輪廻の風 (46)


「うわあ!なんだこれ!?」
エンディは、突如樹海と化した城下町の様子を窓から覗き見ると、驚いて飲んでいたお茶をこぼしてしまった。

「ちょっと何よこれ!?」
「どうなってるの…?」
ジェシカとラーミアは両手で口を覆いあんぐりとしている。

「間違いねえ、アズバールの仕業だな。」
カインはこんな状況でも、いつも通り冷静だった。

「うおっ、なんだよこれ!すげえぇ!!」
クマシスは目をキラキラと輝かせながら窓から外へ出て、密林地帯へと入っていった。

「あ!ずるいです〜クマシスさん!ボクも〜!」アルファも楽しそうにトコトコと着いていった。

「ちょっとアルファ君!危ないよ!」
ラーミアは窓から顔を出して注意した。

「あいつら、この国最後の馬鹿だな…。」
サイゾーはクマシスとアルファを見ながら、心の底から呆れた感じでぼそっと呟いた。

ロゼは兵を率いて王宮に戻ろうとするも、突然出現した密林の中で方向感覚が麻痺し、迷い込んでしまった。

「くそっ!どこへ進めばいいんだ!?」
珍しくピリピリしているロゼに対して、エスタとモエーネは気を遣っている様子だった。

すると、演習場の方から大きな声が聞こえ、町中に響き渡った。

「聞こえるかあ?バレラルクのクソども!」

どうやら、インドラに搭載されている拡声器を使用しているようだった。

声の主はギルドだった。

「この声…ギルド総帥だわ!」
「ええ、間違いないわね。」
ラーミアとジェシカはすぐに気がついた。

「城下町を覆い尽くしている木は見えるか?こっちがその気になれば王族も兵士も、避難している国民も、容易く虐殺できるぜ?てめえらの命はすでに俺たちが握っているんだ!」ギルドは甲高い声で言った。

「命を握っている…そうか、アズバールは木を操ると聞いたことがある。この無数の木でいつでも俺たちを殺せると脅しかけているんだな…!」サイゾーは悔しそうな顔で言った。

「死にたくねえよなぁ?じゃあラーミアをこっちに引き渡せ!そうすりゃ大人しく引き上げてやるし、城下町を覆い尽くしている木も元に戻してやる!期限は今から12時間後だ!それを過ぎたら…皆殺しだぜぇ!?」ギルドはニヤリと不敵な薄ら笑いを浮かべながらそう言って、拡声器のスイッチを切った。

「これでいいんだな?アズバール。」

ギルドの後ろにはアズバールとジャクソンが立っていた。

「アズバールさん、なぜ半日も猶予を与えるんですか?」ジャクソンが聞いた。

「時間が長ければ長いほど、精神的動揺は大きくなるもんだぜ?まあ、ラーミアを渡そうが渡さまいが、ディルゼンが焼け野原になる事に変わりはねえけどな。」
アズバールは冷酷な顔でそう言った。
ギルドは少し背筋がゾクっとした。

「はっ、まあいい。国民を人質にとってれば目障りな3将帥も手出しはできねえだろ。で?お前はこれからどう動くんだ?」
ギルドがアズバールに聞いた。

「俺はこれから外に出る。どうしても殺してえ野郎がいるんでな。」

アズバールがそう答えると、ギルドは激しく怒鳴り散らした。

「はぁ!?てめえ馬鹿か!?てめえは絶対に動いちゃダメだろ!もし将帥の誰かと鉢合わせたらどうするんだ!?てめえが殺されたら俺たちの世界征服の野望はどうなるんだよ!!」

「おい、誰が誰に殺されるって?」
アズバールは恐ろしい目でギルドをぎろりと睨みつけた。
ギルドは恐れ慄き、床に尻もちをついた。
ジャクソンも少し肝を冷やしているようだ。

