記事一覧
ケケケのトシロー 18
(本文約2500文字)
あれから三日が経つ。マンションの共用廊下から見える不帰橋界隈は黒い雲の傘の下で、町全体がグレーに見える。真由美の知人が何人かあの町にいるらしいが皆、身体の調子がおかしいそうだ。真由美は季節の変わり目だし天気も良くないせいだろうと電話で喋っていたけれど、俺は悪霊が動き出したのではないかと思っていた。TVの天気予報では局地的に雨雲が居座っていると、気象予報士が首を傾げながら
放課後ランプ 毎週ショートショートnote
暮れなずむ学舎を僕は見つめていた。
いずれ彼女は現れる。ユニフォームから制服に着替え、髪を纏め直し、友人達と笑顔で出てくる。
僕は彼女の前に進み出る。多分僕を見てはにかむだろう。
側の友人は僕と彼女を交互に見ながらも少しずつ後ずさりする。微笑みながら。
僕は彼女だけを見つめる。深呼吸をひとつ。そして言うんだ。
「僕を信じて」と。
そう願ったんだ。それだけを。
彼女が現れた。仲間と共に。
ケケケのトシロー 17
(本文約3500文字)
「先生、何があったんですか。ベストセラー作家が急に出家されてしまったのもビックリしましたけど、まさか先生がキダローはんと一緒に悪霊退治やなんて」
瀬戸内海先生は唇を一度かみしめたあと、堂の天井を見上げる。キダローは茶を飲み干し、茶わんをじっとっ見つめていた。沈黙が流れる。そこには苛烈な戦いであったろう過去の映像が蘇っているように感じた。
「私が『悪鬼の舞』を書き上げた
トラネキサム酸笑顔 毎週ショートショートnote
「貴様らのような者に我々が対等に接すると思うか!」
「女王様、せめて命だけはお助けを」
男女7人のクルーは宇宙で遭難し未知の惑星に不時着。彷徨い捕まった後、惑星の女王に命乞いをする。
「我々の言葉が理解できることは褒めてやる。しかし貴様らの身なりを見れば所詮下等な生物であることは歴然!せいぜい私の暇つぶしに何か芸でもやってみなさい」
彼らを取り囲むこの星の住人は皆、冷笑をあびせた。
「女王様。
皆さんお元気でしょうか?
ちょっと仕事が忙しくなり読みや投稿ができてません。
暫くは夜逃げ状態ですが、また、何食わぬ顔で作品をUPしますので「あのウ〇コジジィ、死んだか?」とかデマを流さないようお願いいたします。
なるべく早めに次の記事UPします。皆さんのも読みに行きますので。
オバケレインコート 毎週ショートショートnote (『ケケケのトシロー』スピンオフ作品)
人間世界に忍び込み恐怖支配を企む悪霊たちは、立ちはだかるケケケのキダローとその弟子トシローにどう戦いを挑むかを考えていた。
「やはりあのケープと錫杖の法力は手ごわい。我らの力では苦戦は必至。あれに対抗する悪魔の兵器が必要だ」
悪魔王は開発を命じた。できたのはケープに対抗してのオバケレインコートだった。
「なんか二番煎じ感が」
悪魔王は難色を示す。
「それはこのコートの悪霊力を確かめてから」
「ど
ケケケのトシロー 16
(本文約2740文字)
瀬戸内海小豆先生は言わずとしれた大作家である。数多くの文学賞を総なめにし、女流作家として日本文学界をリードしてきた大作家だ。三年前急に出家してその執筆ペースはぐんと落ちたが、今も出せばベストセラーは間違いない。そう言えば出家されてから新作は出ていないが……
「先生、私、先生のご本はたいてい読ませて頂いてます。一番好きなのはやっぱり『花に聞け』です」
「いや~ん嬉しい
ケケケのトシロー 15
(本文約2300文字)
キダローはカズを呼び戻したあと、またゴソゴソと長持の中を探り、ほぼ薄茶色に変色している『さらし』を一反取り出した。端部を掴んで部屋の隅からボウリングの球を投げるようにして放ると、それは玄関まで道を作るように伸びた。
