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輪廻の風 第1章

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2021年7月の記事一覧

輪廻の風 (48)

レガーロの登場で、屋上庭園内の空気は一気に張りつめた。

一同、慌てて頭を深々と下げた。
その様子を見ていたエンディも、空気を読んで一応頭を下げた。
カインだけは唯一、微動だにせず足を組んで座っていた。

「俺もいるよー!」
レガーロの後ろから、モスキーノが笑顔でひょっこりとあらわれた。

「招かれざる客だったか?それにしても、賊軍にこうも簡単に侵入されるとは情けない。なんだこの有様は?」
広大な

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輪廻の風 (47)

翌朝、時刻は午前7時を回った。
約束の時間まで、残り2時間をきっている。

エンディ達はロゼの居城の屋上庭園で、観葉植物に囲まれながら優雅に朝食のサンドイッチを食べていた。

「まだまだあるから、どんどん食べてね!」
ラーミアは相変わらず気丈に振る舞っていた。

「静かだな…。」
エンディはサンドイッチを頬張り、屋上からアズバールが発生させた広大な森林を眺めながら言った。

「ね、静かすぎる。」ラ

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輪廻の風 (46)

「うわあ!なんだこれ!?」
エンディは、突如樹海と化した城下町の様子を窓から覗き見ると、驚いて飲んでいたお茶をこぼしてしまった。

「ちょっと何よこれ!?」
「どうなってるの…?」
ジェシカとラーミアは両手で口を覆いあんぐりとしている。

「間違いねえ、アズバールの仕業だな。」
カインはこんな状況でも、いつも通り冷静だった。

「うおっ、なんだよこれ!すげえぇ!!」
クマシスは目をキラキラと輝かせ

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輪廻の風 (45)

「ダルマイン、旧ドアル軍はあんなイカつい戦闘機を保有していたのか?」ロゼが聞いた。

「はい…あれは旧ドアル軍の生き残りの科学者たちが駆使して作り上げた殺戮兵器"インドラ"です…!凄まじい破壊力を秘めた光線を放つと聞いたことが…。」ダルマインは血の気の引いた青白い顔で答えた。

「光線?そんなの撃たれたら大変だ…!」
エンディは焦った様子で言った。

「例えそんな光線を放てたとしても、ラーミアがい

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輪廻の風 (44)

ラベスタはカッとなり、医者の男に剣を振り下ろそうとした。

すると、モスキーノが片手で剣を掴んで制止した。

医者の男は驚き、腰を抜かしてしまっている。

「せっかく俺が苦労して見つけてきた人をいきなり殺そうとしないでよ?」
モスキーノは苦笑いを浮かべながら言った。

ラベスタは驚いた。
側から見れば、モスキーノはラベスタが振り下ろした剣に軽く手を添えているようにしか見えないだろう。
しかし、ラベ

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輪廻の風 (43)

鬼のような形相で、全身から殺気を放つポナパルトを見たバレラルクの戦士達は、命の危険を感じて恐れ慄き、逃げ出した。

「やべえ…ポナパルトさんが暴れるぞ!」
「逃げろぉ!殺されるぞ!」

王宮の高い塀をこえて逃げ出すものもいた。しかし多くは正門をこじ開けて逃げ出そうとしていた。
同じように怖気付いてしまったノヴァファミリーの戦闘員たちも、どさくさに紛れて逃げ出そうとしていた。

すると、正門を開けて

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輪廻の風 (42)

ロゼの居城にも弾丸が何発か撃ち込まれた。

ジェシカとモエーネは外に出て応戦していた。

ジェシカは短剣を、モエーネはムチを使ってマフィア達を一蹴した。

「足引っ張らないでよね?」
「はあ!?こっちのセリフなんだけど!」
こんな事態でも2人は口喧嘩をしている。

中ではサイゾーとエスタが剣を抜き、ロゼを囲っていた。

「おいおい、俺じゃなくてラーミアとアルファを守れよ。俺の強さはお前らも知ってん

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輪廻の風 (41)