「クククッ、心配すんな。隠密行動は得意だからな。」アズバールはそう言って、インドラのコックピットを出た。
後を追ったジャクソンが恐る恐る質問をした。

「アズバールさん…殺したい相手ってまさか…?」

「このオレをコケにしやがったあの金髪だけは許さねえ。必ず殺す。」
アズバールは血走った目でそう言った。

インドラの周りは無数の大木が囲んでいた。
その大木の周りを、旧ドアル軍の戦闘員が複数人で巡回している。

そして城下町の住人が避難している施設には、機関銃を構えた戦闘員が数人入り込んでいた。
住人の中には幼い子供たちも数多くいて、ひどく怯えている様子だった。


ロゼの居城では、ギルドの宣戦布告とも取れる声明にみんな激しく憤りを感じていた。

「何がラーミアを引き渡せだ!ふざけんな!」エンディの顔は怒りに満ちていた。

「でも、私が大人しく言うこと聞けばみんな助かるんでしょ…?」
ラーミアはいつだって自分よりも他人のことを考えていた。
自分のせいで他のみんなを危険な目に遭わせるわけにはいかない、という気概が感じられた。

「だめだラーミア!あんな奴らの言いなりになる必要はない!」エンディが大きな声で言った。

「ラーミアを渡せば引き上げる…か。あのギルドって男がそんな約束を守るとは到底思えねえな。」カインが言った。

「カインの言う通りね。引き上げるフリをして何か仕掛けてくるに違いないわ。」
ジェシカは人差し指と親指であごを触りながら言った。

サイゾーとクマシスは深刻な顔で沈黙している。

「ボク…ラーミアさんがいなくなるなんて嫌だ…!ラーミアさんがいなくなったら、誰がボクに仕事教えてくれるんですか?みんなでラーミアさんを守って戦いましょうよ!」
アルファが涙ながらに訴えた。

「アルファ君…。」ラーミアはアルファの優しさを嬉しく思った。

「よく言ったぜアルファ!やっぱお前、男だな?」
ロゼがエスタとモエーネを連れて部屋に入ってきて、感心するようにそう言った。

「若!無事だったんですね!」ジェシカは安堵していた。

「ああ。道に迷うし歩きづれえし大変だったぜ?」ロゼは少し疲弊しているようだった。

「ラーミアの能力はバレラルクに必要だ、敵に渡すわけにはいかねえ。だがな、それ以前にラーミアはバレラルクの大切な国民だ。愛すべき国民を下劣な侵略者になんか絶対に渡さねえ。国民1人守れねえようじゃこの先誰も守れねえし救えねえだろ?だから何がなんでも俺たちで守り抜くぞ!」
ロゼは気迫に満ちた表情で言った。

「まっ、当然だよな?」エスタはすかした態度で言った。

「ラーミアはお友達だもん!絶対私が守るんだから!」
「ちょっとモエーネ?ラーミアは私の友達よ?」モエーネとジェシカはこんな時でも張り合っていた。

「ラーミアの為なら俺はいつでも死ぬ覚悟はできてるぞぉ!!」
「クマシス、お前ラーミアのこと好きだったんだな?」サイゾーは疑惑の目を向けながら言った。

「絶対守るからな。」エンディはラーミアの手を握り、優しい顔で言った。

「エンディ…みんな…ありがとう…。」
ラーミアは涙ながらに感謝の気持ちを述べた。
みんなの優しさに包まれて、室内にいるはずなのに心地いい風に吹かれているような感覚に陥った。


その頃ダルマインは、森の中を逃げ回り、木の上によじ登って隠れていた。

「ちくしょうギルドの野郎…俺が殴ったこと絶対に根に持ってるはずだ…見つかったら殺されるぜ…でもどこに逃げれば…!」
ダルマインはガタガタ震えながら、今後の自分の身の振り方を真剣に考えていた。

そして、良い考えを思いついてピタリと震えが止まった。

「そうか…もう一回ラーミアをさらってあいつらに引き渡せばいいんだ…!そうすりゃ流石に許されるはず!!ギルドのことだからラーミアを手に入れたら例の光線をディルゼンにぶっ放すはずた…そしてバレラルクの王族と3将帥が死ねば…天下を取ったも当然!!ドアル王国復興!!そしてオレ様は再び幹部に返り咲く!!」
こんな作戦を閃いたダルマインは、今までにないくらい卑劣な表情でニヤニヤしていた。









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