「何を始めるんです?」俺の問いにキダローは答えず、持っていたさらしの端を錫杖に結びつけた。
「お前ら、真ん中へ来い」キダローが俺とカズを部屋の中央部に集め
深煎り入学式 毎週ショートショートnote (含む福島応援)
「いや~今年の入学式は素晴らしかったですな~校長」
「感動的だったねぇ~、君の司会進行も良かったよ。教頭」
「卒業生のビデオメッセージが良かったですよね~。特に今、世界で活躍する彼がメッセージをくれるとは思わなかったですし」
「おお、あの事件で「あー終わった」と思ったもんなあ~。けど、まさかのビデオに親も新入生も歓声があがってたよね」
「いや~卒業生に有名人がいると盛り上がりますよね~。けど、忘
ケケケのトシロー 14
(本文約2560文字)
「さあ、こっちへ来い」
キダローは俺とカズを例の物置の中へ手招きする。カズは初めて来るこの場所に興味津々の様子だ。
「靴は脱がんでええ」土足のまま框をあがったキダローは俺達にもそうするように促した。前回に来た時よりも荷物がかなり減っているように見える。
あの時、俺がケープで長持やらなんやらを部屋中にひっくり返してしまった時は足の踏み場もないほどだったが、今は綺麗に
命乞いする蜘蛛 毎週ショートショートnote
そんなところで花見をされたら皆に迷惑です。
アパートの敷地の桜が見事な花を咲かせた。道行く人はその姿にしばし表情を綻ばせる。住人である我々も楽しみにする季節だ。
しかし、しかしだ。
向かい側が更地であることをいいことに、花見を始める輩がいた。そこは私有地ですよ。公園とかでもありません。ダメですよ。
「ちょっとくらいいいでしょ。すぐ帰るから」
「ダメでしょ。地主さんの許可も……」
「ここウチ
ケケケのトシロー 13
(本文約2500文字)
「権藤会言うたら、大きな反社のとこやろ? カズ君もそこにおるんか?」
「いや、わしはササキの兄貴の使い走りですさかい。ササキの兄貴はサトーの兄貴の盃もうてましたけどね。わしは直接関係ないんですわ」
「ほな、君はヤーさんとちゃうねんな?」
「ちゃいます。わしはカタギです」
ほんまかいな。やってた事は反社そのものやがな。俺をボコボコにしたし、金、取られるし…… あ。
「カ
桜回線 ② 毎週ショートショートnote
「貴方がいてくださるなら、わたくしも必ず」
「私がその約束を違えることはない」
「わたくしも」
「もっと近くにそなたの香りで私を包んでおくれ」
「手を伸ばしわたくしを愛でてくださいませ」
「そなたを手折ってしまいたい」
「それはなりませぬ。わたくしは……」
恋しさに男は八重の花弁が付く一枝を勢い手にしてしまった。
「なぜ、手折ったの? なりませぬと申しました」
「そなたをずっと抱いていたいの
Moon River (NN様企画参加作品)
(本文約5400文字)
月面着陸船MR5は周回軌道の母船より離れ、着陸下降用エンジンをスタートしようとしていた。その時、着陸船に周回軌道上の宇宙ゴミが接触、MR5に重大なアクシデントが発生する。
コクピット内に響き渡るアラーム音。船体は回転をしながらその高度を下げつつあった。
「何があったの!? ジェームズ!? こちらでMR5の制御が不能になっているわ。 ジェームズ! お願い! 応答して
桜回線 毎週ショートショートnote
「てめえらの悪だくみ、この桜吹雪がすべてお見通しだぁ!」
「金さん!待ってました!」「とみお~!💛」
大衆演劇の人気者桜沢冨美男の十八番『遠山の金さん』の名台詞に演芸場は拍手喝采。片肌脱いだ冨美男さんに、マダムたちは飴色の声援で大いに沸く。
お芝居のあとは歌謡ショー。冨美男さんは鍛えられた身体のフォルムがよくわかるピチピチのレザースーツで登場、場内は最高潮だ。
「それではお聴き下さい。『桜回線