Mr. 羊(シープ)

自分に何が書けるのか知りたい。 もしかしたら何も書けないかもしれないし、ものすごく書け…

Mr. 羊(シープ)

自分に何が書けるのか知りたい。 もしかしたら何も書けないかもしれないし、ものすごく書けるかもしれない。 自分の中にある”何か”を挑戦的に書いてみる。 趣味は映画と読書。 #Filmarks https://filmarks.com/users/gawgawTT

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  • 黄金をめぐる冒険(連載小説)

    SFと純文学の間のような小説を目指してます。

  • ラバーソウル(連載SF小説)

    想像上の物理現象を物語にしてみました。

最近の記事

黄金をめぐる冒険⑨|小説に挑む#9

黄金を巡る冒険①↓(読んでいない人はこちらから 目を開けると世界には既に闇がはびこっていた。 そう形容したくなるほど静かで、真っ暗な夜が僕を囲っていた。 実に奇妙な感覚だ。 僕らは食事を終え食器を綺麗に片付けた後、簡単に身支度を整えて家の外へと出た。玄関の扉を開けると、目の前にはいつもの無機質なコンクリートの廊下ではなく、ひらけた暗闇が広がっていた。 彼女は当然扉の外は暗闇ですよと言わんばかりに僕の顔を見て、では向かいましょう、と僕をその闇の中へと押し出した。 本当に押

    • 「ラバーソウル」6|SF短編小説に挑む#6

      エピローグ↓(読んでいない方はこちらから) 愛が力学化された世界とシュレディンガーの猫② ”多世界上映イベント”の帰路は人でごった返しになっていたが、その集まりは縦横に綺麗な列を作って整理整頓されていた。とても嫌な感じがある集まりだ。この社会は規則と規範に則り各々を尊重し、エゴというものを捨てた成れの果ての姿である。 高橋は人の流れを慎重に読み取り、はみ出さないようにしてそれに従い、家へと帰った。 21世紀後半の認知革命と技術革新により、人類はAI(人工知能)をあらゆる

      • 「ラバーソウル」5|SF短編小説に挑む#5

        エピローグ↓(読んでいない方はこちらから) 愛が力学化された世界とシュレディンガーの猫① 「お前に何が分かるというんだ?」 赤のような青色をした猫は、二股のしっぽを持つちんちくりんな猫だった。 猫は大きなあくびをしながら高橋を見ている。 高橋はため息をついて猫に言葉を返した。 「僕にだってわかることはあるさ」 「いいや、お前は何も知らないよ。猫より何も知らない」 赤のような青色をした猫はにやにやしてそう言った。 「そりゃ君より知らないことは多いだろうけど、これでも博士

        • 黄金をめぐる冒険⑧|小説に挑む#8

          黄金を巡る冒険①↓(読んでいない人はこちらから 玄関の扉を開けると、そこには彼女が立っていた。 「遅くなり申し訳ありません。あなた様をお迎えに上がりました」 と彼女は僕の目をまっすぐ見てきっぱりと言った。 彼女の目はまるで深海に永らく埋まっていた真珠のように、辛抱強さと純白さを兼ね備えた無垢な球体に見えた。 その目を見た瞬間、僕の視界には霞がかかり、穏やかな熱気が内から込み上げてきて、僕の目は柔らかな湿りが包まれた。僕はその湿りを零さないようにくっと歯を食いしばり、そして

        黄金をめぐる冒険⑨|小説に挑む#9

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        • 黄金をめぐる冒険(連載小説)
          9本
        • ラバーソウル(連載SF小説)
          6本

        記事

          「ラバーソウル」4|SF短編小説に挑む#4

          エピローグ↓(読んでいない方はこちらから) 愛すべき主人公と幸福な社会の隔たり③ 群衆のおおよそは広場内に集まりつつあった。 ”多世界上映イベント”の上映は間もなくであり、広場内の人々は期待と興奮により、「意子共振器」を大きく振るわせていた。 その中で一人立ち尽くしている男がいる。 高橋である。 彼の周りには言わずもがなある程度のコミュニティが形成されていた。そのコミュニティと彼との間には大きな溝があり、隔絶された彼という個人は、疎外感とともにコミュニティの閉鎖的断

