颯太
エンディは飛び起きた。 あまりにも奇妙な夢を見たからだ。 目が覚めると、自分の脂汗の量と息の荒さに驚いた。 宿泊先の小さなホテルを後にし、街に出る。 ボロくて殺風景な部屋だったが、久しぶりに雨風を凌げて屋根のある場所で一夜を過ごせたことにありがたみを感じながら歩き出した。 天気が良く、風が気持ちいい。 昼過ぎまで寝ていたのをもったいなく感じた。 ここは大国、バレラルク王国の端っこにある、自然が豊かで農業と漁業が盛んな小さな田舎町だ。 この少年は散歩が大好きだ。
本日をもちまして、輪廻の風は完結致しました。 今日までの長い間、僕のような素人の書いた物語をご愛読してくださった皆様に、心より御礼申し上げます。 note通じて繋がることのできた全ての皆様に、深く感謝しております。 身近な人には恥ずかしくて打ち明けた事がありませんが、僕は幼い頃から空想をするのが好きでした。 僕は幼少期より自分の頭の中で物語を空想し、それは20歳を過ぎても密かに続けておりました。 その空想によって誕生した物語が、輪廻の風です。 20代前半になった頃
魔族との決戦が集結し、12年の歳月が経過していた。 崩壊した王都ディルゼンでは、あの日を境に連日の様に大規模な復興作業が行われていた。 戦士達や一般市民のみならず、国王のロゼも自ら現場に赴き、人々は汗水流して作業に励んでいた。 全ては、かつて誇った栄華と美しい景観を取り戻すために。 その甲斐あってか、当時の面影を彷彿とさせる様な王都の景色は徐々にその姿を取り戻していき、12年経った今では、すっかり大都市と謳われるに相応しい街へと戻っていた。 まだまだ不完全ではあるが
「本当…貴方って勝手な人。」 遺骨すら残さずこの世を去った最愛の夫カインに対し、アマレットは茫然自失となり、消え入るような声で言った。 エンディは、やはり終戦後すぐに宴を開こうと提案した自身の判断は間違っていなかったと、改めて痛感した。 カインは、自身の命に終わりが訪れるカウントダウンを感じ取り、そのタイムリミットの極限まで家族との時間を楽しめたからだ。 「カイン…。」 「あの野郎…!」 突然居なくなってしまったカインに対し、ラベスタとノヴァはやるせない気持ちになっ
「見事。だが余が死んでも…本当の意味でこの世から闇が消えることはないぞ。光ある処に闇在り…光が大きければ大きいほどに闇もまた大きくなる。陽の当たらぬ場所でしか芽吹くことの出来ぬ植物もある。深海でしか棲息できぬ生物もいる。世界は表裏一体でなければ、均衡を保てず崩壊する様に出来ているのだ。暴力という絶対的な抑止力を失った世界は混沌と化すだろう。首輪の外れた悪党達が蔓延り歯止めの効かなくなった世界を、これから生きることができるのか?」 ヴェルヴァルト大王は、自身の肉体が消滅の一途
ヴェルヴァルト大王は不敵な笑みを浮かべながら、自身の前に立ちはだかるエンディとカインを眺めていた。 それに対してエンディとイヴァンカは、険しい表情を浮かべている。 両者は、5秒間向かい合ったまま何も言葉を発さず、その間指先一つ動かさなかった。 エンディとって、この僅か5秒という時間はとてつもなく長く感じられた。 辺りはシーンと不気味な静寂に包まれていた。 遂に、長きに渡る戦いに終焉の時が訪れようとしていた。 5秒が経過すると、ヴェルヴァルト大王は野太い声で叫びなが
カインが巻き起こした大爆発は、エンディ顔負けの凄まじい爆風を放った。 粉塵が晴れ、エンディ達は目を凝らして爆心地に視線を向けた。 しかし、そこにはカインとヴェルヴァルト大王の姿は確認できなかった。 「カイン…お前…。」 「あの野郎…自爆しやがったのか…?」 エンディとノヴァはカインの身を案じ、声を震わせながら言った。 アマレットは真っ青な顔で茫然自失となり、言葉を失っていた。 すると、力尽き仰向けになっているエンディの真横に、正体不明の物体が落下してきた。 「う
最終決戦地である魔界城最上階は異様な静けさに包まれていた。 泰然自若に立ち尽くすヴェルヴァルト大王。 それを真正面から迎え討とうと構えるエンディとカイン。 別の角度には、剣を抜き不遜な面持ちで構えるイヴァンカ。 固唾を飲んで様子を伺っているノヴァ。 長い戦いが遂に終わる。 各々そんな気配を本能で感じ取り、程よい緊張感に包まれていた。 エンディの身体からは、ヴェルヴァルト大王に対して威嚇をする様にヒューヒューと風が放たれていた。 「穏やかな風だな…。余が育った冥界
