輪廻の風 (41)


時刻は午後18時をまわり、外は薄暗くなっていた。

城下町とパニス町付近の住人達は皆、軍の演習場にある大きな施設に避難していた。
そのため町は静かだった。

エンディ、カイン、ダルマインの3人は王宮の正門前に立っている。

王宮の周辺とその敷地内には、軍隊と保安隊、近衛騎士団の兵士たちが身を潜めて見張っている。

ロゼの居城の前では、サイゾーとクマシスが警備をしていた。

王宮周辺は異様な静けさが漂っていた。

「おいサイゾーにクマシス、お前ら中に入れよ。」ロゼは警備に没頭している2人を気遣うように言った。

「いえ、そういうわけには…。」
サイゾーは遠慮をしている様子だった。

「ラーミアがメシ作ってくれたんだ。せっかくだからみんなで食おうぜ?」

「それではお言葉に甘えて。」
クマシスはそう言って図々しくロゼの居城に入っていった。
サイゾーはクマシスの無礼さにヒヤヒヤしながらも、後に続いた。

細長いテーブルの上には大量のローストビーフと生ハムサラダ、ソーセージにパンが置かれていた。
エスタ、モエーネ、ジェシカの3人は既に着席していて、早く食べたそうな様子だった。

「さあ、みんなで食べましょう!」
ラーミアは気丈に振る舞っていた。

すると、少年が何かにつまずいてバタンッと勢いよく転んだ。

「あの者は?」サイゾーが少年を見ながらロゼに聞いた。

「最近王宮で働き始めた新米給仕だ。たしかアルファって名前だったかな?ラーミアが教育係として色々教えてやってるところだ。」

「アルファ君、お手伝いしてくれてありがとう。一緒に食べよ?」ラーミアが言った。

「そ、そんな!ボクなんて何の役にも立ってないのに申し訳ないです…。ごめんなさい。」卑屈な性格が滲み出ていた。

アルファは度数の強い丸眼鏡をかけた銀髪のボサボサ頭で、とても鈍臭そうな少年だった。

「いいからいいから」とラーミアに手を引っ張られてアルファも席につき、全員はようやく食事にありつけた。

玉座の間では、ポナパルトとバレンティノがレガーロの警護をしていた。

「全く、あのバカ息子は何を考えているのだ…。ところでモスキーノは何をしている?」

「それがどこにもいないんですよ。招集無視して何やってるんでしょうね?」ポナパルトが大きな声で答えた。

「フフフ…まあ、俺たちがいれば問題はないですよねえ。あいつにも何か考えがあるんだと思いますよ。」バレンティノは余裕がある感じで言った。

「マフィアが1歩でも王宮の敷地に入ったら、1人残らず殲滅しろ!」
レガーロが貫禄のある顔つきでそう言うと、ポナパルトとバレンティノは玉座に向かってひざまずき、頭を下げた。

正門で見張りをしているエンディは、不気味な静寂さに疑念を抱いていた。

「静かだな…。」
「そうだな。」カインは珍しく、エンディの独り言に反応した。

「今日は来ねえんじゃねえか?もう帰ろうぜ。」ダルマインは退屈そうに寝っ転がっている。

すると、遠くから2つの人影がこちらに向かってくるのが見えた。ノヴァとラベスタだった。

「きた!って…え?2人だけ?」
エンディは思わず拍子抜けてしまった。

「まさかお前ら、襲撃はやめて和解にきたのか??」エンディは淡い期待を抱きながら言った。

「うるせえよ。お前らそもそも話し合いなんかする気ねえだろ?王宮の中も外も大量の兵士が待機してんじゃねえか、バレバレだぜ?」ノヴァはニヤニヤしながら言った。

「俺たちの部下がそろそろ襲撃にくるはず。」ラベスタが言った。

「ハッタリかますなよ小僧!全然そんな気配ねえじゃねえか!どうせ怖気付いて逃げたんだろ!?」ダルマインは嘲笑うように言った。

「パニス町から王宮の庭園まで続く地下通路を通ってるから気配がないのは当然。苦労したよ?4年もかけて作ったんだから。」
そう言い放ったラベスタは無表情だったが、その瞳の奥からは冷酷な凄みを感じた。

ラベスタの言葉を聞いたダルマインは青ざめた顔をしている。

エンディは冷や汗をかきながら、恐る恐る後ろを振り向き、正門の隙間から庭園を凝視した。

すると庭園の土を突き破り、武装した多くのマフィア達がなだれ込んできた。

庭園内はたくさんの怒声が飛び交い、一気に騒がしくなった。

そしてマフィア達は、王宮目掛けてロケットランチャーとグレネードランチャーを連射し始めたのだ。

荘厳な王宮は一部崩落して燃え盛り、騒然とした。

それを確認した軍隊と保安隊、騎士団の連合軍はすぐさま駆けつけ、王宮内は瞬く間に戦場と化した。  

開戦の火蓋は切られた。

「行くぞっ!」ノヴァが言った。
ノヴァとラベスタは正門目掛けて正面突破を計ろうと、エンディ達に向かって走り出した。











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