          「ラバーソウル」4|SF短編小説に挑む#4

          「レザボアドッグス」に痺れる憧れる丨映画エッセイ#4

          27年間生きてきて、最高な映画を映画館で観れなかったを本当に残念に思ったことが多々あった。 クエンティン・タランティーノ監督の華々しい第一作目が上映されたのは、1992年のことである。(日本では1993年、もちろん僕は映画館に足を運べなかった) 題名は“RESERVOIR DOGS”。 何てカッコいいタイトルだろう。 タランティーノは、「俺が面白い映画を見せてやる」と世界に言わんばかりに面白い映画を作った。このときに生きていたら、きっと痺れただろう、憧れただろう。 そし

          「レザボアドッグス」に痺れる憧れる丨映画エッセイ#4

          黄金を巡る冒険⑦|小説に挑む#7

          黄金を巡る冒険①↓(読んでいない人はこちらから 間もなくして老人のためのバスが来た。 それは月が無い寂しい夜のことだった。 彼女が僕に電話を掛けてきてから、大体一ヶ月が経った。 今日は新月だった。彼女から電話が掛かってきたときも、今日と同じで衛星が暗闇に紛れていた。 その日、僕は珍しく夜に家を出た。冷えた暗い夜だった。 月光の寵愛が無い世界はどこか不気味な雰囲気があった。 遠い昔、新月は不吉の象徴とされていた。 電気が見つかっていない時代、闇夜を照らす光が無いことは、

          黄金を巡る冒険⑦|小説に挑む#7

          「Wouldn't it be nice」(素敵かもしれないね)|ショートショート#1

          "大人になれたら、きっと素敵かもしれないね。 そんなに長く待たなくても良いんだろうね。 それに一緒に生きていけたら素敵だろうね。 僕たちの生きている、そんな世界で。" 隣を歩く友人は、楽しそうにビーチボーイズの「Wouldn't it be nice」を陽気に口ずさんでいた。僕たちは冬空の下をコートのポケットに手を入れながら畦道を歩いていた。 僕も友人も、この曲が大好きだ。 とても素敵なラブソングだ。 "新しい一日の朝に僕たちは目を覚ませたら、 きっと素敵かもしれないね

          「Wouldn't it be nice」(素敵かもしれないね)|ショートショート#1

          映画の半券は取っておく派。|映画エッセイ#3

          僕は映画の半券を捨てずに取っておく派。 2023年もたくさんの映画を観た。 ふと思って2023年に集めた半券を広げたくなり、机に並べてみたら意外と少なかった。 あれ? もっと観た気がするが…。 そうだ、最近はSDGsの絡みもあり、チケットも電子化が進んでいたことを思い出した。IT化はとても便利だけど、半券が貰えないのは少し寂しい。 半券を広げてみると、2023年一発目に見た映画が「マッド・ゴッド (*1) 」だったことに気づく。全く、新年早々変な映画を観に行ったものだ

          映画の半券は取っておく派。|映画エッセイ#3

          「オッペンハイマー」がゴールデングローブ賞の作品賞に|映画エッセイ#2

          先日、第81回ゴールデングローブ賞が発表された。 おそらく宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が日本初の快挙である、アニメ映画賞を受賞のニュースを目にした人は多いだろう。 (ちなみに、昨年度はギレルモ・デル・トロのピノッキオが受賞!) 日本人としては誇らしいことであるが、やはり映画ファンとしては、クリストファー・ノーラン監督作の「オッペンハイマー」が作品賞含め、最多となる5冠を達成したことに興奮を隠せない。 「オッペンハイマー」の紹介 受賞:5冠  ゴールデングローブ賞

