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小説紹介📚武者小路実篤「友情」

武者小路実篤という小説家をご存知だろうか。今回は彼の代表作である「友情」を読んだので記録兼紹介をしようと思う。

あらすじより


脚本家野島と新進作家の大宮は厚い友情で結ばれている。野島はいとこの友人の杉子を熱愛し、大宮に助力を願うが、かねてから大宮に惹かれていた杉子は野島の愛を拒否しパリに去った大宮に愛の手紙を送る。野島は失恋の苦しみに耐え、仕事の上で、大宮と決闘しようと誓う。


ここにぐっと来た👍

👍ブロマンスにもとれる

この「友情」という作品、穿った見方をするとブロマンスにもとれるのである。
大宮と野島がかなり親しいのはあらすじからもわかるとおりである。
鎌倉に大宮の勧めで野島は向かう。そこまでは良い。毎日同じ屋根の下、常に一緒に飯を食い海に入り寝て議論して恋を語る……妄想が捗ってしまってどうも純粋な目で見れなかった。
無論、仲が良い二人が鎌倉で夏を謳歌しているシーンとして純粋に楽しめる。

👍武者小路実篤の信念が伺える

主人公の野島も友人の大宮も、常に生長と努力を信念に置いている。大宮が杉子の愛の手紙に対して愛を返し、悲恋に打ちひしがれ絶望の淵にいる友に対して「自分は君を尊敬している」「君は打ち砕かれるほど偉大になる人間として起き上がってくれることを信じている」と手紙を送る。
私は最初「何様のつもりだ」と思ったが、二人は違った。むしろ野島は「君からの荒療治は十分に効いた。ありがとう」と苦しみを抱えながら立ち上がった。
成長、成功、信念のために何度でも立ち上がる。武者小路作品を読んだのは初めてだが、野島を通して成功のためなら毒でも飲み干すその強さに感服した。

👍容姿や器量だけを愛している主人公、本当に自分を見てくれている大宮

「美しい容姿、あの賢さ、器量、友人等の中でいつでも中心にいる人望。すべてが自分の理想の妻像に合致している。あの女は私の妻になるに相応しい」
これが野島が杉子を好きになった理由である。
対して大宮は友人の野島が好きな女性であるからと同じく杉子に対して抱いていた恋心をひた隠しにしていた。
杉子には両者の心がちゃんと解っていた。大宮へ宛てた手紙にこう書いている。
「大宮様は私を置いてけぼりにして神聖視されています。一緒になったら私があまりにも普通な女であることにがっかりされるでしょう」

作品上で容姿だけを好きになることが侭ある私にはとても刺さった。容姿から入って中身を知っていく内に「なんか違う」となることがかなりある。あ、あるある…と流血しながら読んでいた。

👍打ちひしがれている友に贈ったもの

悲恋に打ちひしがれている野島に、大宮から送られたヴェートーベンのデスマスクの写しとミケランジェロ作「ピエタ」のポストカード。これを贈るセンスよ

どこに載せようか迷ったがちょうどいいのでここに載せておく。
ヴェートーベンのデスマスク。
ヴェートーベンは聴力を失ったあとも楽譜を書き続けたことは有名である。近い将来、杉子との将来を大宮によって失う野島。
デスマスクから、タロットカードの死神を連想した。死神は死と再生、破壊と再生を表す。

ミケランジェロ作、ピエタ。
息絶えた息子を抱く聖母マリア像。
杉子を天使として崇める大宮、女神として崇める野島。
ついぞ杉子からは振り向いて貰えなかったしなんなら生理的嫌悪感も抱かれていた野島。
皮肉か?と最初思ったが「君の復活を望む」とも「神の慈悲を」ともとれた。

純粋な友情を育むことは私には難しそうだ。

夏目漱石「それから」に強く感銘を受けた作品というのを解説でも読んだ。ぜひ漱石と併せて読んでみてほしい。
私は「こころ」を推す。

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