人体のみぞおちから下が欠損したアベルは、いまにも息絶えそうな苦しそうな顔で倒れていた。 カインは大慌てでアベルの元へと走った。 「アベル…アベル!お前…どうして…おいラーミア!早く来い!アベルを治してくれ…頼む!」 カインは冷静さを欠き、取り乱していた。 それこそ、誰の目から見ても分かる程に。 名指しで呼びつけられたラーミアはビクッとしてしまった。 そして、カインに言われるがままアベルの元へと急いで駆け寄った。 身体の大部分を失ったアベルの変わり果てた姿を見たラーミ
「うおおおーーー!!」 エンディは金色の風を纏った拳で、ヴェルヴァルト大王の腹部を力一杯殴った。 ダイヤモンドを遥かに凌駕する硬度を誇るヴェルヴァルト大王の皮膚にも、その攻撃は効いていた。 ヴェルヴァルト大王は仕返しをするように、闇の力を纏った拳でエンディに殴りかかった。 しかし、エンディは華麗な身のこなしで悠々とそれを躱し、2撃目の蹴り技を炸裂させた。 金色の風を纏った脚で顎を蹴り上げられたヴェルヴァルト大王は、一瞬脳がグラッと揺れた。 風の力と闇の力で宙に浮遊
500年前の記憶が蘇ったエンディとラーミアは、しばらく互いを見つめ合ったまま微動だにしなかった。 しかし、遺伝子に深く刻まれ呼び起こされたその記憶は、わずか数秒ほど経過すると着実にぼんやりと薄れ始めていた。 それはまるで、鮮明な夢を見た筈なのに、目が覚め朝を迎えると、一体自分がどんな夢を見ていたのかまるっきり思い出せなくなる現象と似ていた。 それでも、自分の運命を知った2人は、到底言葉では言い表せないような感慨に浸っていた。 「私…夢を見ているみたい。」 「勝手に夢
死の淵に立たされたルミエルの人体に、人類史上かつてない異常が生じた。 なんと、生まれつき目の見えないルミエルに、視力が宿ったのだ。 しかしそれは人智を超えた奇跡などではなく、人為的なものだった。 ヴェルヴァルト大王は封印される直前に、ルミエルの人体に闇の力を与えたのだ。 その力は、魔族が扱う特有の能力ではなく、また不老の肉体でもなく、視神経を共有するためのものだった。 ヴェルヴァルト大王は、遠い未来で自分達の封印が解かれた際、その世界で生きる天生士達の動向を探るため
滅亡した神国ナカタムの上空に、どこからともなくヴェルヴァルト大王が降臨した。 それはまるで、なんの前兆もなく自然発生した未曾有の大災害が形を成しているようだった。 体長30メートルを超える巨体の周囲には、黒い蒸気のようなものが纏わりついていた。 突如浮かび上がった巨大で悍ましいシルエットに、トルナドは震撼した。 この時の衝撃はトルナドの脳裏に深く焼き刻まれ、500年後の自身の転生者であるエンディの遺伝子にまで大きな影響をもたらすことになった。 遂にこの時が来てしまっ
ルミエルの放つ聖なる光が治癒以外に退魔の力を宿している事。 天生士屈指の暴れ馬のトルナドが風の力を有している事。 また、この2人が行動を共にしていること。 ルキフェル閣下は、これらの事をヴェルヴァルト大王に報告した。 ヴェルヴァルト大王は、冥花軍及び現段階で1000体ほどいる魔族の戦闘員全名に、トルナドとルミエルの抹殺指令を下した。 ルキフェル閣下を筆頭に、魔族達は血眼になって2人の捜索を始めた。 時刻は夜明け前。 太陽が昇る前に潜伏先を変えようと試みたトルナドとル
トルナドの傷口は、ルミエルの懸命な治療により完治した。 しかし、失血した分の血液が補給されたわけではないため、まだまだ安静にしている必要があった。 それでもトルナドは、ルミエルの前では虚勢を張って強がっていた。 「ワッハッハー!全快だぜ!まさかお前が天生士だったとは思わなかったぜ!」 トルナドは天生士になっても問題ばかり起こしていたため、神牢に投獄されていることが多く、ルキフェル閣下以外の天生士とは面識がなかったのだ。 トルナドの空元気をすぐさま見抜いたルミエルは、ト
「ワッハッハー!聞いたぜ?ルキフェル、お前よ…魔族になったんだってなぁ!神国ナカタム随一の剣豪と謳われたお前が魔族とはなぁ、笑っちまうぜ!」 トルナドはルキフェル閣下を挑発したが、ルキフェル閣下は毅然とした態度で一切挑発に乗らなかった。 ルキフェル閣下は元々、天生士のリーダーの様な役割を担っていた。 しかし、その危険な思想と歪んだ人格故にユラノスからは一切信用されていなかった。 だからユラノスは敢えて、神国ナカタムで最も危険な人物と囁かれていたこの男に天生士の称号を与え