マガジンのカバー画像

短編小説

6
運営しているクリエイター

記事一覧

孤独と孤独独立独学会と孤独主義|短編小説

孤独と孤独独立独学会と孤独主義|短編小説

「諸君は支配をどう思っている?」
視界の外から声が聞こえた。それは認知の中で発話された声だった。

「私はあいつが生得的に嫌いなのだ。天敵と言ってもいい。とにかくあいつとは全くウマが合わなくてね」
”孤独”が僕に愚痴を言い始めた。
いつから僕たちはそんな仲になったのだろう?

「私と諸君は共存関係なのだよ」
と僕の心を読んで”孤独”は言った。
「支配ですか。僕もあまりその響きが好きではないと思いま

もっとみる
時間を売ることと資本主義│Notion AI小説

時間を売ることと資本主義│Notion AI小説

僕はメモを「Notion」で取っている。

Notionは一般的にはメモアプリだか、その性能は他のメモアプリと似て非なるほど群を抜いて凄い。メモの枠組みを超えて、まるで自分のデータベースを構築しているかのようにすら思える。(実際にデータベースも作れるだろう)

少し上品な言葉でまとめると、「Notion」はリッチメモアプリである。僕はこれを使って小説の下書きを書いたり、思いついた書き出しやタイトル

もっとみる
「エドワード・ホッパーとその憂鬱」│短編

「エドワード・ホッパーとその憂鬱」│短編

素敵な本を読むと自分でも文章が書きたくなる衝動に駆られることがある。
良い物語は焚き火のように僕の想像力を掻き立てるし、良い文章は泉のように僕の書くべき言葉を沸き立たせた。でもそれらは別々の場所で勝手に行われる事象であって、全くもって僕の中で整合の取れないそれぞれの活動として生まれては消えることが多々だった。

僕は今読んでいる本にきちんと栞を挟み、机の上にそっと置いた。そのあと、本の角度が机と平

もっとみる
オシャレは足元から│SF短編

オシャレは足元から│SF短編

「オシャレは足元から」という啓蒙をある雑誌で読んだ。なるほど、オシャレをするなら足元から彩らなければならないのかと納得した。
早速明日は足元からオシャレを始めようと決めて、床に就いた。

翌朝目覚めると、私は「足元」になっていた。

これはどういうことかと首を傾げようとしたが、傾げる首が無いのでただ呆然とした。夢かもしれないと思い、もう一度寝ることにした。
だがやはり、もう一度目覚めても「足元」で

もっとみる
「Wouldn't it be nice」(素敵かもしれないね)|ショートショート

「Wouldn't it be nice」(素敵かもしれないね)|ショートショート

"大人になれたら、きっと素敵かもしれないね。
そんなに長く待たなくても良いんだろうね。
それに一緒に生きていけたら素敵だろうね。
僕たちの生きている、そんな世界で。"

隣を歩く友人は、楽しそうにビーチボーイズの「Wouldn't it be nice」を陽気に口ずさんでいた。僕たちは冬空の下をコートのポケットに手を入れながら畦道を歩いていた。

僕も友人も、この曲が大好きだ。
とても素敵なラブソ

もっとみる
本のにおい | 短編小説

本のにおい | 短編小説

本にはある特有の匂いがある。それは本の本質と言ってもいい。

子供のころ、行きつけの本屋で働いていたであろう若い男がそう教えてくれた。
その若い男のことはよく知らなかったが、いつもその本屋にいたので働いていると思っていたが、よくよく思い出してみると、本屋だとは思えないほど身なりがキチンとしていた。紺色のウールジャケットに皺ひとつない白いシャツ、ベージュのチノパンツに黒のローファーを合わせていた。

もっとみる