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江戸の街は富士山と共にあった

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 江戸の街は富士と共にあった。富士山の景観をどう生活に取り込むかを意識して街が作られていたと思う。

 徳川家康は富士山が好きだったという。「一富士、二鷹、三茄子」とは、家康の好きなものを並べたのだ、とも言う。家康は生涯の3分の1を富士山がよく見える駿府、今の静岡市で暮らしている。居城だった駿府城と富士山本宮浅間大社と富士山頂は、実は一直線上にある。これは家康がそう仕組んだのだ。

 江戸を建設した家康が、富士山の景観にこだわったのは間違いない。江戸の街の中心、現在の日本橋三越と三井本館の間、駿河町の通りの向こうには、江戸城越しに富士山が望めた。歌川広重の浮世絵などでも有名だ。東海道と直行する日本橋の通りは全て富士山を向いており、必ず富士山が見えた。

広重 名所江戸百景「駿河町」

 日本橋だけではない。江戸の他の場所でも富士山への見通しが考えられて街づくりが行われたと思う。それはこのマガジンでおいおい紹介していきたい。

 江戸と富士山がセットであることは、江戸を描いた鳥瞰図を見ればわかる。必ず江戸から富士山の方向を向いて描いて、富士山を聳えさせている。こうした美意識が「富嶽三十六景」などが人気となった前提にある。

 また、江戸の西半分は台地と谷が複雑に入り組んだ地形で坂が実に多い。この坂が富士山の方向を向くと「富士見坂」となる。かつては10数か所あったが、今はビル建設などで見える坂は一つもない。

 そうした富士山を意識した街づくりが、江戸時代も後期になると信仰と行楽が結びついた富士山信仰となって盛り上がる。そのシンボルが富士塚だ。1780年に高田の馬場に築かれたものが最古だが、爆発的人気を呼んで、江戸や江戸周辺に何十か所と築かれた。

品川神社の富士塚

 富士塚とは、富士山にはなかなか登れないことから、富士山のミニチュアを近所に築いてそこに登ろう、と言うもので、大きいものは高さ10数メートルある。富士山から運んだ溶岩などを配して富士山らしくした。そしてその頂上からはだいたい富士山が望めた。これも今やよく見える富士塚はほとんどない。

 そして近年の高層建築ラッシュで、ますます富士山が東京人の生活から遠くなっている。まったく残念なことだ。私は首都圏で育ったが、小学校から高校まで、晴れた日には通学経路で必ず富士山が見えた。富士山が生活と共にあった。富士山が見える家に住むと実に嬉しかった。「今日は見えるかな」と毎朝確認した。

 「景観は金にならない」と言う人がいる。そうかもしれない。しかし金ばかりに価値を置く世の中が幸せかというと、この現代日本を見ればその答えはよくわかる。現代東京は富士山の景観を蔑ろにしすぎている。朝、富士山を見て感じるちょっとした喜びは、お金には代え難い。

 そこで今現在、富士山が地上から見える場所を紹介していこうと思う。そしてぜひそこを訪ねてほしい。富士山が見えたら、必ず「おおおー」と感動すると思う。その結果一人でも多くの人に、富士山景観の大切さを知ってもらいたい。

田安門前からの富士山

 東京で富士山の景観が蔑ろにされていると書いたが、高層ビルなどに登れば、富士山がよく見える場所はかえって増えているかもしれない。しかしそれはそのビルに住んでいる人、勤めている人など限られた人の物でしかない。また展望台などもお金がかかったりもするし、見えて当然なのだからありがたみがない。

 ここでは地上、「boots on the ground」を原則に、誰もが無料で歩いて行ける場所を紹介したい。歩道橋や川の上の橋も良しとする。場合によっては公開空地の建築物上なども含める場合もある。
 また何をもって「見える」とするのかという基準だが、いわゆる「お鉢」、富士山山上の火口の周囲が一部でも見えれば「見えた」ということにしたい。お鉢の部分が端から端まで見えなくても良しとする。ただ火口までの斜面が見えるだけでは、「見えない」と判定する。

 このびっくり富士見ポイントのリサーチにあたっては、その多くが2021年に亡くなられた田代博さんの業績に依拠している。書籍『「富士見」の謎』や、ブログ「路上富士」を基礎に、このマガジンはできています。ぜひそちらもご参照ください。

「東京、びっくり富士見ポイント」記事一覧

1)千代田区の地面から富士山は見えるか!(1)
2)
千代田区の地面から富士山は見えるか!(2)
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13)西郷さんが見たかも知れなかった富士
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27)
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28)吸い込まれそうな坂の上に富士
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32)富士に登って富士を見る
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37)
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多摩川の作る崖上からの富士
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梅の隙間から覗く富士
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豪邸街、坂の彼方の富士
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