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輪廻の風 第2章

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輪廻の風 2-48

イヴァンカが封印されて、数十分が経過した。

ラーミアは献身的に、皆の治療にあたっていた。

「ラーミア、大丈夫か?」
封印術で多量の力を使い疲弊しきっていたラーミアを、エンディは気遣っていた。

「平気よ、ありがとう。」
相当疲れているはずなのに、ラーミアは元気を装っていた。

その姿は、この上なく健気だった。

そんなラーミアのもとに、アマレットがゆっくり近づいて来た。

「ラーミア…ありがと

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輪廻の風 2-47

「イヴァンカ…お前はどうしてそこまでして力を欲する?その先で何を見ようとしているんだ?」エンディが尋ねた。

「私はね、不変の原理になりたいんだ。未来永劫この世界に君臨する絶対的な存在…この世の理にね。」
迷わずそう言い放ったイヴァンカに、エンディは憐れみの目を向けた。

「この世界に存在する"人の上に立つ者"の過半数は紛い物だ。彼らは自身を実力以上に魅せる術と話術に長け、それを駆使して大衆を翻弄

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輪廻の風 2-46

「イヴァンカ、お前は俺の大切なものを傷つけすぎた。その代償、お前の命で償ってもらうからな。」
エンディは怒りで我を忘れ、再び柄にもなくこの様なことを口走った。

そして、突如エンディの周囲を吹き荒れていた強烈な風がピタリと止んだ。

辺りは無風状態になった。

「虚勢を張るのも程々にした方がいい。どうやら君は先の戦いで、自らの体を酷使し過ぎたようだね。もう風の力を発することすらままならない君が、私

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輪廻の風 2-45

「実に素晴らしいものを見せて貰ったよ。かけがえのない絆を見つけることが出来て何よりだね。」
イヴァンカはそう言って、エンディ達に身も凍りつくような凄まじい殺気を放った。

エンディ達は一瞬にして身動きが取れなくなってしまった。
まるで重圧が意思を持ち、身体にまとわりついている様だった。

和やかなムードは、一瞬にして掻き消されてしまった。

「カイン、君には落胆した。君には私が統べる素晴らしき世界

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輪廻の風 2-44

「ど…どんだけ壮絶な幼少期を過ごしてんだよオメェら〜!今まで辛かったな〜…苦しかったなあ〜…。」
話の全てを聞き終えたポナパルトは涙を流し、鼻水を垂らして深く同情していた。

「…カインは、初めから死ぬつもりだったのよ…。エンディに隔世憑依のやり方を思い出させて…エンディがイヴァンカを斃してくれると信じていたのよ…。そして全ての罪を償って、全てをエンディに託して、最期は自決する道を選んだんだわ…。

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輪廻の風 2-43

解き放たれたイヴァンカは、真っ先に実父のレイティスを殺した。
そして自身の血統であるレムソフィア家の者を1人残らず惨殺した。

幼い頃から自分のことを忌み嫌い蔑んできたレムソフィア家の者たちに対する憎悪の念を発散させたのだ。

その次は、投獄されている際に檻に忌々しい魔術を施したユリウス家の人間を皆殺しにした。

しかし、その魔術は上手く利用すれば自身にとって有益になると判断し、まだ幼い魔術使いで

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輪廻の風 2-42

カインがメルローズ家の陰謀を知って5日が経過した。

この日の真昼、ウルメイト家の居城にはノストラとバスク、アマレットが遊びにきていた。

3人はエンディ、アッサム、アミアンと卓を囲み、アミアンが焼いたクッキーを食べていた。

「すみませんアミアンさん、自分までご馳走になっちゃって…。」
バスクが遠慮気味に言った。

「気にしないで。たくさん焼いたからどんどん食べてよ!」
アミアンは人数分の紅茶を

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輪廻の風 2-41

「エンディ、勝負だ。今日こそ決着をつけてやる。」
カインはあの日以来、連日の様に"決着をつける"という事を口実に、エンディのもとを訪れていた。

その都度エンディは「はいはい」と軽く受け流していた。

カインは、"他の一族と馴れ合うな"という父の言いつけを破っている自分に、些少の罪悪感を抱いていた。

2人はいつも城下町を遊び歩いたり、山の中を走り回っていた。

アマレットは、そんな2人の背中をず

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輪廻の風 2-40

「なんだてめえ?誰に向かって口聞いてんだ?」
カインはギロリと鋭い眼光でエンディに凄んだ。

しかし、エンディは全く物怖じせずにいた。

「俺はウルメイト・エンディだ!お前がどれだけ偉いか知らないけどな、その人達を殺したら俺が許さないぞ!」

「ウルメイト…?お前ウルメイト家の者か?」

ウルメイト家とメルローズ家は500年前から先祖代々、レムソフィア家に仕えるユドラ帝国の2大貴族だった。

穏や

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輪廻の風 2-39

真実の定義とは何か。

そもそも真実と呼べるものなどこの世に存在するのだろうか。

歴史の真実など、語り手の主観や忖度、或いはその時代の勝者の権力濫用により幾らでも改竄できる。

悲惨な歴史を語る資格を最も有している者は無抵抗の罪なき犠牲者だ。

しかし、口を無くした死人は何も語る事が出来ない。

真実とは常に、唯一無二でなければならない。

闇に葬り去られた歴史は、数少ない生存者によって語られる

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輪廻の風 2-38

「ディフェーザ!!」
アマレットは大慌てでそう唱えた。
すると、周囲に正方形の空間が出現した。
その空間はロゼ達を囲い、カインの放つ熱気からかろうじて身を守る役割を果たしていた。

「モスキーノ!あれはやべえぞ!お前の氷でなんとか出来ねえのか!?」
ポナパルトは珍しく取り乱していた。

「無理だね。大気中の水分が乾燥し切ってて、氷を創れない。」
モスキーノは諦めた口調で言った。

アベルも水を一切

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輪廻の風 2-37

「エンディ、やっぱり生きてたんだ。良かった。」
「よう、元気そうじゃねえかよ。俺は生きてるって信じてたぜ?」
ラベスタとロゼは、エンディの生存をその目で確認し安堵していた。

しかし2人のこの言葉に、エンディは何の反応も示さず、ただカインを直視しているだけだった。

そんなエンディに、皆不気味さを感じずにはいられなかった。

「エンディ…?」
ラーミアはエンディの発する不穏なオーラに、若干の恐怖心

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輪廻の風 2-36

今から20年前のユドラ帝国は、イヴァンカの父レイティスが統治していた。

イヴァンカがパピロスジェイルに投獄されてから2年目の年だった。

その頃のウィンザーは、ヤンチャな少年気分が抜け切らない20歳の青年だった。

「やべえっ!また遅刻だ!」
ウィンザーは急いでノストラの居城に向かっていた。

師匠であるノストラに毎朝稽古をつけてもらっていたのだが、毎朝毎朝寝坊しては遅刻していた。

「おはよう

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輪廻の風 2-35

「あれま、お仲間が2人やられちゃったね。弔いの言葉の一つでもかけてあげたら?」
モスキーノは嘲笑しながら言った。

2人の同胞が目の前で戦死したというのに、ウィンザーとバルディオスは顔色一つ変えず、微塵も心を痛めていなかった。

「ロゼ達の傷が着実に癒えてきているね。危険を冒してまでラーミアを奪還したのは、戦力となる手駒を増やす為か?」
ウィンザーが尋ねた。

「ははっ、手駒って…人聞きが悪いなあ

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