思っていた。だけどピッタリのマンションが

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悪夢のあとの目覚め

悪夢のあとの目覚め

カルカッタで見たのは、路肩に横たわる病人、寺院の片隅で捌かれたヤギの血だまり、灰色の空気。

駅で物乞い囲まれる。少年は上半身裸で、腕の欠損をアピールした。

投げやりにずっと生きていた。そんな気分を吹き飛ばすには充分すぎる旅の始まりだった。

料理、仏跡、土産物屋、サリーを試着させながら胸を掴んでくる店員、バスの外に延々続く雑木林、バラナシの迷路ですれ違った牛、動かない修行僧、飛行機から見た網目

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小説 #新しい船

小説 #新しい船

2036年。

日本のある都市で、ある実験が開始された。

それは新しい学習システムの実験だった。

松山健太。彼がそのシステムを主導するリーダー兼技術者だった。

彼の胸にはずっと叔父の言葉があった。

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2018年。8月31日の夜、健太の叔父はこう言った。

「明日、どうしても学校に行くことができなかったら、ここへおいで」

そしてこうも言った。

「健太が悪いんじゃない。この世界

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