時刻は午後18時をまわり、外は薄暗くなっていた。

城下町とパニス町付近の住人達は皆、軍の演習場にある大きな施設に避難していた。
そのため町は静かだった。

エンディ、カイン、ダルマインの3人は王宮の正門前に立っている。

王宮の周辺とその敷地内には、軍隊と保安隊、近衛騎士団の兵士たちが身を潜めて見張っている。

ロゼの居城の前では、サイゾーとクマシスが警備をしていた。

王宮周辺は異様な静けさが

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輪廻の風 (40)

エンディとカインは、王宮の敷地内にあるロゼの居城に来ていた。

居城の中は宝石が埋め込まれた装飾品が展示物のように並べられていて、とてもギラギラしていた。いかにも派手好きのロゼが住んでいそうな居城だった。

天井にはおなじみのシャンデリア。エンディは目をチカチカさせながら部屋をキョロキョロしていた。

ジェシカとラーミア、ダルマインも来ていた。

エンディは、さっきノヴァ達に会ってきたことを、ロゼ

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輪廻の風 (39)

「今から18年前、バレラルクはムルア大陸のほとんどの国を制圧していた。残るはドアル王国とその同盟国だったプロント王国のみ。大陸統一を大義名分にバレラルクの猛攻が始まり、戦争は激化していた。そんな最悪の時代に、俺とラベスタは産まれたんだ。」

同盟とは名ばかりで、プロント王国は実質、ドアル王国の傀儡政権だったと言う。

戦時中、プロント王国の兵隊は陽動に使われたり、敵陣に命を投げ捨てて特攻させられた

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輪廻の風 (38)

翌朝、早起きをしたエンディは考え事をしながら散歩していた。

自分は何の為に戦おうとしているのか、そして自分には何が出来るのか、自問自答を繰り返してモヤモヤしている様子だった。

すると、前方からダルマインが鼻歌を歌いながら歩いてきた。

「おー!エンディじゃねえか!」

「なんだよ。」エンディは冷たく言った。

「おいおい、俺はもう味方なんだぜ?そんなツンツンすんなよ。」

「お前がラーミアを誘

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輪廻の風 (37)

「ぎゃあああああっ!痛えよぉ〜!!」
ダルマインは悲鳴をあげてのたうち回っていた。

エンディとロゼは激痛に耐え、涙を流しながらノヴァ達を追っていた。

「ちっ、催涙スプレーとはナメた真似してくれるぜ。それにしてもあのチビ、イカついスピードだったな。全く反応出来なかった…。」

「ロゼ王子、俺あのノヴァって人悪い奴じゃないと思う…。戦うよりまず、お互い頭を冷やして話し合ってみませんか…?」
エンデ

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輪廻の風 (36)

「ダルマイン、このお方が我らがボス、ノヴァさんだ。」ランプを持った男が言った。

するとダルマインは目を丸くしてポカーンとした後、大笑いをした。

「ギャーハッハッハッ!このチビがボスだあ!?おめえらこんなガキの下についてんのか??冗談きついぜ!?」

ダルマインを囲んでいるマフィア達はピリピリし始めた。

「このガキ殺してオレ様がノヴァファミリーのボスになってやるぜオラァ!!」

ダルマインはそ

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輪廻の風 (35)

パニス町のレストラン、プラチナグリルに将来有望なコックが現れた。

彗星の如くあらわれたそのコックは、新人とは思えないほど手際が良く、華麗な包丁さばきで誰よりも早く野菜をカットし、器用にフライパンを使いこなしていた。

一度言われたことはしっかり覚えるため、調理をやらせても味付けは完璧だった。

「カイン君…君は素晴らしい…!!」
プラチナグリルのシェフは感動していた。
他のコック達も目を見張って

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