輪廻の風 (38)


翌朝、早起きをしたエンディは考え事をしながら散歩していた。

自分は何の為に戦おうとしているのか、そして自分には何が出来るのか、自問自答を繰り返してモヤモヤしている様子だった。

すると、前方からダルマインが鼻歌を歌いながら歩いてきた。

「おー!エンディじゃねえか!」

「なんだよ。」エンディは冷たく言った。

「おいおい、俺はもう味方なんだぜ?そんなツンツンすんなよ。」

「お前がラーミアを誘拐したことも、ミルドニアで囚人たちを見殺しにしたことも俺はまだ許してないからな。」

「そんなこと言わねえぜ仲良くしようぜ?それより聞いてくれよ、昨日あいつらがあの後どこに隠れたか分かったぜ?」

ダルマインがそう言うと、エンディはびっくりして大きなリアクションをした。

「え!?本当に!?」

「おう。あの後、オレは裏口からこっそりレストランを出たんだ。そしたらマフィアどもがマンホール開けて中に入っていくのを見かけてよ。今からロゼ王子に報告に行くんだ。」

ダルマインの話を聞いたエンディは、パニス町に向かって走り出した。

「おーい!どこ行くんだお前!?これはオレ様の手柄だから横取りすんなよ??」
ダルマインは走り去るエンディの後ろ姿を見て叫んだ。

ノヴァと会って話がしたい。
ノヴァは悪い人間じゃなさそうだから、話し合えば分かり合えるはずだ。
そんな淡い期待を胸に抱き、エンディは再びプラチナグリルの前に来た。

ダルマインの言った通り、店の裏口のすぐ近くにマンホールが見えた。

「よし、これだな!」
エンディはそう言って、しゃがんでマンホールを開けようとした。

「何してんだお前?」
びっくりして後ろを振り向くと、カインがいた。

「カイン!お前なんでここにいるんだ?」

「朝っぱらからパニス町に向かって走ってる間抜けヅラを見かけたんでな、後をつけてきた。」カインは鼻で笑った後に言った。

「後をつけてきたって…お前が先に着いてるじゃん?」エンディは不思議そうな顔をしていた。

「その中にノヴァファミリーがいるんだってな。さっきダルマインとの会話も聞こえたぜ?」カインはマンホールを凝視しながら言った。

「うん。俺ちょっと会いに行こうと思う。カインも来てくれるのか?」

「別にいいぜ、どうせ暇だったしな。」
カインはそう言うと、マンホールの蓋を開けた。

2人は中に入って、地下通路を歩き始めた。

「暗いな〜、全然前が見えねえよ。」

「歪な通路だな。きっとあいつらがこっそり作ったんだろうな。」

すると、遠くに明るい部屋が見えた。
何やら複数の笑い声が聞こえる。
エンディとカインは用心深くその部屋に近づいていった。

すると、ノヴァファミリーのメンバーと思われる男達が、酒盛りをしていた。

中へ入ろうとすると、後ろから何者かが斬りかかってきた。

「うわあっ!」
エンディは間一髪でよけた。
カインはひょうひょうとしている。

そして2人は避けた反動でマフィア達のいる部屋に入ってしまった。

「なんだテメエら!!」「どこから入ってきやがった!」酔っ払って気性の荒くなったマフィア達の怒号が飛び交った。

すると、エンディとカインに続いて、刀を持った少年が部屋に入ってきた。
2人に斬りかかってきたのは、どうやらこの少年のようだ。

「あ、ラベスタさん!この2人はお知り合いですか?」マフィアの1人が少年に向かって、かしこまった様子で言った。

「知らない。地下通路で不審な動きをしていたから斬ろうと思ったけど、避けられた。」

「何だお前?いきなり何すんだよ!」
エンディが怒った口調で言った。

「ラベスタさんに向かってお前とは何事だ!このお方はノヴァファミリーのナンバー2だぞぉ?」マフィアの1人がそう言うと、エンディは思わずびっくりした。

「お前たちうるさい。あっち行ってて。」
ラベスタが苛立った様子でそう言うと、部下達は焦った様子で、飲みかけの酒を持ってそそくさと別の部屋へと移動して行った。

ラベスタはミルクティー色の髪をした三白眼の少年で、まるで鉄仮面をかぶっているように無表情だった。

「誰?」ラベスタがエンディとカインをジーッと見ながら言った。

「俺はエンディ、横にいるのはカイン。俺たちはロゼ王子の下について昨日からノヴァファミリーを探ってたんだ。」

エンディが喋り終えると、部屋にノヴァが入ってきた。

「あれ?お前昨日ロゼの隣にいたガキじゃねえか。何でここにいるんだ?」

「あ、ノヴァ。今日はお前と話がしたくて来たんだ…。お前らの目的は何なんだ?昨日言ってた復讐ってどう言う意味なんだ?」
エンディがそう言うと、ノヴァはとてつもない速度でエンディに詰め寄り、殴りかかった。
しかし、カインが咄嗟に2人の間に入り、ノヴァの攻撃を左腕でガードした。

「へえ、やるじゃん金髪。」
ノヴァは感心していた。

ノヴァの攻撃を防いだカインの左腕は、少し赤く腫れていたが、カインは涼しい顔をしていた。

「エンディとカイン、お前ら2人はどこにも属さないで、あくまでロゼ個人の下について動いてるってわけか?」
ノヴァが尋ねると、エンディはコクリと頷いた。

「俺、ディルゼンには最近来たばかりだから事情はよく分からないけど…お前らが争いを起こそうとしてるなら止めようと思ってる。だから少し話し合わないか?」
エンディはノヴァに優しく問いかけた。

「話し合い?甘えこと言ってんなよ。」
「ノヴァの言う通り。事情を知らないよそものが出しゃばってこないでよ。」
ノヴァとラベスタは話し合いに応じる気がなさそうだ。

「もしお前らがまたラーミアを拐ったり、カインやロゼ王子、ジェシカを傷つけるようなことをしたら俺は絶対に許さない。」
エンディは険しい表情を浮かべて言った。

「お前ら出身はどこだ?」ノヴァがエンディとカインに聞いた。

「記憶喪失だから分からない。」
「俺は最近まで、お前らが密猟でよく来てた無人島で暮らしてた。」

「2人とも複雑そうだね。」ラベスタが言った。

「俺とラベスタはな、10年前にバレラルクに滅ぼされたプロント王国出身なんだよ。」
ノヴァが言った。

「滅ぼされたって、大陸戦争で?」
エンディがそう言うと、ノヴァはどこか悲しげな表情をしながら頷いた。

「それでバレラルクに復讐をしようってわけか。お前ら日陰者の裏社会の人間の"力"は所詮、"弱い世界"でしか通用しない。権力に立ち向かうなんて自殺行為だぜ?」
カインはノヴァとラベスタに対して嘲笑うように言った。

「お前殺すよ?」ラベスタはカインに刀を向けて威嚇した。

「やめろラベスタ。」
ノヴァがそう言うと、ラベスタは大人しく引き下がった。

「無謀なのは百も承知だ。正直、3将帥には勝てる自信もないしな。だけどあいつらだけは絶対に許せねえんだよ。あいつらに一泡吹かせることが出来るなら、俺たちは死んでもいいと思ってる。」
ノヴァは鋭い眼差しで言った。

「良かったら聞かせてくれないか?大陸戦争で何があったのか…。」
エンディがそう言うと、ノヴァとラベスタはゆっくりと話し始めた。







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