          「オッペンハイマー」がゴールデングローブ賞の作品賞に|映画エッセイ#2

          「ラバーソウル」3|SF短編小説に挑む#3

          エピローグ↓(読んでいない方はこちらから) 愛すべき主人公と幸福な社会の隔たり② 男の名は高橋、この世界では落ちこぼれである。 というのも、彼には感情が無いとされているからだ。 なぜなら、彼からは感情の意思から生まれる「意子」が観測できないからであり、それは社会にとって感情の損失を意味していた。 ある革命の話をしよう。 今から三十年前のことである。 新しい粒子である「意子」が発見された。それは電子や光子などと同じ、波と粒子の性質を持つ素粒子(量子)であった。 生き物

          「ラバーソウル」3|SF短編小説に挑む#3

          「ラバーソウル」2|SF短編小説に挑む#2

          エピローグ↓(読んでいない方はこちらから) 愛すべき主人公と幸福な社会の隔たり① 今ではこの世界で生きている人類のほとんどが、人生の幸せを可視化できる方法を知っていた。 この世界の人類は運が良く、かつ貪欲だった。 過去、人類は狡賢い生き物であり、私利のためなら何でもする生き物であった。その利己的な欲求に駆られた哀れな生き物を、それぞれの宇宙では”人間”と呼んでいた。(奇跡的に、この世界でも呼称は同じであった) 全宇宙にとって、我々はまさしく”人の間”として存在しているの

          「ラバーソウル」2|SF短編小説に挑む#2

          「ラバーソウル」|SF短編小説に挑む#1

          エピローグ 「世界は無数に存在する」 これはヒュー・エヴェレット3世(*1)が提唱した「多世界解釈」の理論に基づく考えである。この理論が発表されたのは1957年、今から約一世紀前だ。 少し昔の話をしよう。 今からずっと前のこと、ある一人の男をきっかけに「量子力学」という学問が生まれた。それは実に偉大な発見だだった。 「量子力学」とは、原子や素粒子などが存在する”ミクロ”な世界の物理現象を記述する学問である。平たく言えば、世界を最小単位に分割して、その動きを研究しようと

          「ラバーソウル」|SF短編小説に挑む#1

          黄金を巡る冒険⑥|小説に挑む#6

          黄金を巡る冒険①↓(読んでいない人はこちらから) 次の日も、老人はいつも通りバス停に座っていた。 老人から言わせれば、バスを待っている、と言う方が正しいかもしれない。 バス停には、老人が座っている青いベンチが一台と、「BUS STOP」と書かれた看板が一つ立っているだけだった。おそらく、昔は時刻表があったのだろうが、今は廃線によって撤去されている。 車道と歩道の間にある、幅2.5メトール、奥行き1.5メートルのとても小さなバス停。その簡素な外観は、より一層老人を世界から孤

          黄金を巡る冒険⑥|小説に挑む#6

          PERFECT DAYS|映画エッセイ#1

          2023年、最後の映画はこの映画と決めていた。 「PERFECT DAYS」 監督:ヴィム・ヴェンダース (Wim Wenders) 主演:役所 広司 受賞:第76回カンヌ国際映画祭 男優賞 とても素晴らしい映画だった。 役所さんとヴェンダースが生み出す美しいセッション。 小さい子供から社会人まで、多くの人に本当に見て欲しい。 そうだ、小学校では「道徳」の授業に、 中・高学校は「社会」の授業に、 大学では必須科目として「人文」の授業に この映画を取り入れればいい。そうす

          PERFECT DAYS|映画エッセイ#1

          黄金を巡る冒険⑤|小説に挑む#5

          黄金を巡る冒険①↓(読んでいない人はこちらから) 僕は規則正しい生活の中で、一番散歩を好んだ。 昼食後の満腹と気怠さが占める昼下がりの最も快活な活動、それが今の僕にとっての”散歩”だ。午後の陽光が鬱屈な気持ちを浄化させ、街の喧騒が活発な精神を情火させる。 まるで長い間使われずしばらく固化した蝋燭に火を灯し、蝋が溶けていくみたいに。 ただ舗装された歩道や公園の小道を歩くだけの行為ではなく、僕にとっては外の世界と繋がる道を歩く行為でもあった。 だから散歩は欠かせなかった。 規

          黄金を巡る冒険⑤|小説に挑む#5